夏のライター

夏のライター

 あなたは、向こうへ行ってしまうの
 ひと月前の、ジリジリ灼ける季節に
 積乱雲は、にわかな雨を呼びつけ、耳を塞ぐ
 足元も見えない奈落は、互いの体温を醒ます
 くちづけは暑さを凌ぐためにあると言った
 ワタシたちの日常は、飛沫のむこう
 安物のライターは、湿っているわけじゃない
 愛を放つ季節が、過ぎようとしてるだけ
 タバコの火は点かない


 わたしは、分かっていたのよ、たぶん
 色づいた葉がいつかは落ちて吹き溜まる場所
 空に吸い込まれた気持ちは、もうないの
 上をみていれば、涙は固まり気づかれないのよね
 寂しい唇にくわえたのは、なつかしい煙
 あなたと同じ街で暮らす、つらさ
 今頃になって、小さな炎が渇いた街を照らす
 誰にも知られない秋が、訪れた
 一人の煙は、涙ホロリ


 随分近くで、たまに見かけるあなた
 小さな炎しか照らさない、ライター
 夏の熱の名残を身体に刻んだ、なかなか点かない
 忘れ物

夏のライター

夏のライター

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-28

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