モンテクリスト伯
2004/7/27・28日 『モンテクリスト伯』アートスフィア
文学座公演
エドモン・ダンテス/モンテクリスト伯=内野聖陽
メルセデス=塩田朋子
アルベール=浅野雅博
ファリア司祭=関輝男
ヴィルフォール=若松泰弘
ダングラール=高橋耕次郎
フェルナンー=瀬戸口郁
ルイジバンパ=松井工
カルドッス=吉野正弘
マクシミリアン=城全能成
アンドレア/ベネデット=長谷川博己
エデ=山田里奈
その他
初演から3年経過した。この舞台は私にとって特別思い入れのある作品で・・・(笑)
大幅な変更は無いらしいが大変良くなっているのとの噂に期待を膨らませて観劇日を待ったが期待に違わず素晴らしい舞台に出会えて、
今なんだか幸せ感に包まれている(笑)
初演と比べてすっきりと纏まりテーマがより一層はっきりとしてとても良くなっていた!
オープニングのセットは前回同様2階建ての回り舞台だが細かい部分のデザインが変更になっているようだ。
そして前回同様カンテラを下げた牢番の男に案内されてイフ城の地下牢へ入ってくる所から舞台は始まった。
第一声はかなり抑えた声で経緯を聞いていく。そしてあの2階へ駆け上がり紋章の前でマフラーを取り、始めて顔を見せキッと前方を睨んで決めポーズを取る!だがすぐ舞台が下手に半回転、初演で話題を呼んだ見得は今回はかなりアッサリ目・・・(笑)でもやはり此処で拍手が来た--!
だが伯爵姿のこの髪型がとても良いんだ!やや白髪の混じったストレートの髪を右に流して纏めている。若い頃のダンテスの髪が地毛だろうからこれは多分鬘だと思うがステキに似合っていて落ち着きと貫禄の有るモンテクリスト伯爵さま・・・!!(笑)
場面は一転マルセイユ港のシーンへ変る。
内野さんは21歳(なんと一つ年を取っている!(^^ゞ)のダンテスを初演時は若さを出そうとややオーバー気味にはしゃぎまわっていたが、色を抜いた毛先にパーマをかけただけの姿の今日のダンテスは力みが消え、ナチュラルな演技でこの方が若く見えたよ。メルセデスとの再会の場面ではラブラブ度が数段アップ(笑)塩田さん、肌を艶やかに見せるとかメーキャップに工夫が有ればもう少し若く見えたんじゃないかしら? たしかに塩田さんの年齢になれば3年の年月は厳しいねぇ〜(笑)新しいメンバーに加わったダングラール(高橋耕次郎)とフェルナン(瀬戸口郁)も登場したが、高橋さんはオーバー気味の演技で存在感のある悪役ダングラールだったし、フェルナンはなんだかヴィルフォールに良く似ているな!が第一印象。そして婚約披露パーティの場面に変る。実はこのシーンでは私は内野さんのダンスではなく浅野さんに惹きつけられてみていた(笑)始まると同時に軽快に踊りながら登場してくる。役名は無くてパンフに載っているのは「披露宴の客1」なんだけど、軽々と踊るその姿に目を奪われ、メルセデスにチョッカイを出してダンテスに弾き飛ばされるまで・・・(笑)ズーッとその姿を追っかけていた。この飛ばされる時の2人のタイミングが余りにもピッタリで何故か笑いがこみ上げてきた・・・(爆)
そしてこの幸福の絶頂で逮捕されイフ城の地下牢へ押し込められる。
この牢の中でもう9年が過ぎようとしている。先の見えない絶望に打ちひしがれている時メルセデスの幻を見た。
実は初演の交流会の時、内野さんに、この場面での2階部分での無言劇がわかり難い、と言った事が有って、それを覚えていた訳でもあるまいが(笑)今回はメルセデスが一人で牢の中に現れダンテスの後ろに立った!本当に幻のように・・・。だがこの方が絶対に説得力が有ると思うよ!そして「神よ!我より記憶を奪い給う事なかれ」と柱に刻む。
やがて穴を掘り進んできたファリア司祭と出会う。2人とも人間らしい会話を交わすのは何年ぶりだろう・・。その変な出会い方に思わず笑い声を上げながらお互い歩み寄り堅く抱き合うが、恐らく牢に入って始めて人間らしく笑えたのだと思えばスゴク切なかった!そしてもう一つのシーン、ファリア司祭がダンテスが陥れられた謎を解き明かす場面も初演では2階で有った無言劇が1階に下りてきた(笑)舞台下手で3人がテーブルを囲みダングラールが左手で告訴状を書いている。司祭の説明にあわせるようにダングラールが左手をこれ見よがしに大きく振り上げながら書き、それをフェルナンが拾って舞台の前を横切って上手に消えていった。随分判りやすくなっているじゃないの〜!(笑)
そして死んだ司祭に替わって袋に入り海に投げ込まれるシーンでは「ウォ―ォ---!」という叫び声が聞こえた。
2幕はルイジバンパ(松井工)の二十数年の経過の説明から始まる。犯した罪はいずれ償わねばならない・・・、この松井さん、初演の時はスゴク良いと思ったけど今回は少し影が薄かったかな。周りの若い人たちがそれぞれに成長し、存在感が出始めたのでその中に埋もれてしまったのかもしれない。その一人アンドレア・カバルカンティを演じる長谷川博巳さんが良いんだ!まだ準座員だそうだが背も高くとてもハンサムなんだ!初演の方は些かしょぼくれていて大富豪カバルカンティ伯爵の息子と言われも納得が出来なかったがこれなら騙せるよねぇ〜(笑)初演の城全君も当時準座員だったが今回の舞台ではスゴク大きく見えた。彼と同じように長谷川君もこれを機会に伸びていくんだろうな!
そしてモルセール伯爵邸でのパーティの場面に変わる。モルセール家の一人息子のアルベールがモンテクリスト伯爵との出会いの訳を説明している所へ2階から伯爵が貫禄充分にゆっくりと登場!そして一人一人登場人物を紹介していく。おぉ〜フェルナンもダングラールも居る!年を経て現れたダングラールはなんとスキンヘッドになっていて(笑)声も演技も大きく、とてもわかり易い憎まれ役―――っだったよ!やがてメルセデスが姿を現す・・・、だが伯爵は何十年ぶりに見るメルセデスとの再会の場面でもそんなに大仰な素振りは見せな い。そりゃそうだよね。逢う心積りで来ているんだから・・・(笑)薦められる食べ物を全て拒否する伯爵、だが原作を読んでいない私にはこの場面の葡萄を落とす意味が今だに判らないでいる(苦笑)
やがてサンメラン公爵が死んだとの知らせにパーティはお開きとなる。ダングラールの家を出た伯爵とルイジバンパは2階部分での会話になるのだがこの時「エデはどうしたっ!」と語気鋭く尋ねる。初演の時から一体何を怒っているのだろう?と不思議に思っていたのだが、今回はそれはメルセデスに再会した反動で堪らなくエデに逢いたくなったのかなぁ、と感じたのだがどうだろう? 自分の心に押し込めていたエデへの愛に気が付き始めたのではないかと・・・。そのエデ(山田里奈)との絡みがスゴク良くなっていて、これが再演の舞台が素晴らしいいと感じた鍵になったと思う。エデの部屋の入り口にカーテンが掛かったのも雰囲気が良いし、そのカーテンの外から躊躇いながら、入っても良いかね、と尋ね、そっとエデの手にキスをしようとして手を引っ込められ、こちらにキスを・・・と目を瞑り顔を上向けてねだる素振りのエデに迷いを見せる伯爵がいる。エデは復讐の道具の為に買った奴隷の筈だった!だが今はそれだけでは無くなっている自分の心に動揺している様子が良く判る。山田里奈さんはいじらしいほどひた向きに伯爵を愛するエデを懸命に演じていた!やや堅さも感じるけど、背も小柄で伯爵と並んで立っている姿は年の離れた幼いエデを現しているようで、2人の関係にピッタリだなぁと思う。初演では鬼頭さんのエデと伯爵との間に全然愛が感じられなくて、それがこの作品のテーマである「希望せよ!」をぼかしてしまった致命的な原因だったと思っていたので今回はスゴク納得できたのが嬉しい。
どうやらヴィルフォール家に次々と起きる不幸は全て伯爵が授けた薬によってエロイーズがやっているらしい!仕掛けておいた罠が次々に効果を現し始め長年に渡り準備を重ねてきた復讐がいよいよ始まる!場所はオートイユの屋敷のパーティに変わり、この屋敷の謎を仄めかす伯爵に動揺を隠せないダングラールの妻エルミーヌとヴィルフォール、そしてモルセール伯爵の過去をエデが自分の生い立ちも含めて「裏切り者、フェルナンモンデゴ!!」と言葉も鋭く暴いていく。モルセールの息子アルベールはこれまでの事が全てモンテクリスト伯爵の企みだったと気付き、名誉を守る為に決闘を申し 込む。ダングラールも欲に目が眩み金持ちと信じたアンドレアを娘婿にしようと企んでいたが、伯爵が呼び寄せていたカドルッスによってそれが全くの偽者でヴィルフォールとエルミーヌの不義の子ベネデットであった事がわかり、カドルッスはそのベネデットに刺されて死ぬ。豹変する長谷川君も中々良い! その時ヴァランティーヌの様子がおかしいと知らせが来る。それを聞いて高笑いをするエロイーズ・・・。
だがもうこんな所に用は無い!明日はパリを離れると決めた伯爵の計画にも予定外の事が生じ始めた。ヴィルフォールの娘ヴァランティーヌ(岡寛恵)と恩人モレルの息子マクシミリアン(城全能成)が愛し合っていると言う。そしてマクシミリアンにヴァランティーヌの命を助けて欲しいと懇願される。「なんと言うことだ!・・・」伯爵は嘆くがヴァランティーヌの命を救う段取りをバンパに言いつけ、明日の決闘の用意をしている時メルセデスがアルベールを助けて・・・、と現れる。だが初演に有ったメルセデスへの未練の場面は全く無くなっていた。アルベールの命を助けるのはひたすら我が子を思う母の姿に心打たれての事であって心の中に恋人としてのメルセデスはもう居ない。親の罪は子や孫にも及ぶのだと言いつつも復讐の鬼になりきれないエドモンは、メルセデスに自分の嘗ての屋敷と埋めてあるお金を渡してアルベールを助けることにする。復讐が終われば生きる望みもないと嘆きながらも・・・。メルセデスを帰した後、14年間の絶望の後10年にわたる準備の末に行う復讐は神の意思だと信じて来たのに道半ばでもろくも挫折した自分の意志の弱さを責め、どうすれば良いか教えて欲しいとファリア司祭に訴える。現れた司祭はそんなエドモンに第3の生を与えようと言う。過去にのみ生きてきたエドモンに生きているものを大切にして未来を生きよと!そしてエデが現れ貴方の胸に開いた穴を私が埋めましょう、と優しく寄り添う。そんなエデを見上げるエドモンにようやく未来への希望が見えてきた!
もうこの辺りになると、伯爵のこれまでの辛い人生を思い、今の悲しさがジンジンと伝わってきて胸が詰り涙がボロボロと・・・(笑)、久し振りに舞台を観て涙を流した!そして最後に3人に2階から「あの男は死にはしなかった、お前達によって葬り去られた男エドモンダンテスだっ!」と止めの言葉を投げつける。ダングラールは飢えている。ヴィルフォールは妻の企みを知ってエロイーズの首を絞めたようだ。フェルナンも妻と息子に去られて絶望している。恐らく反逆の罪に問われる事だろう。マルセイユの港にはメルセデスとアルベールの姿が有った。復讐の鬼から人間の心を取り戻した伯爵の側にはエデが寄り添っている。
でもエデと伯爵・・・軽く抱き合う位の場面が有っても良かったんじゃないかなぁ?、見たかったなぁ?(笑)これが残念だった!
最初のカーテンコールでは内野さんはまだ伯爵の雰囲気を身に纏っていて神妙なご挨拶だったが、2回目からは何時もどおり手をヒラヒラと・・・。でも此処では帝劇のようなカーテンコールは余り観たくなかったなぁ?。
モンテクリスト伯
この作品は最初は演劇鑑賞会(市民劇場)の文学座公演として企画されたものだった。
ここにUPしたものはその3年後、初演で廻り切れなかった東北方面を回る企画と共に一部一般公開された公演を観に行った時のもである。
この公演で初演でとってもみすぼらしかったベネデットの役に長谷川さんが登場したのよ・・・、初お目見えでした!(笑)
彼のお陰で随分物語に深みが出たと思っている。