夏のライター
あなたは、向こうへ行ってしまうの
ひと月前の、ジリジリ灼ける季節に
積乱雲は、にわかな雨を呼びつけ、耳を塞ぐ
足元も見えない奈落は、互いの体温を醒ます
くちづけは暑さを凌ぐためにあると言った
ワタシたちの日常は、飛沫のむこう
安物のライターは、湿っているわけじゃない
愛を放つ季節が、過ぎようとしてるだけ
タバコの火は点かない
わたしは、分かっていたのよ、たぶん
色づいた葉がいつかは落ちて吹き溜まる場所
空に吸い込まれた気持ちは、もうないの
上をみていれば、涙は固まり気づかれないのよね
寂しい唇にくわえたのは、なつかしい煙
あなたと同じ街で暮らす、つらさ
今頃になって、小さな炎が渇いた街を照らす
誰にも知られない秋が、訪れた
一人の煙は、涙ホロリ
随分近くで、たまに見かけるあなた
小さな炎しか照らさない、ライター
夏の熱の名残を身体に刻んだ、なかなか点かない
忘れ物
夏のライター