会議

 とある部屋。

 ここに、8人の男女が集まった。彼等は皆愛国者で、この国の未来を守るべく立ち上がった。時に反対することもあるが、それでもこの国への思いは皆同じ。少しでも良い方向へ動かして行きたいのだ。

「さて」

 40代の、グレーのスーツを着た男性が口を開いた。胸の当たりに【森】という名札をつけている。

「まず、外交問題なんだが……」

「そんなの決まってるだろ、戦争だ、戦争!」

 男の言葉を遮るように、60代前半の男性が言った。名札に書かれている名は【堀田】。

 堀田が意見を言うと、他のメンバーの約半数がため息をついた。

「向こうも戦争の準備をしているんだ。こっちも乗ってやろうじゃないか!」

「この話になるといっつも熱くなるなぁ。あのね、国の方針としてはね、相手側が勝手に『戦争だ、何だ』って騒いでるだけだから、相手を無視して、何か可哀想な感じにしようとしてるわけ。ほら、あの、学校でちょっと目立つ子を全員で無視するようなもんだよ」

「え? そうなの? それはそれでマズいでしょう。そんなこと言っちゃって良いのかしら? ますます嫌われちゃうんじゃなくって?」

 堀田に反論した【坂口】という男を、【三田】という50代の女性がちゃかした。坂口は眉間に皺を寄せている。

「まぁ、ほら。今の時代最も広く使われてる武器は言葉でしょ? いつまでも古い物に頼ってないで、時代に乗って行かないと。だから、やっぱり会談が1番良いんじゃない?」

「おお、流石【野沢】さん。何かしっくり来る」

「いえいえ。どの国も、みんながみんな互いを嫌っているわけじゃないし、互いの貶し合いをやっているのも時間の無駄でしょう? いつか、話し合いが出来るようになればなぁ、なんて思ってるのよ」

「何がしっくり来る、だよ。どいつもこいつも甘すぎる」

 野沢という高齢の女性が評価されたことに、堀田はあまり快く思っていない様子だ。子供のように拗ねてしまった。

 この、戦争やら外交やらの話になるといっつも仲間割れが始まる。これではいつまで経っても良案は出て来ない。森は咳払いをして、話題を変えることを知らせた。

「ええ、じゃあ次は経済。これ、行きましょう。どうですか?」

「消費税とかだな。俺は上げた方が良いと思うんだよなぁ」

 と、40代後半の【大河内】という男が発言した。するとまた論争が巻き起こる。森は頭を抱えた。

「今上げない方が良いだろ。全然景気が良くなったとは思えねぇよ」

「いや、上げない道は無いかも。みんなが言ってる通り、タイミングの問題じゃないかなぁ」

 ここ最近、問題や課題が大きくなってきたためなのか、このような論争がしばしば起こる。幾つかの考えがぶつかり合って、平行線を辿る。この部屋の中はいつも混沌としている。

「今上げたら生活キツくなるだろうが!」

「他の国はやってるんだよ! 新しい考えを取り入れるんじゃなかったのかよ!」

 40代になったばかりの中肉中背の男【仁科】と堀田の“戦い”。先程の論争による怒りが溜まっているため、他の話題でもヒートアップしている。

 そのあと「教育」、「雇用」、「エネルギー」といった話題も上がったが、やはり彼等の意見が一致することは無かった。口調も荒くなっている。もはや論争ではなく口喧嘩である。

「いいか? 海の底にはまだエネルギーが眠ってるんだよ! それを、ごく少数の馬鹿共が利益を優先して邪魔してるんじゃないか!」

「それを他国が狙ってる! だから今こそ武器を取って……」

「その話はもう良い!」

「何なのよアンタ達! アンタ達だって自分達の懐の方が大事なんでしょう? 森さん、メンバーを変えた方が良いんじゃなくって?」

「え? あ、ああ〜、もう!」

 戦いは森でも止められない程に激化している。男女の声が超音波のようになって耳から入り込み、彼の脳を激しく揺さぶる。頭痛に耐えられす、森は遂に席から離れて隅っこにうずくまってしまった。しかし、それに気づく者は居ない。

「だいたいアンタ等なんなんだよ! 人の考えを頭ごなしに否定しやがってよぉ!」

「うるさいわね、そういうあなたはどうなのよ! いい加減にしなさいよ!」

「うるせぇババァ!」

「何なのその口の聞き方は!」

 と、そのとき、ある人物が机をバンと叩いた。

 全員が黙ってそちらを向く。

「まぁ、皆さん」

 【敷島】という名札をつけた70代後半の男性が口を開いた。彼が何か発言するのは今日初めてだ。


「この続きは、我々が選挙で当選してからにしましょうよ」

会議

会議

愛国者達による熱い論議が今、始まる・・・?

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-26

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