鯉
透明な空に、螺旋状の模様がついている
水槽の中には、何がいるのでしょう
水面がゆらゆらと優柔不断になっているから、もしかしたら、誰かさんを隠しているのかもしれない
ぽちゃんと、石ころを投げた
投げた反動で、空が、大きく笑った
あっ、と思わず声をあげてしまう
三毛猫みたいな色をした淡水魚がいる
いた、泳いでいる
本当だ
ほらね
大きくて、美しい鯉だ
鯉は、青と緑の横断歩道の上を赤信号で渡って、
「私には、高い値が付くでしょうけれど、存在価値なんて、皆一緒よ。生き物なんて、みんな一緒。
鯰髭人間だって、漆塗りの車に乗って威張っているけれど、沢山怖い物があるんだから」
と言った
雲に白く刻まれているのは鍵盤
あの子のランドセルは、初めて塗った、真紅の口紅の色
鯉の目を通す景色は美しい
水面は、相変わらず澄んでいる
透明なものは、透明なだけではいけない
透明には、水底の色を写し取ることができる、心が必要だ
鯉は泳いだ
水面を揺すり、水底の色を豊かに変えたのは、三色の上等な鯉
鯉