ミス・ファイン

ミス・ファイン

「こんばんは。
やっぱり・・・このサイトを退会しようかなって思うのね。
他でやってたSNSは全然人がいなくて、イヤになって、どうせ
やるなら少しは人数のいるヤツにしようかと思って、他に、ど
んなのがある?ってパート先の人に聞いたら、『ユア・メイ
ト』っていうのがあるよって言われて入ってみた。
つまり、ここで律島クンと再会したワケ、だよね?
しかも25年ぶりに。

さすがに全国で1500万人が参加してるだけあって、前のし
ょぼいサイトと比べたら全然違うし、人数が多い分、コミュニ
ティもいっぱいある。
私の大好きだった男性アイドルの(恥ずかしいから言わない
よw) コミュもあれば、やっぱり出身校のもあって、私の行っ
た短大からさかのぼって、高校も見つけて、中学のも、さすが
にそんなものはないだろうと思って検索かけてみたらあって、
ビックリした。

それでサ、コミュの管理人が律島クンなんだもん。余計、びっ
くりしちゃうよ。
全然知らなかったよ・・・キミの存在は知っていたけど、まさ
かね、その人が中学のコミュニティを作って、こうして今までに
300人も集めてたなんて。
管理人は誰なんだろうなあって、なんとなく、なんとなくだけ
どね、自分の知ってる人がやってたら面白いなあと思って、律
島クンのプロフィール見たら、しっかり学歴が書いてあって
笑ってしまったよ。

それで、25年ぶりの再会となったワケだよね。
高校は、Y市に行ったんだ? 実は、もう、あの頃の私は受験
ノイロ ーゼというか、大見栄きって、先生の制止をふりきっ
て、いい学校受けるなんて言っちゃって、サア、それからが
大変!
だって、あの中学からT高校に入ったのって、あまりいなかっ
たんだよ。まあ、地味なほうだったから、騒がれもしなかっ
た、というか、
「T高に受かったって、利田と井口だって・・・でも、イグチって、
誰だ?」って感じで(笑)

とにかく、中学校のコミュがあって、それで「同じ1期生です」
って参加者の登録をしたら、律島クンからメールきて、
「1期生の律島修治です、アナタは誰です?」って書いてあ
って、
「井口です、井口みよこ」って返事したら、
「あー 覚えてる!覚えてるよ!」って、そればかり10回も
書いてあって、なんだかすごくうれしくて、世の中にタイムマ
シンなんていらない! こういう一言で25年前に簡単に引き
戻してくれる人が世の中にはいるんだ!ってすごくうれしく
なっちゃって、あの晩は、たくさんサイトの中でメールしち
ゃったよね。

でも、私って、中学時代はなんだかとても地味だったように
思えていて、「よく利田さんと一緒にいた井口ですよ」なん
て、 律島クンが覚えてるって、せっかく書いてくれてるのに、
自分のこと、ホントに覚えてるのかなって、そればかり気に
なって、メールにそんなことばかり書いて、バカみたいだよ
ね?ワタシ。

トシダさんは、つまり、アキちゃんと言ったほうが早いかし
ら?
ウン、コーラス部で一緒でした。卓球部で一緒でした。
女のコにも人気があったし、男の子からもね。
ボーイッシュというか、たまーに、すねたりして、それがカワ
イイ !なんて女子の間では言われてたんだけど、やっぱり、律
島クン、よく覚えていたよね?

くれたメールで
「そうだね、井口さんは利田さんとよく一緒にいたね。卓球部
の部室の前を通ったら、たまたま戸が開いていて、ピンポン
玉が廊下に飛び出してきて、それを追っかけてきた利田さん
を見たんだ」なんてあって、それだけじゃなくて、

「1年生の時に井口さん、交換日記やってたよね?違うかな?
井口さんから受け取ったノートを利田さんが誰か男の子に
パッと取り上げられて、それを男子トイレに持ち込まれて、
『トシダの好きな人の名前書いてあるんだろ?!見てやる
ゾっ』なんて言われて、利田さん、男子トイレの奥・・・
個室まで追っかけて、その男からノートを奪い合って、少し
曲がった状態でなんとか奪還して、見られなくてよかったァ
なんて安堵の表情を 浮かべていたのを覚えてるかな」って
あって、私につながるのは、アキちゃんの想い出ばかり。

なんだかね、そんなことを思い出して、少しせつなくなっち
ゃった。

あのころね、人気あった男の子、誰だか知ってる?
ブッブー!残念ながら律島クンじゃあないよ。律島クンも
あまり目立った感じがなかったよね?どっちかというと地
味だった。
違うか・・・地味よ言うより物静かで、授業中に私のななめ
前の席で、あの頃、詩を書いてるのは知ってたから、授業聞
いてるふりをして詩でも書いてるのかと思ったら、ノート一
杯に自分をデフォルメしたマンガを描いていて、そういう
文系のイメージがあったから、その思いきりヘンなマンガを
見て、一人で噴き出したりしてたんだ。

中学の3年間、人気のあった男子はT君。スポーツ万能の、
今思えば典型的なモテる男子。で、なぜかその友達・・・とい
うか親友とされていたのがなぜか律島クン。

「おかしいよねえ? あんなカッコいいT君と律島が親友だな
んてねえ」と女子の間ではよく言ってたんだよ。
浅黒くて背の高いT君と、色白で、あの頃から猫背の律島クン。
このコントラストはすごく対照的だった。

でもさ、そんなことは一切書かないで、律島クンの思い出だ
けを、 ただ書いているのに、律島クンの思い出の中に出てくる
私は、アキちゃんの友達の、口をきいたこともない井口みよこ。

ここしばらくメールを休んでたのは、ウン、なんか、つらく
てさ。
もうとっくの昔に結婚して、中学の卒業を控えてる子供がいる
ワタシなのに、へんだよね? こんなこと書いてるの。

だって、ホントに、たまたま見つけちゃったんだもん。
律島クンのこと。

こんな便利な時代になっちゃって、われわれが10代の頃には
想像もしえなかったことだけど、時代がもう少し遅かったら、
もっと早く律島クンと、あまり話したとのない律島クンと
こんなふうに話せたのにナ・・・・。」

ミス・ファイン

ミス・ファイン

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-18

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