売れていくリモコンと渇いた大地

この世界の主は、不定称の人代名詞

世界を風が撫でる
その中で踊る少女を半球状の空が覆っている
少女はあの青の向こうに穴があることを信じない
信じたくないんだ

室内で黙って泣いた青年
熱く火照った目で機械を見つめながら、物憂げに平和を考えている

売れていくリモコンと乾いた大地
涙は一滴も出なかったのだけれど、それでも暑さでカカオは実った

写真の中の男児はピースサインを掲げていたが、黒い真昼に花火が打ち上がる夢を見て悲しんだ
まあるい赤んぼうの握りしめたタオル、柔らかい経産婦の笑み

少女は、花の香りを余所にして手を振り歩く
川沿いに寄ると、水面がキラリと笑った
きっと、真黒い水も、エラ呼吸が出来なくなった、魚の涙の結晶
少し、疲労する

いつの日かの広島で、木炭の煙が目に染みた記憶は、もう古すぎたのか
欲張ったカラスが 街灯の電気に酔い、ゴミを宝だと漁ったが、本当のカラスの狙いは?
無実の紙を握りしめ、白い歯を見せ笑う者の手に微生物
腐葉土に埋れ、真実を誰も知らない

この世界の主は、不定称の人代名詞
人見知りの猫が、汚れていく大地を横目にせかせかと通りを渡っていく
猫は、案外、この辺りは物静かだと話した
世界を風が撫でる

売れていくリモコンと渇いた大地

皆、見慣れた日常の中で生きている。
私たちにとって日常は全てだけれど、私たちの日常は余りに狭すぎる。
ソーシャルネットワークが発達してきたおかげで、個人の生活以外からの情報を得ることができるようになった。
しかし、そこで知ることができるのは、一部の割れた欠片に過ぎない。そこにあるものは事実か、はたまた全くの想像物語と両極端のものであり、情報の消費者である私たちは、与えられた事物の一切を食すしかない。
変化して行く時代、影と光の差。光も影も、表裏一体だ。
目を逸らしちゃいけないのに、私たちは見て見ぬふり。
世界の裏側だって、世界でしょう?
一人一人に名前はついちゃいるけど、人間と総称するでしょう?
ならば人間の一人である私たちは、人間の状態を把握しなくてはいけない。
世界は、人間だけの住処じゃないのだから、尚更だ。
今は、人間一人一人がもう一度考え直す時期なのかもしれない。
私たちは「独り」じゃない。
この世界の主は、不定称の人代名詞なのだから。

売れていくリモコンと渇いた大地

  • 自由詩
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-19

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