明日笑って死んでやる

明日笑って死んでやる

死という現実、それを前向きに捉えられることはできるのだろうか・・・・。

明日笑って死んでやる

 「明日笑って死んでやる」彼は病院のベッドの上で私にそう言った。

彼との出会いは、私が大学生のときだった。

いつも一人ぼっちの私とは違い、いつも友達に囲まれていて、周囲のムードメーカー的存在の彼があるとき何を思ったか私に声をかけてきたのだ。

「いつも、独りだね。 君」さすがに私も驚いた。今まで一言も話したことの無い人に対しての第一声の言葉とは到底私には思えなかった。

普通なら「ほっといてくれ!!」と突き放すところだが、彼の第一声があまりにも無礼で、あまりにも面白かったため。

「君は独りの良さを知らないのかい?」と少し小馬鹿にしたような口調で彼を挑発してみた。

すると彼は「知ってるさ、独りはいいもんだ、深く物事を考えれるし、いろんな些細なことにも気づくことができる」「独りは決して寂しいものじゃない」

彼の言動に私は驚きと私の心の中で止まっていた何かが急に動き出すのを感じた・・・・。

さすがに、そんな返答が来るとは予想もしていなかったのと、私の他にもここまで的確に独りの良さを知っている人が居たことに、

なんともいえない、感激というか感動というか衝撃のようなものを感じた。

 それからは、彼とは良く話すようになり、私が独りで居るときに考えてる空想話や哲学、いろんなことを話した。

この話をしても、今まで私の周りに居た人達は誰も興味を示さなかったし、聞く耳も持ってくれなかったのに

彼は私の話を楽しそうにかつ真剣に聞いてくれた。

「人間はさ、他人の誤ちは責めるけど、自分の誤ちは擁護するんだよ」

「自分の誤ちは確かに自己防衛の為に擁護するのは仕方ないけど、他人がした誤ちってさ、明日自分がするかも知れないのになんであんなに責められるんだ」

という風な哲学的な話をしても彼は真剣に聞いてくれた。

価値観や考え方が似通うっていた私たちは、大学卒業までには親友と呼べる仲になっていた。

 大学卒業後は互いに就職して、会社は別々のところになったけど、彼とは休みの日などはちょくちょく会って、朝から日が暮れるまで話ばかりしていた。

彼との出会いで私の人生が変わったのは言うまでもない、正直自分自身、人との出会いでここまで人生が違う色に見えるとは思っていなかった。

 しかし、悲しい知らせは急に訪れた・・・・。

彼が倒れたという知らせが彼の母親から私に入ってきた。

 私は急いで病院に駆けつけた。そこで見たのは、呼吸機器を付けて苦しそうにしている彼の姿だった・・・。

彼の母親が私に言った。「来てくれたんだね。ありがとう・・・。あなたとはいつも息子と仲良くしてたから知らせとこうと思って」

彼は苦しそうだが意識はあり、息を切らしながら「よぉ・・・来てくれたのか・・・・・・悪いな・・・・し・・心配かけちまって・・・・・」

「いいから、喋るな。 安静にしてろ・・・。」と私は彼に言った。

30分くらいだったか、いやそれ以上か、私は彼の手を握り、見守り続けていると。

彼の母親が「ちょっと、いいかしら」と彼が眠りにつくのを見計らって、私を病室の廊下へ呼んだ。

「息子の病気はね重病でかなり進行が進んでるらしいの、もってあと1年・・・」涙をこらえながら私に彼の母親が言った。

「手術を受ければ、治るかもしれないらしいけど、成功率が5%以下だそうで、私どうしていいか・・・」

「母親の私が、あなたに聞くのもどうかしてると思うけど、息子に話すべきかしら・・・」と私に聞いてきた。

私はすぐに答えた。「話すべきですね、選択肢があるならそれは本人が決めることですから、彼の人生、彼自身で選ばせてやってください。」

母親は言った。「そうね、めそめそしてる場合じゃないわね、しっかり伝えなくちゃね本人に・・・」と言うと、さっきまで涙でいっぱいだった目を拭いて急に決意を固めた目に母親は変わった。

そのとき、あぁ 母は強しとはこういうことかと私は思った。

彼に選択肢のことを告げると、彼は迷わず手術を受けることを決めた。

彼ならきっとその選択をするだろうと思っていた私だったがやはり、心配の色は隠せなかった。

それを見かねて彼が私に言った。「心配するな。俺の運のよさを舐めるなよ。町内のくじ引きで一等が当たった男だぞ」と明るい言葉ではあるが弱々しい口調で彼は言った。

私は「そうだな、心配ないな・・・」と言って無理に笑って見せた。

 そして、手術前日の日、彼の病室に私は見舞いに来ていた。

「ホントはな俺も怖いんだ、死んだらどうなっちまうか分からないからな」 「もう、お前と話せなくなると思うとホントに怖い・・・」

それが、彼が私に見せた初めての弱気だった。

「でも、やっぱり君は受けるんだね手術・・・」と私は言った。

「受けるさ、止まったままで死を待つくらいなら、ちゃんと挑んで死と戦うさ・・・」

「俺は負けないさ・・・。もし俺が明日死ぬことになっても」

「明日笑って死んでやる!!」と彼は不安を心に秘めながらも明るく笑って見せた。

それが、私にはとても眩しく、美しく見えたんだ。人間ってこんなにも美しくなれるもんなのかとそのとき思った。


 手術当日、彼と再度握手をして、心を交わして彼をいや、彼はよそう、親友を見送った。

手術室の手術中のランプが赤く点灯した。私は手術室傍の長椅子に腰掛けて手術の終わりを待った・・・・。

待って、待って待ち続けた・・・。どれくらい待っただろう、かれこれ2時間は経った気がする。

ふっと時計を見るとまだ1時間ほどしか経っていなかった。

時間がとてつもなく長く感じる。その間に親友との思い出が走馬灯のように思い出され、私の胸を苦しくさせる・・・・・。

手術は6時間に及んだ、手術中のランプが消え、医者の人達が出てきた。

親友の母親が駆け寄って「息子は無事ですか?」とたずねた。

医者はくやしそうな表情を浮かべてただ首を横に振った・・・・・。

親友は死んだ・・・・・・。


霊安室で親友の遺体を目の当たりにした・・・・・・。

私はおもむろに親友の顔に被さっている布をめくった。

私は急に涙が溢れ出して止まらなくなった。「ばかやろうぅぅぅ・・・」親友は笑っていた。

手術前日に言った言葉 「明日笑って死んでやる。!!」 そのとおり親友は笑っていた・・・。

それから、月日が経ち、私は度々、親友の墓参りに行くようになった。仕事も忙しく毎日というわけには行かないが、休みが取れれば親友の墓に行くようにしていた。

そして、何時しか彼の言った言葉 「明日笑って死んでやる!!」が私の人生の生き方の基準になっていた。

つまり、たとえ明日死ぬとしても、笑ってられるぐらい納得して生きてやるっといった具合だ・・・・。

まぁ、親友の居ない今じゃこの言葉を真剣に聞いてくれる人もこの世には居ないか・・・・・・。

そう思いながら、親友の墓前に私は「独りはやっぱ辛いぜって」とつぶやいていた・・・。

明日笑って死んでやる

明日笑って死んでやる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-16

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