叡智の華

ある日突然字が見えなくなった。

朝新聞を読もうと思い一面に目をやるとそこには直線の窓枠と写真が載っているだけだった。私はその写真を眺めた。
妻が発する言葉はきちんと耳に届いた。しかし時計の文字盤はなにもしめさず、本の黄ばんだページには何も存在しなかった 。はて、どうしたものか。私は奇病におかされたのか。
私はその日仕事を休んだ。字の無い新聞を眺め、いつも読んでいた本の何も書かれていないページを見つめた。買い物に出かけ何も書かれていない値札を見た。文字が書かれていなくても何となく眺めていた。
そんな 一日が終わり、私は殺風景な夕刊を眺めながら妻に
「今日の夕飯は?」と聞いた。

妻の口から言葉は出なかった。いや出てたのかもしれないが私に言葉は聞こえなかった。


「ああ、分かった」私は妻にそういった。

叡智の華

叡智の華

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-26

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