星に願いを
黒歴史ブログに載せていた作品の一つ、1話のみで続きはありません。
文章の正しい書き方、ルールもわからず適当に書いてます。
第1話
『おはようございます。7月7日、月曜日のお天気をお伝えします。全国的に青い空が広がり、過ごしやすい天気となるでしょう。織姫様と彦星様にとっても良い1日になるといいですね。』
通学途中の電車の中、俺はさっきまで家で見ていた天気予報を思い出した。
そういや今日は七夕らしいけどなんかピンとこない。
まぁそうだろうな、ここ何年も短冊に願い事を書いたことなんてないし、それにもう高2なんだぜ?やらねぇよ普通。
けど、俺がガキだった頃は、何を願ってたんだろう。そん時流行ってた戦隊モノのおもちゃ?最新のゲーム?それとも彼女……ってそれは今の俺じゃねぇか。あー彼女欲しいなぁ、夏休みに一緒に花火大会とか行ってさ、そしたら彼女がすげぇ可愛い浴衣なんか着ちゃってさ、そんで手なんか繋いだりしてさ。
あーダメだダメだ、こんなこと考えてたら余計に切なくなってくるな、ていうかそろそろ降りねぇと。
通勤ラッシュの波をかいくぐり、当たり前のように改札を抜けて、外に出ると、もうすでに平川の奴が待っていた。
「おー石田、ん?なんかいいことでもあったのか?顔がにやついてるぜ」
はぁ?という台詞と同時に、心の中では、しまった!と大声を上げた。さっきまで考えていたアレの余韻のせいだ。ということは電車を降りる前から終始にやつきっぱなしってか?なんてこった。絶対になんかやましいことでも考えていると勘違いされてるよ。もうあの電車乗れねぇじゃん!
とりあえずコイツにも誤解されないようにと、俺は思いついた言葉でごまかした。
「七夕だよ、七夕」
「えっ?お前ってそんなにロマンティストだったっけ?」
「うるせぇよ、まぁ柄じゃねぇけどさ、お前だったら何願うよ?」
勢いで訳分からねぇこと聞いちゃってるよ。俺なにやってるんだろう……。
けどそんな真夏の自動販売機が熱いおしるこを売っているような俺と七夕の組み合わせにも、コイツはえらく真面目な答えを返してきた。
「そうだなぁ……大学合格なんてどう?」
「なんか現実的だな」
「ははっ、そうか?でも俺達ってそういう立場じゃん?」
「お、おう」
俺は予想外の答えに返す言葉がなかった。
「この前の期末も上々だったし、次の模試も結構やる気出てんだよなぁ。で、お前の願い事は?」
「彼女」
ぼそりと言ってみたものの、なんか照れくさい。
「ぷっ、まだそんなこと言ってんのかよ。ま、お前らしいけどさ。そろそろ目先より将来に視点合わせたほうがよくね?」
気の抜けたユルい話のはずだったのに、ずいぶんと真面目な正論が飛んで来た。
「説教してんじゃねぇよ、何マジになってんだよ」
「え?あぁ、悪ぃ」
思わず言っちまった。それは平川が急に優等生気取り……まぁ実際そうなんだが、そういう態度がムカついたんじゃなくて、自分が情けなくて八つ当たりしちまった。将来の事を真面目に考えている奴の横で彼女欲しいとかダサいことを言っている自分にイラついた。
そして俺はその場にいることが嫌になって、残り数百メートル先の校門まで平川を置いてきぼりに走ってしまった。
そん時のアイツの顔は見えなかったけど、逆ギレされたんだ、多分ムカついたに違いない。後でちゃんと謝まろう。
昼休み。
多分平川の奴は屋上にいる。購買部で買ったお詫びの品、コーヒー牛乳を片手に屋上への階段を一気に駆け上がり、少し重い鉄の扉をガタンと豪快に開け放ち、梅雨明け目前の青空に目をやってからアイツがいつも座っているフェンス脇に視線を落とした。
けど平川はどこにもいなかった。
その代わりに一人の女子がいた。
肩にちょうどかかるくらいの髪を時折吹くそよ風になびかせながら、彼女はそこから見える街の景色を見下ろしていた。彼女が誰なのかはすぐに分かった。
神原 紗流々。
同じクラスで成績優秀、容姿端麗。だけど少し病弱で体育なんかはしょっちゅう休んだりしてるし、いつも何考えているのか分からないようなどこか近寄りがたい雰囲気のせいか、彼女が誰かと一緒にいるところを俺は見たことがない。
けど俺はそういう面も含めて彼女に密かな想いを……完璧じゃないところが逆に良かったり、そう、何しろ彼女が時々見せる天使の微笑みがそりゃあもうたまらない。
とにかく俺は目の前にいるあの子に心を射抜かれちまっている……ってなんか俺気持ち悪っ。
鈍い金属音が飛び散ったうるさい登場シーンだったにも関わらず、神原が俺に気付いたのがまるでたった今かのようにこちらを見た。
目があった。
どうすりゃいいんだろ?このままここを去るのは違う気がするし、俺がそうすることを許さない。
「あのさ、平川見なかった?」
俺は無意識にそんな台詞を口走っていた。
自分でその事に気付いたのは神原がこれを聞き終わった後だった。
「……知らない」
彼女はポツリと言った。
俺はありがとうと言って再び鉄の扉に手をかけた。
屋上で好きな子と二人きり。こんな最高のシチュエーションは滅多にねぇけど、あいにく俺はそれに見合う勇気を持ち合わせていない。
どうせ臆病者さ、だから彼女ができないんですよ。
勇気ってのは必然的に沸き上がってくるものであって、そこらへんに転がっているものではない。
だけど運命ってのは常に偶然なものでどこで何が起こるか分からない……いや待てよ、運命こそ神に構成された必然的なものなのか?っていうかどっちでもいい。
「ねぇ」
不意に聞こえた女の子の声。
それは水晶のように透き通ったもので一度触れれば壊れてしまいそうなほど繊細であり、どこか氷のように冷たくも感じた。
ここで女の子つったらどう考えても神原しかいない。
え?俺なのか?でも何で?
無限に溢れる疑問符の泉に栓をして振り返ると、案の定俺にらしかった。その証拠に少しうつ向き気味にもちゃんと俺を見ていた。
なんだこの展開?告白じゃね?告白だろこんなの。
俺は脳内に立ち込める妄想の煙を払い、あくまで平静を装い返事をした。
すると彼女は突然あまりにもぶっ飛んだ発言をした。
「今日で……世界が終わるとしたら……石田君ならどうする?」
は?としか言葉が出なかった。一体何のことを言ってるんだ?
「え?いや、何の話?小説?ゲーム?」
「そのままの意味」
何がなんだかさっぱり分からない。
とりあえず今、この状況で分かっていることは、目の前にいる片思いの女子が実はとんでもなく不思議ちゃんだということだけだ。
さらに彼女は自分の世界を広げていく。
「私は……人間じゃないの」
それは、確かに告白ではあった。
星に願いを