ベガーズオペラ

1/30・31 『ベガーズ・オペラ』 日生劇場

この舞台を18・19日と前楽・楽と計4回観たが全部を纏めた感想を書きます。

原作=ジョン・ゲイ

演出=ジョン・ケアード

出演

内野聖陽:マクヒース(マッコリ)

高島政弘:ピーチャム(ジョン・ジョンソン)

橋本さとし:トム(フィルチ)

村井国夫:ロキット(ジェイムス)

金田龍之介:老役者

島田歌穂:ルーシー(エリザベス)

笹本玲奈:ポリー(マーガレット)

森公美子:ピーチャム夫人・ダイアナトレイプス(モリー・コシファン)

日本で初めて上演されるミュージカル『ベガーズ・オペラ』

私はそれほど観劇暦が長い訳ではないが、嘗てこのような作品は無かったのではないだろうか? 舞台上に観客席が設けられていたのも異例だし、休憩時間に役者さん達が客席で観客と触れ合う舞台は観た事が有るが、それが素の役者ではなくて何処までもベガー役に徹していたり、山の様な食べ物をプレゼントするなんて何もかもが異例尽くめの舞台だったような気がする。しかも公演が進むにつれて段々にエスカレートして行き、それもこの舞台の売りになっていったようだ。だがこれが舞台と客席が一体となるとても楽しい雰囲気を作り出したことも確かだ(^^♪

早くから公式HPで公開されていた舞台のセットは実際に見ると想像以上に凄いものだった! 壊れかけた古い劇場という設定で舞台に組まれていたのは、がっしりとした木組みの半地下を入れれば3階建ての、まるで工事現場の足場を思わせる昔の劇場で、一番上では踊りも出来るぐらいに頑丈に作られている。この3階建ての中の到る所に階段があり、役者さんたちが其処を駆け上り、駆け下る。それだけでも役者さんたちにはかなりの重労働だと思ったが、その役者さんは3時間40分の間、ホンの少しの休憩をしただけで後は居場所を変えながらライトも当たらないけど舞台の何処かで芝居を観ていて、その場所でアンサンブルとして合唱に加わる。休憩時間になると客席のあちらこちらに現れて色んなパフォーマンスで笑わせていた。

だがこの時の役者さんたちは、あくまでもベガーなのだ(^^) このベガーと言う意味はこの舞台ではさかんに乞食と言っていたが、ジョンケアードの説明によると『貧民』つまり町で暮らす貧しい人たちの事で大道芸人や娼婦や普通の人々。同じジョンケアード演出の『レ・ミゼラブル』も貧しい人々の事だが、こちらは救いようのない暗いお話だった。が、この『ベガーズ・オペラ』に登場する人たちは貧しさを撥ね退けようとする逞しさと明るさが有る。法律が有っても無いに等しく、物事は全てお金で解決する。地獄の沙汰も金次第・・・、だから人々は金に群がり金儲けに執着する、身分さえ金で買える、そんな時代の物語。

1幕

開演前になると老役者(金田龍之介)が舞台に現れて舞台上の観客に指示して掃除をさせる。

そして口上が始まり、この古びた劇場をベガー達の1日だけの公演に貸す事にしたと。やがてガヤガヤと騒がしい話し声や歌と共に客席後方からベガー達が登場してくる。

このベガー一座の脚本家はトム(橋本さとし)、橋本さんの歌は声も良いしとてもお上手! メガネをかけ髪を後ろに束ねている姿は、時にジョンレノンの面影を連想させた。

舞台上手奥には生バンドが控えており、マエストロも老役者の紹介に併せてワインを飲む仕草をしたりして、ベガー一座としての演技をしている(笑)

ベガー達が古びた劇場を借り切って行う1回限りの舞台が始まった

ピーチャム(高島政弘)と妻(森公美子)は盗賊達が持ち込む品物を買って金儲けをしているが、もう一方で彼らを密告して報酬を貰うという生活をしている。だが今はキャプテン・マクヒース(内野聖陽)に心を奪われている一人娘のポリー(笹本玲奈)の事で頭を悩ませている。なんとポリーはマクヒースとこっそりと結婚してたのだ。ピーチャムは逆上する。この時森ピーチャム夫人が逆上して舞台でひっくり返り、ジンを飲ませてもらう場面が有るのだが、高島さんがそれとなく森さんの太腿を抑えていてそれを頼りに森さんが腹筋を使って起き上がるのだが、楽の日に起き上がれなくて森さんが吹いちゃった??(^^)

結婚は未亡人になって夫の財産を受け継ぐ事、それ以外に結婚の意味はないと言い張るピーチャムだが、あの勇気と才覚を持つマクヒースは自分達に大きな利益をもたらしてくれる掛け替えのないパートナーだと心がゆれる。だが何れ彼は死刑台に送られる定め、それならば密告する事も自分達の利益になると喜んでくれる筈・・・、スゴイ理屈(笑)キャプテン・マクヒースは40ポンドで密告すると言う。

そんな両親の話を聞いたポリーは別れるのは淋しいが生きていれば両親と和解する日も有るだろう、と自分の部屋に隠れているマクヒースを逃がす事を決意する。

ジャーーーン! 音楽と共に赤いコートを着て両手を広げて建物の中2階に現れた笑顔のマクヒースは・・・、まるでやんちゃ坊主の雰囲気??(爆)折角あの才覚、あの英知とピーチャムガ褒め上げているんだから、出だし位はもっと颯爽とした粋な男で登場すればいいのに・・・(笑)  だが階段をサーッと駆け下りてくる身の軽さはやはり内野さんだゎ?!(^^)

そして甘い言葉を語りポリーと愛の歌を歌う。だがポリーから命を狙われている、と聞いた途端浮き足立つマクヒース、口では愛を疑われるなら俺は縛り首になると言いながら気もそぞろ・・・(笑)マクヒースってとんでもない奴!! だけど、内野さん、笑いを取るのが上手くなったよなぁ?(^^ゞ

マクヒースが逃げ出した後ポリーは会場から拍手喝さいを受けるが、途端にベガーに戻り客席に向かって笑顔でカーテンコールのような御挨拶??! 劇中劇と演じているベガー達と実際の舞台の境目が無くなっている感じ!なんかスゴイよ?!

此処で20分間の休憩に入るのだが、少し休んだだけで役者さんたちが舞台や客席や、聞く所によるとロビーにまで現れる。だが決して素の俳優としてではなく、あくまでもベガーとして・・・(笑)会場のそこかしこで笑いや拍手が起きていた。3階席では凄いバックテンを何回も繰り返し見せているベガーもいたよ。

そしてモリクミさんが舞台下手に現れて色んなプレゼントを貰うのが恒例にってしまって、竹輪を齧ったりして・・・(笑)中日頃に観た時はさほどでもなかったけど、日を追うごとにプレゼントはエスカレートして行ったようで、楽日になるとモリクミさんだけではなくて他のべガーたちも客席で様々な物を貰っているし、さとしさんも両手に提げられないほどの袋を抱えていた(笑)

う??ん 此処までくるとチョッと行き過ぎの感あり!!

2幕

会場に散らばっている役者達を呼び寄せるトム・・・、なに!このバタバタ感は・・・! さとしさんのアドリブが炸裂する(笑)

そして人生に乾杯の歌が始まる♪ これを歌う原田さんが素晴らしい!和尚さんがかぶるような帽子をかぶり良く通る声で踊りながら歌う。原田さんは「レミゼ」でガブローシュを演じていたのだそうな・・・なるほど!

逃れてきたマクヒースは仲間たちに一緒に行けなくなった事を話し、ピーチャムは仲間にとって必要な人物だから自分だけが抜けた事にしてくれと。そして仲間たちは馬車を襲撃する用意をする。舞台では馬車を組み立てる作業が始まるが舞台上に置いてある箱や机を無造作に積み上げていくとあっという間に馬車になる! これに人が乗り音楽に合わせて激しく動く度に崩れやしないかと、ハラハラ・・・。御者席に座った橋本さんが盗賊の襲撃を逃れようと鞭を振るう場面は凄かった! このシーンは座る場所によってその迫力が大いに違ったなぁ!なんといってもこれは正面から観た時の鞭の振り用だけで馬車が疾走している感じがスゴク出ていて素晴らしかった!

マクヒースが舞台上手のボックス席から男に惚れた女は馬鹿だねぇ・・、とか言いながら客席に下りてきて、観客に俺は女が好き、好き、好き、・・・(笑)此処は日によって女・女・女になった日も有ったきがするが・・・(^^ゞ

前楽の日にちょっとしたハプニングあり(笑)

舞台前方でカッコよく剣を振るっていた所、後ろに挿していた拳銃がポトンと落ちた(^^) すると会場から大拍手が沸き起こったのだ。普通こんな場合は拍手はしないと思うけど・・・(笑)これが『ベガーズオペラ』なんだなぁ! すかさず内野さんが言った!『ここで拍手は要らない・・・、芝居に戻る・・・』  アドリブなんだか本音なんだか・・・(^^♪

隠れ家に落ち着いたマクヒースは給仕(橋本さとし)に大勢の娼婦を集めさせ彼女達に囲まれて悦に入っている。娼婦の中には男みたいな変なのもいて・・・、どうしようもない男だねぇーマクヒースは・・・(^^ゞ 娼婦たちと酒を飲み踊っている内に、そのなかのジェニーダイヴァーとスーキー・ドートリー(入絵加奈子・山崎直子)の2人に自分の件と銃を奪われ、それを突きつけられ、そこへピーチャムが、ダダダッと踏み込んでくる。このシーンの山崎さんがとても綺麗! 引き立てられながら娼婦達を口汚く罵って歌う  ♪死刑台から笑い返そうー、これが最後の晴れ姿???♪  凄みがあった!

送られた牢の看守はロキット(村井国夫)で此処でもお金が幅を利かす。金額次第で手錠の重さが違う(^^)

そのロキットの娘がルーシー(島田歌穂)でマクヒースの子供を宿している。ルーシーが牢に現れると自分の事を夫だとか、口から出任せな事を並べてルーシーに言い訳をはじめ、結婚するよとまたしても指輪を取り出してルーシーの指にはめてやるマクヒース。だがポリーが牢に現れ私が妻だと言い出したからサーーー大変!!激突する2人に挟まれてラパパ・・・ラパパ・・・、と歌って誤魔化すシーンがとても可笑しかった?!

そこへピーチャムガ現われポリーを引き立てて帰ろうとする。ポリーはあの人の側にいさせて?と、柱にしがみつきならオーホレイーーオウーオウー、とこんな歌を歌いながら連れ去られていった。

すると途端にマクヒースはオイ女房、とルーシーのご機嫌を取り始め、俺に命をくれと頼みこむ。ルーシーはマクヒースがどんな男か良く知っていても愛している自分に逆らえず、牢から逃がすことを決意して手錠の鍵を外してやる。ルーシーの「あんたは私を愛していないけど・・・感謝はして・・・」に胸を突かれ 「女狐の歌」(かな?)を歌う島田ルーシーがもう素晴らしいんだぁ?! 裏切っていると判っていても、自分を愛していないと判っていても愛さずにはいられない女心を切々と歌う。涙が出そうだよ?!

マクヒースを愛する2人の女性のバトルは笹本ポリーは懸命さで頑張っているけど、ここは島田ルーシーの貫録勝ちだなぁ?。 島田歌穂さん、本当に素晴らしい!

3幕

ロキットがピーチャムのところへ情報を探りにきていると、そこへダイアナ・トレイプスがやってくる。この時のモリクミのメーキャップが凄いんだ?!!まるで歌舞伎の隈取のように顔に何本ものしわ(?)を書き、ジンを飲む時舌をぺろぺろと出す。そして声色を変えた低音で歌いだす。彼女は娼婦館の女主人のようだ。家に娼婦とマクヒースがいる事をバラシ報酬を受け取る。この3悪人が腕を組み歌う場面、ライトが下から当たりまるで亡霊のよう・・・(^^ゞ

ルーシーは自分が逃がしたマクヒースがポリーの所へ戻るかもしれないと思いポリーを猫いらずをジンに混ぜてで殺そうと思い立つ。この頃はジンを飲んで死ぬ人が多かったそうな。

だがマクヒースはポリーの所へ行かず娼婦館にいるんだよ(笑)愚痴を言いながらもおかしいと気が付いたポリーはジンを飲まない。ルーシーはポリーも幸せではないのだと気が付く。

捕まえられたマクヒースは裁判にかけられ脱獄罪で絞首刑の判決を受けてしまう。

牢獄に繋がれたマクヒースはオォーーーーッと怨念の篭った叫び声を上げる。この時の声は会場全体を震わせるほどのスゴイ迫力なんだ???!だがこの後のアカペラの歌が・・・(@_@;) 台詞とも歌とも言えない恨みの言葉・・・、心が揺れている現われと言えばそうかもしれないが、私が見た4回とも、・・・それで音程が合ってるのぉ?? 大丈夫???・・・心臓がドキドキした(笑)

仲間の2人に「ピーチャムとロキットを必ずお前達より先に死刑台へ送れ、それで俺は満足だ」と言い残す。その牢獄へルーシーやポリーが面会に来るがなんと赤ん坊抱いた母親4人も登場してマクヒースは思わず早く処刑してくれ?っと叫ぶ。皆が見守る中3階の中央にある処刑台へ連れて行かれ首に縄を掛けられ袋を被せられて・・・・、ドーンと落とされる!   途端に台の下にぶら下がったのは哀れマクヒース・・・?会場の空気が凍りついた!! いやいやお人形でしたぁ?(ホッ(^^)だが舞台上の俳優たちも会場も一瞬シーーーン、天井から放射状に薄青色のライトが照らす、・・・とその時老役者がこれは悲劇じゃないか、ハッピーエンドでないと困る、と言い出した。トムは反論したが聞き入れられず、皆が恩赦だ!恩赦だ!と叫び、ぶら下がった人形はサッと引き上げられ袋を取られて出てきたのはマクヒースではなくベガーのマッコリ君になってたよ?(笑)

トムはこの世の中金持ちも貧乏人も幸せじゃないけど罰を受けるのは何時も貧乏人なんだぁ?!と叫びながら舞台から飛び降り客席を通って会場の外へ飛び出して行きその後をルーシー、いやエリザベスかな?(笑)が追っかけてロビーで一生懸命宥めている。舞台では観客を巻き込んでダンスが始まった・・・。

いや?楽しい舞台だった!

お話そのものは暗い時代の救いのない内容なんだけど、それを底抜けに明るいベガー達が演じる事によって観た後の心が落ち込まなくて済んでいる。

現在の世界だってこの頃とそんなに変ってはいないんじゃない? 法に逆らって見せかけの儲けで上場する会社、違法と知りながら薬物の売買に手を染める若者、税金で賄われながら尚も自分の利益を確保する為奔走するお役人や議員さん・・・、探せばきりが無いくらいだーー!(笑)

パンフレットの内容もスゴク充実していて、このベガーの役造りはそれぞれの役者さんの任せられていたらしく、稽古前のワークショップでそれぞれが時代背景とか自分の役についてかなりの勉強をされたらしい。それをパンフの中で発表されていて読むのが楽しかった!そしてそのベガー達の世界でも舞台とは違ったもう一つのストーリーがあるらしい。そんな表には見えない地味な積み重ねが有って始めてこの舞台の成功が有ったのだと感じた。役者さんたちが主演の人たちばかりではなくアンサンブルに至るまで全員が素晴らしい?!

カーテンコールの御挨拶では再演も有るらしいし、地方公演も・・・、という噂が有るが、この舞台装置を他の劇場へ移す事が出来るのだろうか? 

そう考えると地方公演は無理かもなぁ?!

だが早速4月にはWOWOWで放映されるらしいしDVDも発売になる。もう一度この舞台に会える! 今はそれが楽しみ!

ベガーズオペラ

ベガーズオペラ

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-09-19

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