愛を食べる

愛を食べる

予感

傷だらけの壁。

斜め横には、無数に貼られた下手くそな絵。

反対の壁には、叫びを残したままの文字が並んでいる。

床に散らばる洋服や、本。

真っ二つに折れた鉛筆も転がっていた。

冷静になって見つめると、なんだか切なくなって。

悲しくなって、また泣くだけ。

今の妙な気分は、きっとさっき見た夢のせいだろう。

真っ白いカーテンからは、光の漏れもなく。

一日はとっくに過ぎて、もうすぐ日が昇るころ。

眠気もあるけど、寝ようと思うほどじゃない。

起き上がった身体が、なぜか熱っぽく感じて。

頭もすこしだけ痛い。

瞼がやけに重くて、いつもと違うのは。

たぶん、昨日も泣いたせい。

鏡なんか見なくとも、きっと今の私の顔はひどいだろう。

学校にも行きたくない。

朝がやって来るまで、壁にもたれ掛かって。

目を閉じてみる。

さっきまで見ていた夢を思い出していた。

曖昧な記憶で、夢を辿っていく。

夢の中でも私は眠っていた。

屋根裏部屋みたいな、小さい部屋で。

白いベッドがあって。

白くて丸い机に、白い壁と床。

目にうつるものはすべて白だった。

私の身体にも白いワンピースが、私を包み込んでいた。

言い方を変えれば、真っ白という言葉のほうが適切だけど。

私が夢を見るときは、いつも自分の目線からじゃなくて。

自分を見ているような、客観視的であった。

私が夢の中で目を覚ますと。

着ていたはずの、白いワンピースが突然消えて。

私は裸になった。

そんな状態に嫌悪感が、身体中を駆け巡って。

気分は最悪だった。

客観な立場で見ているのに、気持ちや感情は私自身そのものだった。

ベッドから降りて、床に足をつけた時。

胸の中で、何かが弾ける音がしたっけ。

それと同時に、床から壁へ。

天井に向かってどす黒い赤へ変わっていった。

なんていうか、徐々に上に登るみたいに。

白かったものはすべて、黒みが強い赤に染まり変わった。

目覚めたのは、そのときだったかな。

中途半端に終わった夢は後味が悪くて、なんていうか自分が無になる感覚がする。

ベッドから下りて、廊下に出ようと扉のまえに立ってみるが、広間から物音が聞こえた。

多分この時間から起きてるってことは、水野先生か東先生だろうな。

顔を合わせるときっと表情が歪んで、どうしたの?って聞いてくると思った。

それだけでも面倒に感じて、躊躇する。

諦めてベッドに寄ると、コンコンと躊躇いがちに扉が叩かれた。

返事を待たず開かれた扉の向こうには、東先生がいた。

「おはよう、ミクちゃん。」

咄嗟に背を向けた私に、優しく声を掛けてくる。

「朝ごはんあるよ?ここに置いておくね。」

黙ったままうずくまると、頭を撫でられて泣きたくなった。

「ごはん、ちゃんと食べるんだよ?」

もう一度私の頭を撫でてから、東先生は部屋を後にした。

しばらく同じ体勢のままでいたら、急な眠気が襲ってきて。

知らず知らずに寝てしまっていた。

愛を食べる

愛を食べる

君は何を求めている? 君が欲しいものは何でもあげるから、優しく笑ってよ。 愛を無くした人間がもう一度だれかを愛することができるのかな。 君以上に強くなりたい。 君をだれよりも守りたい。 愛を粉々になるまで食べ尽くして、私と君の心が満たされればいいのに。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-18

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  1. 予感
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