非暴力戦士☆和解マン
「おああーっ! 地底獣キサブロウが暴れてるっ! 助けて! 和解マン!」
「ふぁあ!」
「ぐおお、ぐおおお」
ドガッ!
「ごふっ」
序盤は一方的にやられる和解マン。しかしこれは作戦である。攻撃させることにより、相手のストレスを解消させ、話し合いへと繋げるためだ。
超人といっても痛みはあるが、身体能力に支障をきたしたり、死んだりはしない。
「どうです、気が済みましたか? お茶でもどうですか? ごふぁ!」
無論、地底獣語もペラペラである。
「そんなに言うなら、飲んでやる。うん」
キサブロウは正座し、お茶をすすり始めた。
今だ!
「いや~、暑いですね。この暑いのに暴れるなんて、何かあったんですか?」
「ん、別に」
「またぁ、お茶菓子もありますよ。どうぞ」
和解技の1つ、茶菓子攻めである。
「ああ、ありがと」
「これは人気がありましてねぇ、朝から並んで買ったんですよ」
「ああ、実はねぇ、うちのかみさんが『あんたちょっとは働いてよ。地上人をぼこぼこにして、洗剤1年分奪ってきてよ』ってねぇ」
そういうことか! そういうことかーーーっ!
「わかりました。洗剤3年分に、石鹸もつけましょう。ええい、こうなったら、巨人戦のチケットも」
「いや、チケットはいいよ」
「了解、了解。では、タオルをつけましょう。どうですか? これで」
和解技の1つ、プレゼント攻勢である。
「うん、これでいいや。帰るよ、じゃましたな」
今日も勝った。
経費はもちろん自腹だ。
政府が出してくれるよう求めていたが、国会で法案が否決されたのだ。
額の高騰を懸念して、世論も反対していた。
あくまでも、別に頼んでないし~、勝手にやれば? というポジションだそうだ。
国民と和解するのは難しい。
またバイトしなければ。
「では、さらばだ、ふぉあ!」
「やばいよ、やばいよ、カテキン星人が攻めてきた、和解マン助けて!」
「ふぉあ!」
空飛ぶ円盤から降り注ぐ破壊光線。和解マンの叫び声も、上空には届かない。
しかしなんと和解マンは飛べるのだ、そうでなくては話が進まないじゃないか。
「入れてください。宇宙船に入れてください。ケーキもありますよ」
手土産片手に、訴える和解マン。
そんな中、空飛ぶ円盤から奇怪な声が響き渡った。
「ワレワレはウチュウジンだ」
「この星は、ワレワレがいただいた。ムダな抵抗をやめ、全資源をサシダシなさい」
間近で聞いた和解マンは、大音量に耳がキーンとなった。
しかし怯んではいられない。どうやら抵抗しなければ危害は加えないようだが、条件が不利過ぎる、なんとかしなければ。
円盤の側面にボタンを見つけた和解マン、迷わず押した。
プシュー、ウィーン、ウィーン、石鹸水が噴出し、ワイパーが動き始めた。
「おい、カッテに操作するんじゃない、コッチへ来い」
扉が開かれた、やったぞ和解マン。
「あ、どうぞお構いなく」
船長室に通された和解マンは、船員一人一人に名刺を配り歩いた。
和解技の1つ名刺配りである。
「抵抗するなら、ヨウシャなく消し去るよ、キミぃキミぃキミぃ」
船長らしきカテキン星人がエコーのかかった声で言った。
「そんな、抵抗だなんて。ただ、もっとお互いのためになる話をしたいんですよ」
和解マンは、ケーキを差し出し、船長の肩をもんだ。
「ううーむ、まあ話だけキイテやる」
よし、ここぞとばかりに和解マンは、地球人の熱い思いについて語りまくった。
「いやあ、興味深い話を聞いた。でもねぇ、ワタシはしがない船長、本国の許可なしにはヤメラレン」
「わかりました。では、本国にお伺いします」
「どういうことかね? 本国はコノ宇宙船でも、1年はかかるよキミぃキミぃ」
「大丈夫! ぬおお、ふぉあ!」
和解マンは、一瞬にしてカテキン星に降り立った。
和解技の1つ、瞬間移動能力だ。
じゃあ、なんで最初から宇宙船に入らなかったのか? と思うかもしれないが、許可なく入ったりしたら、まとまる話もまとまらないじゃないか。
カテキン星の国である、フラボンの王宮前でたたずむ和解マン。
まだ船長から連絡が来ていないので、入ることができないのだ。
その間警備員と雑談し、国王の好みのタイプなどを聞き出しておく。
国王は目玉の色が赤みがかった、家庭的なタイプが好みだそうだ。
だがお后は目が金色のキャリアウーマンタイプ、夫婦仲はよくないらしい。
そうこうしているうちに、船長から超時空宇宙電話で連絡が入り、王宮での謁見を許された和解マン。
「失礼致します。お招き頂きまことにありがとうございます」
とあくまで相手に敬意を払うことを忘れない。
「よくぞいらしたの、国王だの」
「お目にかかれて光栄です。国王陛下」
「とりあえず、ウンガロスープ飲むの、うまいの」
ウンガロスープは地球人にはとてもまずいが、和解マンは難なく飲み干すのだ。すごいぞ和解マン!
「ぷはーっ。しかし国王、地球にはもっとすごいスープがあるのです」
「なに、ほんとかの? 早く持ってくるの!」
和解マンはスープを餌に交渉し、毎週のスープ献上で手を打たせることに成功。
「楽しみだの、船長に連絡だの」
かくして、地球の平和を守った和解マン。
彼には、毎週カテキン星にスープを届ける役割が新たに加わった。
他に届ける方法など無いのだから。
スープ職人は言う。
「いや~、宇宙人の好みとか全然わかんないよ。適当、もう適当、月一にして欲しいね」
「すいません、なかなか難しくて」
国王は言う。
「今日のはチョットアミノ酸が多すぎるの、攻め込もうかの」
「すいません、今度は頑張りますので」
もちろん、代金は自腹だ。
カテキン星土産を売りさばいて、なんとか凌ぐ和解マン。
切り抜けろ、和解マン! 力の限り!
「大変だーっ、世界中で謎の秘密結社が暴れてる! なんとかして! 和解マン!」
「ふぉあ!」
世界各地で不気味な仮面を付けた集団が、次々に事件を起こしていた。
「あ、ちょっと話を聞いてください」
「ハゲゴルゴ様ー!」
「ちょっと、とりあえずこっちに」
「ハゲゴルゴ様ー!」
瞬間移動を繰り返し、説得を試みる和解マン。しかし彼らの意思はそこにはなく、うわごとのようにハゲゴルゴの名を繰り返すのみ。
誰なんだ? そしてどこにいるんだ? ハゲゴルゴ。
しかし、答えは無い。
そんなこんなで、1週間が過ぎた。
ああ、ハゲゴルゴ……、どこにいるんだ……、ハゲゴルゴ……。
不甲斐無い和解マンに、市民の目は冷たい。
投書も届く。
幻滅しました。もう応援しません。もっと真剣に話し合ってほしいと思います
打ちひしがれる和解マン。
しかし、1本の電話が彼を絶望の淵から救い出す。
ブブブブブ(マナーモード)
「はい、和解マンです。いつもお世話になっております」
「いい話があるんですが。今すぐ会って欲しいんです」
「そうですか、今からなら心斎橋の駅前でどうですか?」
「わかりました」
ということで、待ち合わせをすることになった和解マン。
やってきたのは、金髪を空高くおったてた青年だった。
「すいません、髪型のセットに時間かかっちゃって」
「いえ、全然待ってませんから」
実は、彼は昔、通りすがりの和解マンにカツアゲされている所を助けられ、交渉で500円にまけてもらって以来、和解マンに協力しているのだ。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。ハッ、ハアッ、ハゲゴルゴの正体が分かったんですよ!」
「なななんと素晴らしい! そそそれはっ、それはあっ、ほほっ本当っ、あわわわ、はわわわ」
和解マンは大げさなリアクションで、青年の喜びを誘った。
「そうなんです! 電車の中で女子高生が話していたんですが、彼女の高校の校長がハゲゴルゴなんだそうです」
衝撃の有力情報を得た和解マン、すぐさま高校へと向かった。
お昼前なので、授業中の雰囲気が校内に漂っている。
「すいません。和解マンですが、校長にお会いできますでしょうか?」
和解マンは、当たり前のように受付の警備員に話しかけた。
「んー、ああ、いつもテレビで見てるよ。校長室はそっちね」
もはや、顔パスの和解マン。足早に校長室へと急ぐ。
コンコン
「和解マンと申します」
「どうぞ」
巨大なデスクの向こう側に座っていたのは、眉が太く、精悍な顔つきで、頭髪の寂しい男性だった。
やはりか!?
「いつもご活躍は拝見しておりますよ」
男性は、にこやかに言った。
「いえいえ、大したことないですよ。それより大変ですよね、教育現場も」
和解技の1つ、社交辞令だ。
「いやあ、まあ必死でやっておりますよ。それで本日はどのようなご用件で?」
校長は机に前のめりになり、問いかけた。
和解マンは、メガネの奥から真剣な眼差しで答えた。
「いや、実はですね、最近多いじゃないですか、変な事件がね、ほら、仮面かぶった人とかね、いるじゃないですか、ぜひ校長のご意見を伺いたいな、とね」
「ふふ、ふふふ、和解マンさん、はっきり言ったらいかがですかな?」
張り詰めた空気が、校長室を満たした。
「おまえがハゲゴルゴだろ、とね」
はっ
「そう、私がハゲゴルゴ。仮面の怪人を操り、世界中で大暴れしておりますよ。はーっはっは! どうですか、どうですかーーーっ!」
その瞬間、隣の部屋から仮面を付けた集団がなだれ込んできた。
ぼこぼこにされる和解マン、いつものことだ。
「噂通りのしぶとさですな、和解マンさん」
「なぜ、なぜこのようなことをするのですか?」
ハゲゴルゴは和解マンに背を向け、振り向きざまに言った。
「なぜ? では聞こう! なぜ、してはいけないのか! そして、なぜ、あなたはそうするのかを!」
「ふふ……」
和解マンはおもむろにメガネを外し、遠くを見つめて答える。
「この世界が……、好きですから……」
しかしこれで納得するハゲゴルゴではなかった。矢継ぎ早な質問攻め、恫喝、証拠資料の提示、熱く悪を語るハゲゴルゴ、反論する和解マン。
議論は1週間にも及んだ。
その間、何度も暴行を受け、銃で撃たれ、刃物で切りつけられたが、和解マンは全てはじき返し、耐えた。
仮面の集団は、交代で休憩を取りながら見守った。
「ふぅ。いいかげん、悪事も必要だと認めたらどうかね? 和解マン」
「そんな事無いです。あなたも本心では平和を望んでいます。ぶほぁっ!」
和解技の1つ、深層心理攻めだ。
「ばかな、ありえんよ」
だめか、長い戦いになりそうだ。そう思った瞬間、地響きと共に床がせり上がり始めた。
「うおお、なんだ、地殻変動か!?」
ひび割れた床から飛び出してきたのは、巨大な黄色の頭だった。
「キサブロウ!」
「ああ、久しぶり」
地底獣キサブロウは、にっこりと微笑んだ。
「ちょっと嫁さんが『今日は、地上で食事がしたいわ』なんて言うもんで、潮干狩りにね」
校庭を見ると、嫁さんが赤い頭を出していた。
「そうですか、あんまり街を破壊しないでくださいね」
和解マンは、にっこりと微笑んだ。
次の瞬間、上空から七色の光と共に空飛ぶ円盤が現れた。
「和解マン、今週のスープまだかの」
国王の甲高い声が、校内に響きわたる。
窓からは船長の顔も見えた。
「すいませーん。もうしばらくお待ちをーっ!」
和解マンは円盤に手を振って答えた。
「失礼しました、続けましょう」
と、ハゲゴルゴの方を見ると、がっくりと床に座り込んでいた。
「どっ、どうしたんですかぁああっ!?」
和解マンは、すぐさま脈を測り応急処置の準備に入った。
和解技の1つ、咄嗟の介護だ。
「いや、よい……。わしの負けだ」
ハゲゴルゴは力なく言った。
「これ程の相手との友好関係、信頼関係。わしは負けを認めるよ」
和解マンは言った。
「いや、勝ち負けではありません。お互いが納得することが大切なのです」
そこに、金髪を空高くおったてた青年が駆け込んできた。
「校長先生! やめないで!」
彼はこの学校とは何の関係も無いが、いままで陰でスタンバっていたのだ。
「校長先生!」
「校長!」
「ハゲゴルゴ様!」
大勢の教師・生徒、そして仮面の集団が校長室を囲み、ハゲゴルゴこと校長にエールを送り始める。
「みんな……」
立ち尽くすハゲゴルゴ。
「わかった、わしは頑張るよ。校長として! そして、ハゲゴルゴとして!」
「そうですよ!」
ハゲゴルゴと和解マンは、がっちりと握手を交わした。
周囲は割れんばかりの拍手に包まれ、地底獣キサブロウと嫁、カテキン星人の船長も、共に拍手を送った。
地球に平和が戻ったのだ。
かくして仮面の集団は、あるものは実家に帰り、あるものは仮面のままボランティア活動に精を出すこととなった。
それはそれで、好評だったりもするものだ。
「うまくいきましたね、和解マンさん」
「ああ、ありがとう。ハプニングもあったけど、なんとか収まりましたね」
「これは、請求書です」
「ああ……」
エールを送った教師・生徒の手には、和解マンストラップが握られていた。
青年が事前に配布していたものだ。
仮面の集団・地底獣・宇宙人は、配布していないのにつられたらしい。
これが和解技の1つ、感動のエンディングだ。
「ふう、また出費か」
頑張れ和解マン! グッズが売れる、その日まで!
――おしまい――
非暴力戦士☆和解マン