朝の音楽にまつわる惨事についての覚書〜2

朝礼係戦いの記録、ことの続き。

朝にかける音楽を変えた。ただそれだけだったはずなのに…⁉︎

あらかた辺りを見終わると、神崎先生はビニールから人差し指を離し、その手で両目を揉みほぐした。
「林、お前今朝はやってくれたらしいな。玉川先生がいつも以上におろおろしてたぞ」
林美紀は、あっ、やっぱりそのことで、と合点し、と同時に小嶋健太の発言を思い出して、途端に焦り出した。
「や、やっぱりこれは、町長が?」
神崎先生は、グラサンを掛け直すと「いや、これは町長支持派の人間によるものだ。…少々質の悪い連中らしい」そう言った。
「町長支持派…?」
林美紀はそう呟き、脳をフル回転させた。要するに、この学校襲撃テロには町長は関わっておらず、あくまでチンピラによる朝礼係への「シメ」ということ…?
怖い。

「まあ安心しろ。連中はそこら辺の中年おやじが暇つぶしに出てきたようなもんだ。手持ちの武器もロケット花火だけで火炎瓶とかはない」
林美紀が震えながら、「じゃあ、さっきの揺れは…?」と聞くと、神崎先生は、あれは校舎の老朽化だ、来月から建て替え工事の案が出ていた、と事もなげに答えた。
「まあとりあえず、安心していいぞ」
林美紀はなんだか緊張して立っていたが、その答えを聞き、良かったーとへたり込んだ。
「じゃあ、なんでこんな大げさに退避を?」
すると神崎先生は、その場に胡坐をかくと、言った。

「その方が、燃えるだろう」


一方こちらは自宅にて仮眠を取った後、出勤の準備をしていた小林誠さん。
鏡の前でネクタイを締めていると、母が騒いでいるのが気になった。
「これあれよねぇ!これあれよぉ!ああ名前が出ない!なんとか高校!」
母さんうるさいよと居間を覗き込んだ小林さん、母が騒ぐ元のテレビが目に入り、息を飲んだ。
テレビには朝比奈高校にて、立て篭もり事件発生とのこと。主犯は声高に「町長バンザーイ」だの、「朝比奈町合併はんたーい!」「原田精肉店の国産和牛をよろしく!」などと騒いでいるらしく、キャスターの一人が、「では、犯人の一人は原田精肉店の原田さんということでしょうか?」と現地アナに質問していた。
なんなんだこれは、と考える間も無く、小林さんの頭の中では「左翼、左翼、町長の太鼓持ち、左翼、」とワードがスパークした。
「やっぱりあれねぇ、音楽変えたのが悪かったのかしらねぇ」
そう言ってお茶をすする母。
うわーこの後出勤どうしよーと小林さんは考え、考えた末に、今日はお休みすることにした。
無論、無断欠勤である。


さてさて舞台は朝比奈高校職員室に移る。教師一同がテレビに群がり、皆でお茶をすすっている。
お茶請けはみかんやら煎餅やら。
『林さん、林さん、逃げて!』
VTRに玉川先生の逼迫した声が流れ、一同おおー、と声を上げた。
「さすが玉川先生、色っぽい」そうガリガリの手で柏手を打ったのは、今年60になる教頭だ。
「あの時は焦ってしまって…」玉川先生は赤くなって、しきりに垂らした髪を撫でている。
「でも、本当に町長派が乗り込んで来るなんてよく分かりましたね、校長先生」そう言って人差し指を頬に当てたのは、ピンクの似合う春野先生だ。
「全く全く。あの人に分からないことはないのかねぇ」物理担当の太田慎吾先生が、理系眼鏡をチャッと持ち上げた。
他にも数人いるが、活躍の場があれば追い追い紹介することにする、と、作者が言った。
校庭では依然、学生運動よろしくな格好をしたテロリスト集団が、何故か肉屋の旗を掲げ、メガホンでよく分からない主張を続けている。
「まああの人達も校舎に踏み込んでくるってことはないからそこは安心できるんですけど」
これこの後どうするんです?と教師一同は教頭を振り仰いだ。
教頭はお茶を飲みながら、「どのみち繊細な時期の一生徒を守るという名目は果たせた訳です。後は校長先生が上手くことを収めてくれるでしょう」と言った。
その発言を聞き、先生方は納得したというより、うーん?と首を傾けた。
「あの校長先生が、果たして黙っていらっしゃるかしら?」そう心配そうに玉川先生が呟き、春野先生はうふふと笑った。
「校長と町長って、本当に素直じゃない捻くれ者なんですねぇ」
今も昔も、と春野先生は笑う。その様子を見て、太田先生は肩をすくめた。
神崎先生、苦労しそうだなぁ。


一方その頃、神崎先生と林美紀は、中庭の芝生の上を匍匐前進で進んでいた。
なんでこんなことを…と林美紀は舌打ちしたい気分だった。神崎先生がこんなにめんどくさい人だったなんて。神崎先生は言った。
「今回の襲撃、町長側に何かしらの考えがあるらしい。その証拠に奴らは校舎には入らず、校庭で騒ぐばかりだ。大事な時期の学校に対してこんな騒ぎを起こしてくれたんだ、だったらこっちも、それなりに利用させてもらう」
「というと…?」
林美紀が先を促すと、神崎先生は上を見上げた。釣られて見上げると、上空を中継のヘリが飛んでいる。
神崎先生は言った。
「出来るだけ、目立つ必要がある」

そんな会話を経過して、今こんな感じ。林美紀は今私がハイハイしてる様子が果たしてお茶の間に流れるのか?と思いなおかつ、こんな騒ぎを引き起こしてしまった自分は果たして今後の進路は大丈夫なんだろうか…と暗い顔をしていた。
上空でバララララとヘリのプロペラの音がする。少し近くなったようだ。

朝の音楽にまつわる惨事についての覚書〜2

楽しんで書きました。
短いのでやや書き足し。

朝の音楽にまつわる惨事についての覚書〜2

朝の音楽を変えた…。それだけで学校は、テレビに映る大惨事に!

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-27

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted