IF2⑩

久しぶりの更新です。
もっと定期的にあげられるといいのですが・・・・・・。
何はともあれ、10回目。

ゆるゆるとおつきあい願います。

肉体死と精神死

IFにたちより、例の封筒の中身を見たが、一人目と二人目の死亡診断書でこれといって確信に当たるものは拾えなかった。ただ、その診断書のコピーに使われていた裏紙。
水鏡病院予定地の案内が記された紙。

「……この病院」

最初の路地で見つけたヤツ。あのとき途中で追跡を切ってしまった『呼び声』。
あのとき、あまりにも鮮やかで恍惚とした光景に目を奪われたけど、あの引きずり込むような声はもっと奥から来た気がした。
あの道の奥は……たしか……あそこには出来損ないの病院があったはず。
出来損ない。つまりは病院としての機能の出来が損なわれた建設途中の建物。
どれくらい前か。そこそこ内容は覚えてるからそんな前じゃないか。建設途中で元の病院が破産をしたというニュースは、一時期話題となった。
不正な治験が明るみに出て、医師免許の剥奪と同時に被害者遺族への賠償金の支払いであえなくぽしゃった。
出来損ないだろうと建設途中だろうと、解体には費用がかかる。そのため、そのまま国が徴収した土地と建設途中の建物を競売にかけたものの
買い手がつかず、今は放置状態。せいぜい出入りしてるのは悪ガキくらいだろう。
あれ? そういえば治験って……。

「どうしたの? なにか分かった?」
「治験って……なに?」
「そんなことも知らないの?」
「……うるさいな。それで、どういう意味」
「治験(ちけん)とは、医薬品もしくは医療機器の製造販売に関して、薬事法上の承認を得るために行われる臨床試験のことである。元々は、  治療の臨床試験」の略である」
「詳しいな……って、なんか読んでない?」
「ん? ウィキペディア」
「碑百合も知らないじゃないか!」
「はいはい、怒らない怒らない。それで、治験がどうしたの?」

つまりは、実験ってことね。命月の事だし、何か意味がある……。
いや、でもただの気まぐれか……近くにあったのがこの紙だっただけかもしれない。
まったく……アイツの場合、嫌がらせなのか正しい情報なのかすべてが疑わしくて困る。
病院としては一度も機能しなかった場所だから余計なモノは見えないだろうし、今夜あたり様子を伺ってみるか。

「何でもない。それより、今回の生きてるんだか死んでるんだかよく分からないヤツ……あれはなに?」
「生きた死体ってところかしら?」
「あれは終わってるはずなのに……あんなの見たことがない」
「生きた死体……か。三流のホラー映画みたいね。ゾンビとか」
「なんていえばいいか……死に方が分からない? そんな感じ」
「死に方が分からない? へぇ。面白いことを言うね」

コリコリという音が止むと、程なくしてコーヒー独特の香りがIF全体に広がる。

「それはおそらく『奪われた』ということかな」
「奪われた? 何を?」
「もちろん『死』よ」
「死を奪われる? どういう事? 命を奪われるならともかく、死を奪われるって……」
「そう難しく考えなくてもいいと思うけど? 毛乃なら分かるとおもう」
「はぁ……十分難解だと思うけど」

白い湯気が上がり、程なくして一杯のコーヒーが私の前に置かれた。
碑百合も自分の分のコーヒーに口を付けながら、カウンターにもたれ掛かる。
心なしか楽しそうに見えるのは、この先、少し長くなりそうだという合図なのかもしれない。
眠らずに話を聞けと言うことだろう。

「人は一生のうちに何回死ねる?」
「……何度も死ねてたまるか」
「そう、事故死、病死、他殺……そして自殺。この際、死に方は置いておこうか。
 重要なのは『人』は『一生』のうちに『一度しか』死ぬことは『できない』」
「……当たり前じゃない」
「そう、至極当たり前で、ここまでが一般的な、ごく普通の事」
「前提はいいから本題」
「ふふ、そう急かさない。話は順を追って話すから意味が着いてくる。それに結だけ話しても私が面白くない。
 たまには暇人に付き合って無駄な時間を過ごすのも一挙、なんてね」
「はいはい、分かったから続き」

こうなると非常にめんどくさい。話をいちいち遠回しに話すのは碑百合の悪い癖。

「じゃあ、生の終末が死かと問われたら……毛乃はどう答える?」
「それは、生きることの終わりだから……そうじゃない?」
「うん、当たり前な一般論」
「あーーー! 回りくどい!」
「『生』の終わりが『死』ではなくて、『生』と『死』、その両方が始まり。
 古来より、死は新しい旅立ちとされてるの。つまり、一本の線の上に生と死は共存してる」
「つまり死を奪うって事は……」
「肉体を失おうと、『それ』は生き続ける。肉体的ではなく精神面での存続。人はね毛乃、常に自分にない物を欲する傾向がある。
 地位や名誉、知識や経験。あげていけばきりがない。つまりは、ないものを補うために、他から調達するのね。
 その結果が今回の『死因の遷移』。この場合前倒しかな? それが起こると言ったところかな。
 でも、ここで不都合がでる。『他者の死』を受けながら、それは『自身の死』として認識できない。だから、死に至る現象が起こりながらも、自身が生きていると錯覚する。
 死とは、肉体死と精神死、その両方が揃うことで初めて起こる現象なの。まぁ、『肉体』の『死』だから『死体』という表現は間違ってないけどね」
「碑百合の言うとおりなら、死んだときに他人の死に方で死ぬ。あくまで『死ぬ時に』でしょ。それなら、何でこんなに連続して起こる?」
「言ったでしょ。死因は『置いておく』って。年間2割超の確率で自殺者が出るやりきれない先進国。この小国が外国に引きをとらない数少ない数値。
 ほら、引く手あまたでしょう。私たちの知る術がないだけで、誰にも知られずひっそりと……ね」

そう言った碑百合は、カップの中のコーヒーを転がすように回して、そのなかの液体を見つめる。
無表情に、無機質に見つめる姿。手にしたコーヒーとは逆の冷え切った眼差しは、普段の碑百合とは似ても似つかない。

「主犯がどこかにいる。最初に持って行ったヤツがどこかに」

碑百合は、軽く鼻で笑うと、残りのコーヒーを一気に飲み干し、カップをカウンターにおいた。

「さぁ、どうする? 毛乃。次の一手をどう出る?」
「少し休ませて……。日が傾いたらすぐに出るから。今出ても日の光が邪魔になって何も見えない」
「ふふ。なら、そこに七志くんが忘れていった上着がある。今日も冷えるから、仮眠をとるなら肩にかけるといいよ」

また忘れていったのか。
あいつは、部屋が近いせいかよく上着を忘れていく。

「っ!」
「ふふふ」
「な、ななに?」
「べつに何もいってないけど?」

歩の上着を肩にかけて、テーブルに突っ伏す。
何となく、意地の悪そうな碑百合の顔がいつもにまして腹立たしかった。
そのせいか、意識がなかなか落ちていかない。
それを知ってか、かまわず碑百合は話を続けた。

「なら最後に一つ忠告しておくとしようかな」
「……」
「恐らく、毛乃が追っているのは抜け殻。差し詰め倒れていくドミノを追いかけてるだけ。
 君にはあれを殺すことができるけど、最初に『死』を奪ったモノ、つまりはドミノを突いた者がいることを忘れちゃいけないね。
 たとえ、次の"被害者"を排除したとしても、また、生み出す者が必ずいる。それを始末しない限り今回の一件、
 永遠に続くかもしれない。なぜ、他人の『死』を奪うのか、理由は計り知れない」

無いものを欲する。ならそれは、そのドミノを突っついたヤツは、死を望んでるってこと?
あー、だめだ。分からないことが多い…………けど。
分かってることはある。

……最低でもあと二人はヤる事になると言うこと。

一人は加害者で、もう一人は被害者。

「それにしても……やりきれないねぇ」

そう言って、碑百合は店の外へ出て行った。また喫煙だろう。
突っ伏しながら、メールの送信ボタンを押して、もう一度仮眠をとることに集中した。

IF2⑩

ここまで目を通していただきありがとうございます。

いよいよ次回が最終話になります。

早めに執筆できるよう気合い入れていきます。

IF2⑩

色と引き換えに人の望みの形を見る『白兎毛乃(しろうけの)』が、都市化計画で作られた『平坂新都心市』で起こる奇怪な現象と事件に挑むミステリーサスペンス。

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-24

Copyrighted
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