愛し秘める
夏人に、
遠い昔のことであるけれど
中国の夏という時代に、一人の男がいた
若く美しく武勇に長けた惇遜(じゅんそん)という男であったけれど、思い詰めると果てが見えぬ男であった。
彼を悩ませていたのは死への恐怖だった。
不老不死を望んでいたのである
順調に出世を重ね、土地を支配する王になってもその苦しみから解放されることはなかった。
このとき男は三十八であった。
妻と五人の子を愛していた。
あるときの夜会で一人の女が酒を運んできた。
女は名を王旁麗(おうぼうれい)といった
年はまだ十八だという。
白い肌にほんのりと差す赤みが可愛らしく、黒く長い髪が美しかった。
「君は美しい」
惇遜は酒の礼だと、
その美しい髪に挿し給えといって自分の黄金の櫛を旁麗の胸元へそっと置いて差し上げた。
彼女の肌に触れれば、なんともやわらかな甘い匂いがした。
丁度それは秋に熟れる果物のような香りであった
その一瞬にして、惇遜は女中に心を奪われたのだった
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次の日も、次の日も惇遜は給仕を旁麗に申しつけた
不思議と安らかで楽しい気持ちになる、まるで若くなったかのように。
愛し秘める