ロミオとジュリエット
2005/1/30 『ロミオとジュリエット』広島厚生年金会館
作=シェイクスピア
演出=蜷川幸雄
出演
ロミオ=藤原達也
ジュリエット=鈴木杏
・・・・他
このシェイクスピア作の「ロミオとジュリエット」という余りにも有名な物語を、実は私は一度も読んだことも無ければ映画や舞台でも観た事は無い。
だが敵対する両家の若い男女が恋に落ち最後に悲劇的な結末を迎える、というストーリーは何故か知っていた(^^)
だから今回の舞台は有る意味新鮮な気持ちで観ることが出来たと思う。
会場に入って最初に目に入ったのは舞台を三方から取り囲む外国人の男女の顔写真で埋め尽くされた高い壁のセット、それは3段の構造になっていて、それぞれの段に通路があるがこれがかなり狭い。写真は縦長サイズで1階部分には縦に3枚、2階と3階部分にはそれぞれ2枚づつがズラーッと並べらている。2階部分に藤原ロミオが立っていた時目測してみたが(笑)
藤原君の身長がが1メートル75センチ位として、その頭の上におよそ30センチ強の高さがあるから、1枚の写真の縦の長さが1メートルを少し超えるくらいか・・・?
とすると一階は3メートル、2階3階はそれぞれ2メートル強の高さ!わぁ?全部で8メートルにもなるよ?!そのセットの両端に廻り階段があって上から降りられる仕組み。
その3階や2階やにも沢山出入り口が有って役者さんが出入りするのだが、手摺も無いこんな狭くて高いところで演技をするなんて・・・、私のように高所恐怖症の者はとてもとても
下を見ることさえ不可能だ??(笑)
写真の顔は「愛に死んでいった若者達の遺影」だそうだ。このセットは最後まで変わることなくシャンデリアを思わせるライトが上から降りてくるとか、ベットが出てくるとか、そのくらいの変化が有るだけのとてもシンプルな舞台セットだったが、私はこの写真の壁のセットが色んな物に見えたのに本当に驚いた。
以前映画で見た「ウエストサイドストーリ」はこの「ロミオとジュリエット」を基にしたものだが、その映画の中のシーンの幾つかが突然目の前に現れたのだ。
最初は写真が埋め尽くされた壁が下町の立て込んだアパートの窓に見えたし、ロミオが上ったり降りたりする壁は映画の中で度々出てきて出演者が何度も駆け上がったり飛び降りるフェンスに思えた。またジュリエットが仮死状態で安置されている霊安室の壁はまるで石積みの地下牢のようだった。
何の変哲も無く並べられているように見える写真の高い壁がこんなに色んなものに見えたのは初めての経験だった。舞台美術ってスゴイ!・・・、そう思った。
舞台はマメ山田さんの口上から始まったが・・・、意味が全然理解できない・・・(;_;)
ロミオの家庭モンタギュー家とジュリエットのキャピュレット家は長年敵対している間柄で度々争い事を起こしている。そんな中、藤原ロミオが登場・・・、何時も蜷川さんの舞台は客席から役者さん達が出入りするが厚生年金会館では俳優さんの出入りは後ろではなく横から客先真ん中の通路を通る。ざっくりとした白いセーターの下にグリーンのTシャツを着た藤原君は私の席の2列位前を通って舞台へと出て行った!
ロミオは友人のベンヴォーリオ(井上顕)に想いを寄せる女性への切ない気持ちを語りながら壁に身体をぶつけてたり壁をよじ登ったりする。一階の壁の中央からやや下手に取っ手が着いていて藤原ロミオはそれを上ったり降りたり時には飛び降りたりするのだが、敏捷に素早く軽々と・・・。しかしこれってもし手が滑ったらかなり危ないよなぁ?!そう思いながら見ていた。舞台の照明が暗くなると上からオレンジ色に光る電球が幾つか降りてくるが、なんとこれがシャンデリアに見えて、たったこれだけの事で瞬時に此処がパーティ会場に早変わりしてしまう。ロミオはその女性が現れるというキャピュレット家でのパーティが有ると知らされロミオはそのパーティに現れるが、キャピレット家の娘ジュリエットはまだまだ子供、と言った雰囲気で、初めて舞台に登場した時は大きな人形のぬいぐるみの後ろに隠れるようにして現れた(笑)実はこのパーティーはジュリエットとハリス(月川勇気)とのお見合いの為に行われるはずだった。この月川さん、蜷川さんのお気に入りだそうで「ペリクリーズ」の時は女性を演じていたが、今日は鼻の下にちょび髭なんか生やしているけど、台詞の喋り方はやはり女っぽい。やがてロミオとジュリエットはダンスの輪の中に入りお互いが手を組んで踊りだすのだが、そこでお互いに一目惚れしてしまう。仮面を取りニコッと笑うロミオがとても可愛い!たちまち恋に落ちた二人は舞台の前面客席近くでキス・・・、若い二人のとっても初々しいラブシーンだ!(^^)
しかしこの舞台の台詞、特にロミオが喋る言葉が理屈っぽくて難しくて何を言っているのか全然判らない(笑) ハハーン?これがシェイクスピアかぁ??(爆) そう思いながら聞いていたが、意味がわからなくてもそれが物語の進行に全く障害にならないのが不思議・・・。場面はあの有名なバルコニーの場面に変わるのだが、なんとジュリエットは3階から現れた!高いよなぁ?!
ここで「あぁロミオ・・・、なんで貴方はロミオなの・・・?」というあの有名な台詞がでたぁ??!(笑)ジュリエットは3階から2階へ、そしてロミオは一階から二階へ攀じ登る。「ロミオとジュリエット」といえば必ずこの場面が出てくるのだが、目の前で展開するのは想い描いていたシーンとはチョッと違った雰囲気だなぁ??(^^)
ジュリエットは乳母(梅沢昌代)に、ロミオはロレンス司祭(瑳川哲郎)に二人の事を打ち明けるのだが、もうこのシーンの藤原ロミオは司祭に飛びつく抱きつく転げまわる・・・、ホントに子犬がじゃれつくように身体の大きな司祭に甘えている(^^♪ 司祭もそんなロミオがとても可愛い様子でほのぼのとしたシーンだった。瑳川さん、とても温かな司祭さん!そして梅沢さんの乳母もおどけながらもジュリエットを愛している様子はまるで母親のよう・・・。この両ベテランの演技がこの悲劇の舞台をとても和らげていた。その悲劇が起きる!キャピュレット家の面々とモンタギュー家の者達が出会い争いになる。ジュリエットの従兄弟のティポルト(横田栄司)がマキューシオ(鈴木豊)を刺し、これに怒ったロミオがティポルトを刺す・・・、もうこの辺りでは「ウエストサイド」のそのままのシーンが目の前で展開していた。エスカラス大公(清家栄一)の命よりロミオは追放となるが乳母の手引きでジュリエットの部屋で二人は一夜を過ごす。
そこへジュリエットの両親が(壌晴彦・立石涼子)が来てハリスと婚約をするように告げる。困ったジュリエットは司祭に相談に行くと司祭はある秘策を授ける。この薬を飲めば42時間眠り続けるので葬られた後必ずロミオと助けに行くからと・・・。ジュリエットは自分の部屋に帰りその薬を飲んで仮死状態になるが、その経緯を書いた司祭の手紙が手違いでロミオのところへはジュリエットが死んだ事だけが伝わってしまう。絶望したロミオは自分も死ぬ事を覚悟して薬を手にいれジュリエットが眠る霊安室へやってくるが、この時は3階から脇の階段を火の付いた松明をもって降りてくる。2段目にも1階にも死者を入れた櫃が置かれているこの霊安室が本当に石積みの地下室に見えた。余談だがロミオが火の付いた松明(・・・これ外国ではなんと言うのだろう?)を階段の脇に挿すのだが、これ壁に燃え移らないかぁ???と本気で心配してしまった(笑)
ロミオがジュリエットの側に来ると其処にはハリスがいて忽ち剣を抜いた争いになりロミオはハリスを刺してしまう。薬を飲んだロミオはジュリエットの上に被さるように倒れる。やがてジュリエットは目を覚まし、其処へ司祭が現れて事の次第を話し一緒に逃げようと言いながら自分だけあたふたと出て行ってしまうが、ジュリエットはロミオの剣で自分の胸を刺しロミオの後を追う。2人の死がきっかけで長年敵対してきたキャピュレット家とモンタギュー家は手を取り合って仲直りをする場面でこの悲劇の物語は終わる。
ジュリエット役の鈴木杏さんも蜷川さんのお気に入りらしい。このジュリエットもとても熱演では有るが、ロミオが一目惚れするほどの魅力ある少女には見えなかったのが残念だった!
藤原ロミオは登場した時は若々しくてとても可愛いいのに、それが恋をした途端に必死な姿に変わるのがとても熱く感じられた。例え台詞の意味が判らなくても喋り方はとても滑らかだし、本当に舞台の藤原君はいつも熱いよね!
そしてこの壁で囲まれた舞台の中を本当に激しく上から下へ・・・、下から上へ・・・休む間もなく動き回る。舞台のあの壁を何度昇り降りしたことだろう? 若いから出来るのかもしれないけど本当に過酷なセットだよ!
しかし舞台を観始めた途端に何の前触れも無く突然に「ウエストサイドストーリー」の場面がフラッシュバックのように目の前に現れたのには自分自身が本当に驚いた!
舞台の進行の場面で沢山の顔写真はライトの当て方で色んな表情を見せるのだが、これに全く捉われる事が無かったのがとても不思議な気がする。
ロミオとジュリエット