ペリクリーズ
3月15日・16日 さいたま芸術劇場
演出 蜷川幸雄
出演 内野聖陽・田中裕子・市村正親・白石加代子他
待ちに待った「ペリクリーズ」観劇日がようやく到来!
初めて訪れる「さいたま芸術劇場」は広々とした敷地の中に前衛的な佇まい。
周りもまだまだ開発途中・・・と言った雰囲気で高い建物はあまり見当たらない、
のんびりとした風景が広がっている。
前楽・楽が初見という今回の観劇スケジュール。
すでに色々な所から、良いらしい!との情報は得ているのでスゴク楽しみだった。
16日2時開演、30分前に会場に入るとさすが千秋楽、華やかな顔ぶれが目に入った。
まずはマネージャーの土井さんが何時ものように受付の近くにいて目立っている(笑)
そのすこし後ろの方に白髪混じりの男性が立っていた。
係員の男性がチケットを持って走ってきてその男性に手渡したその時、
友人が「あの人、西川さんだよ」と囁いた。
エェッ!文学座演出家の・・・? とするとあのチケットはきっと内野さんからだ!
おぉー受付の向こう側に蜷川さんの顔も見える。
にこやかに笑いながら周りの人達と談笑している。
あの笑顔はこの公演が成功したという証かな?(笑)
客席に入るとまず江波杏子さんと小野武彦さんがもう座っている。
もう1人名前は忘れたけれど女優さんが来ている。さすがに垢抜けた感じ!
そう言えば昨夜は小林薫さんが1人で来ていたなぁ。
有名人なんて余り知らないけど、きっとまだ沢山来ているのだろうな、と思った。
さて物語はタイアの若き領主ペリクリーズがアンタイオケの美しい王女にプロポーズを
するためにやって来る
だが近親相姦の秘密を察知した為に命を狙われることになる。
追手から逃れる為に旅に出るが、そこから始まる様々な運命の出会いと別れ。
蜷川さんが「面白くない!」、内野さんが「気が進まない!」と言ったとか言わなかった
とか、話題を呼んだシェイクスピアの中では珍しくハッピーエンドの物語、なのだそうだ。
確かにストーリーとしては面白くない、と言われるとその通りだと思う。
だが私に取っては見所満載の舞台だった。
なにより内野さんがとても役を楽しんで演じていると思えたのだ。
私のお気に入りは3場面の踊りのシーン。
最初は錆びた鎧をまとい、枯れ枝を槍の替わりに持って姫の前で踊り、愛を勝ち取る剣舞(?)
笑みを浮かべながら、中腰でダダダッダンッダンッと足踏みをする。くるっと廻る、飛ぶ!
その度に鎧の裾からのぞく逞しい足の筋肉がなんとも美しいのだ! おぉー素敵!
内野さんはやっぱり踊りが好きなんだなぁ、と感じる瞬間。
次にその姫タイーサと踊るプロポーズの舞。
歌舞伎の踊りにも似たゆっくりとした二人の仕草には、とてもなまめかしい雰囲気が漂う。
最後は田中さんが純白の衣装で1人、鳥のように軽やかに、しなやかに踊る場面。
清々しさが感じられてこれも良かった。
田中さんて年齢は幾つなのだろう?と思ってしまった(笑)
この舞台の内野さんがすごく「でっかく」感じられた事がなんだか不思議。
勿論衣装も内掛けのように大きいものだったし、髪の形もバサァーと伸びていた。
ヒールのある靴も履いていた。だがそれだけではないように思える。
自信に裏付けされた存在感、と言ったようなものがより大きく見せているのかもしれない。
フアンの贔屓目だと言われればそれまでだが・・・(笑)
兎に角私のすぐ横の通路を通って舞台に上がる後姿がすご??く大きかった!
この物語の解説をするガワー役の2人、市村正親さんと白石加代子さんが素晴らしい!
特に市村さんは何役もこなしながら、節目節目で琵琶を弾き語りながら物語を進めていく
盲目のガワーに早変わりする。
これが本当にあっという間に変わっているのには何度も驚かされた。
そして白石さんにはもう脱帽! もう唸るばかり!!!(笑)
この2人が舞台に現れると笑いが起こる。
表情と言い、台詞の間と言い文句の付けようが無いなぁ。
蜷川さんの生の舞台を観るのは初めてだけど、今までに何度かTVで観た感じでは、
外国の脚本なのにセットや衣装がいかにも東洋的だな、と言うこと。
今回も豪華な刺しゅうを施した綿入れの内掛けを男性に着せたり、純白の花嫁衣裳、
披露宴に着るような真っ赤な内掛け、そしてぼんぼりの灯りやハスの花、おまけは
しめ飾りのついた松ノ木が背景に出てきたり・・・。
しかし漁師に扮する男性の、脂肪の垂れさがった褌姿は・・・どうも頂けないなぁ!(爆)
東洋的なテイストはロンドン公演を意識してなのかもしれないけど、外国の俳優さんは
年をとっても肉体の手入れは怠らないだろうから、あのプョンプョンのお尻をみたら
きっと笑うだろうな! なんか恥ずかしい(~_~;)
舞台にセットされていた水道の蛇口とドラム缶ようなバケツ、数えてみたら10組あった。
場面変換で無くなるのだろうと思っていたが、なんと最初から最後まで動かなかった。
しかし舞台が進行して行くと、その水道の存在が全く気にならなくなっているのが
なんだか不思議だった。
舞台を動き回る役者さんにとってはスゴク邪魔な物だったろうに・・・。
終わりに近く田中さんがその一つに花を挿すとそこに上からスポットライトが当たる。
それが幻想的でとても綺麗!
壁に空けられた無数の穴からランダムに降りてくる光の帯が何かを物語っているようで
引き込まれていった。兎に角ライトの使い方が素晴らしい!
とても楽しい舞台だったがひとつ気になる事がある。
それは内野さんの台詞が聞き取れない場合があるのだ。
台詞が多すぎるから・・・? 早口すぎるから・・・?
いやそうではなくこれは訓練の問題ではないかと思った。
歯切れが悪いと言うか、明瞭さが無いと言うか・・・。
私は専門家では無いから詳しいことは判らないけど、今回は白石さんの台詞が素晴らしく
よく通るので余計に感じたのだろうと思う。おまけに声は嗄れるし・・・。
俳優なんだから、それを職業としているのだから、発声の方法が悪いのなら治して欲しい。
楽日まで声が持たないなんて、そんなことではダメじゃないか!と苦言を呈して置く。
今日は千秋楽、そして蜷川さんも来ているし・・・(笑)
期待していたカーテンコールが有った! 2回!
皆にこやかに・・・、晴れやかに・・・、最後には黒子さん達も黒子を脱いで笑顔でご挨拶。
2回目が済んで全員が舞台の奥に消えていく中、一番奥で内野さんがバンザイをしながら
飛び上がるのが見えた(笑) 良かったねぇ!!
「世界の蜷川」に是非に!と、請われて出演した作品なんだから、何とか良い作品に
なって欲しいと願っていた。
ロンドン公演も是非成功させて欲しいものだ。
そしてその後の大阪公演を観るのを楽しみにしている。
でもイラク戦争が始まりそうな気配。 影響はないだろうか?
心配だなぁ。
(3月26日)
無事にロンドンに着いたようだ(ホッ)
あの日本調の衣装や人形の動き、舞台装置が理解して受け入れられるだろうか?
良いニュースが聞こえる事を期待したい。
(4月6日)
ロンドン公演は大絶賛だったと言う!!
千秋楽もブラボーの声とともにオール・スタンディング・オベイションで幕を閉じたと言う。
ネットは本当に有り難い。リアルタイムで公演の模様が書き込まれてくる。
それを遠くはなれた日本で読むことが出来るなんて・・・。
私が好きだった内野さんの剣舞がロンドンでも大いに気に入られたようだ(笑)
スタッフが真似をして踊っていたと言う。
素晴らしい、と思う感情はお国が違っていても同じなんだ!
フフフ・・・なんか嬉しい!!
4月23日 大阪ドラマシテイ
『ペリクリーズ』 大阪楽日
私の「ペリクリーズ」は今日が最後・・・。この公演ビデオ録画が有ったと言う話を聞かないので、今日が見納めになるのかもしれない。
もうあの剣舞を観る事は出来ないのか・・・? うぅ?ん、残念!
昨日マチ・ソワ、そして今日の楽と今回は3公演連続の観劇。
ドラマシティの会場に入るとロンドン公演の劇評が幾つも展示されてあった。
英語での表示に日本語の訳が付き、写真も舞台写真や稽古の模様など各新聞によって違っているが、概ねどの批評も好評のようで
うれしい。そのロンドン公演大成功を受けての大阪だ。ワクワクしながら開演を待った。
・・・と偉そうなこと言っているけど私の記憶力は全くお話にならないほどダメ(笑)
だから細かい所は抜きにして印象に残った部分のみを書いてみる。
まずライトの美しさを再認識した。10個の水道管の真上から降りてくる光はオレンジとブルーの2種類がある。
場面に応じて2本だったりオレンジだけだったり・・・。そして壁に開いた無数の弾痕から斜めに差し込む光はブルー。
静かに2種類の光が重なった時の舞台はとても幻想的でその美しさに感動!。この場面にかぶさるようにして銃弾の音、ヘリコプターの爆音、
そしてあの音楽が流れ始める。私はこの舞台のこの瞬間が最も好き!!
あのテーマミュージックが今もあざやかに耳に残っているのに、ここに表現できないのが口惜しい。
やがて傷ついた人達が徐々に登場してくる。田中裕子さんが舞台の真中にある水道の上にうつむいて髪を梳くと、バラリと髪がちぎれて手に残る。
このシーンはさいたまで最初に気が付いた。あぁ被爆者だ!・・・と思った。
内野さんは足を引きずりながら登場し舞台の中央でばたりと倒れる。そして水道の水を飲む仕草、やがて白石さんが手で合図をすると
ゆっくり立ち上がり舞台の中央に進み全員揃って礼・・・劇中劇「ペリクリーズ」の始まりだ。
このシーンを最初に計画した頃には勿論イラク戦争なんて予定には無かった筈(笑)、それがロンドン公演が行われた時は、戦争の真っ最中、
なんと言う偶然だろう。恐らくロンドンの人達は戦場に思いを馳せたに違いない。このタイミングの良さもロンドン公演成功の一因だろうと思う。
私が一番気に入っている「剣の舞」は一段と激しさを増し、踊る内野さんの表情からは、まるで少年のようなひたむきさが感じられた。
やっぱりステキッ?!・・・と、うっとりと眺めている間もなくこのシーンはすぐに終ってしまう。 あぁーもっと観ていたいっ!(笑)
早口の台詞はやや良くなったかな? でもまだ聞き取り難い所は有る。 そんなに急がなくても・・・という感じは残ったままだ。
22日お昼の公演の時お隣の方が話し掛けてこられた。京都の方だそうだがやはり同じように感じていたとか・・、初日は良かったそうだ。
ペタンポリスのサイモニディーズとタイーサとの掛け合いは益々ヒートアップ、息もピッタリ、市村さんの本領が遺憾なく発揮されている
場面で、内野さんも如何にも嬉しそうに演じていてそれが客席にも伝わり、その都度笑いを誘っていた。
プロポーズの舞(と勝手に命名しているが・・・)は、艶やかさがぐ?んとアップ、歌舞伎のワンシーンを観ているような気になってくる。
さいたまと大阪の違い、私が感じた一番の違いはキスシーンだ。私に観た限りでは過去の内野さんのキスシーンはどれも強烈(笑)
ところがさいたまでは客席から見えないように手で覆ったり、顔でカバーをしていた。アララ・・らしくないな。
これは田中さんへの配慮か、もしくは遠慮かな?なんて考えていた。しかしロンドンではキスは日常茶飯事の行為だろう。
恐らくその辺の事情で変更になったのではないか? 大阪では実際に口の触れ合ったキスをしていた、が、まだまだ遠慮がち・・・(笑)
でもとてもいい雰囲気に成っていたことは確かだ。
老年のペリクリーズに比べて若い頃のペリクリーズがイマイチ、との批評に「口惜しい!」と感想をもらした内野さん、
大阪では若ぺりが勢いもあり大変良くなっていたと私は感じた。いや寧ろ老年のペリクリーズの台詞を口に含みすぎて、あれほどまでに
老けこまなくてもなくても良いのではないか?そんな感じを受けた。しかし内野さん、全編を通じてとても愉しそうだった。
最初オファーを受けた時、余りのご都合主義の脚本に気が進まない、と尻込みした作品だったが、3時間以上にもわたる長い物語を
飽きさせず、だれる事も無く最後まで惹きつけられる作品に仕立て上げた蜷川さんに拍手!そしてそれに応えた内野さんも素晴らしかった!
これで見納め・・・、がとても残念。 これだけの素晴らしい作品を何とか映像に残して欲しい!
ペリクリーズ
楽日の感想を追加しました。