the Horror Show−2−
1:ちょっとした遊び
意識を集中させてください。
あなたは今、視線を感じています。
恐れないで、部屋の中の、もう1人の誰かの存在に集中してください。
さぁ、目を開けて。
後ろに誰かいましたか? いませんね。
では皆様、上は確認しましたか?
2:運動会のビデオ
今日は運動会。息子が百メートル走で走る。
今年は小学校最後の運動会。子供の勇士をこのビデオカメラにおさめるのだ。
「位置について、ヨーイ……」
銃声が鳴った。
子供達が一斉に走り出した。息子を見つけると、そちらへレンズを向ける。
……あれ?
何だろう、息子の背中に何かついている。
黒い靄みたいなものだ。汚れかと思ったけどそれも違う。
でも、このカメラも古い物だし、そろそろ寿命なのかもしれない。
結果、息子は4位。1位が取れなかったのは残念だったけど、それでも頑張ったと思う。
その夜。
息子が悔しそうに文句を言っていた。
「あーあ、練習したのに駄目だったよ。身体がちょっと重かったんだよな」
「へぇ」
息子は嫌がったが、せっかく撮ったのだからと、今日の勇士を家族で見ることにした。
開会式、大玉送りがあって、いよいよ息子が走る瞬間だ。
「え? 何コレ?」
黒い靄は消えていた。
代わりに、息子の背中に白い制服を着た女の子が覆い被さっていた。
3:物音
うるさい。
夜、寝ようとしていると、上の階からザーッ、ザーッという何かを引きずる音がする。
隣人トラブルが起きると後々面倒になるので、ずっと我慢していたが、ここのところ音がする時間が長くなって来た気がする。この音のせいで不眠症になってしまった。
ほら、今日も引きずる音がする。
ザーッ、ザーッ。
何をしているんだろう。タンスでも動かしてるのか?だとしても、もう引っ越し作業も済んだだろうに。
文句を言ってやりたいが、ビビリなのでそれは出来ない。報復が怖い。倍返し、倍返しの世の中だ。何されるかわからない。
でも、ちょっとは反撃してやりたい。そこで、部屋に置いてある箒を持って来て、音がしてから天井を突くことにした。
ザーッ、ザーッ、ザーッ……今だ!
思いっきり天井を突いた。
何だか達成感があったので、もう2発、3発と続けて突いてしまった。
すると、相手もそれに気づいたのか、あの引きずるような音はしなくなった。
勝った。勝ったんだ。
今日は良く眠れそうだ。鼻歌まじりに布団を敷いて、電気を消して横になった。
さぁ、明日は早い。もう寝なくちゃ。
……ザーッ、ザザーッ。
まただ。
懲りない人だな。せっかくウトウトしていたのに。ブツブツ文句を言いながら身体を起こし、天井を睨みつけた。
天井に、長い髪を垂らした女の人が張り付いていた。
4:【実話】稲川さんのテレビ
稲川淳二さんの特番を4日連続でやることがわかった。
今日は第1回。視聴予約をして、テレビの前で待っていた。
数時間後、自動的にチャンネルが変わり、いよいよ番組が始まった。
タイトルと同時に怖いメロディが流れる。
そしてその数秒後、部屋に置いてあった物が音を立てて盛大に落下した。
5:黒い服の女
ある夜。
自宅アパートに戻ってくると、1階の角部屋の前に、黒い服を着た女の人が立っているのが見えた。ライトに照らされているその姿は何だか不気味だった。
女の人は凄い勢いでドアを叩いている。ノックしているなんてものじゃない。殴っているのだ。
何だか怖くなって、2階の角部屋にある自室に戻った。
翌日の夜。アパートに戻ってくると、またあの女の人が立っていた。
今度は角部屋の1つ隣の部屋。昨日と同じように、凄い勢いでノックしている。
「何なんだろう」
関わるのが嫌だったので、今日も足早に自室に戻って行った。
その翌日、そのまた翌日も、あの黒い服の女は現れた。しかも日を追うごとに立つ部屋が変わってゆく。
1階2階合わせて4部屋ずつあるのだが、5日目には2階の、階段を上がってすぐのところにある部屋の前に立っていた。
怖かったが、早く帰りたかったので駆け足で部屋に戻った。
女が近づいている。
日が経つ毎に部屋を移動している。また、あの女が現れるのは決まって夜の11時だ。
このままいけば、明々後日には自分の部屋の前だ。
2階に移動してからの2日目、3日目は本当に恐ろしかった。特に3日目は、すぐ隣からあの音が聞こえてくるのだ。
そして、運命の日。
歩く速度を落として帰って来たが、結局11時前に着いてしまった。
階段を上がり、2階に行く。まだ女はいない。下を見ても女の姿はない。
いや、でも女はノックをするだけだ。朝まで耐えれば良い。それに、今日は神社で御札を買ってきた。霊だという確証は無いけれど、あった方が良い気がする。
鍵を開ける前にドアに御札を貼る。これで女も来られまい。
だが、貼った直後に、
「ううう」
という女性のうめき声が聞こえた。
急に背筋が寒くなってきたので、大慌てで部屋の中に入った。
玄関でうずくまり、じっとしている。
時計を見ると10時59分。もうすぐノックが始まる。耳を塞いで目を瞑った。
……ところが、いつまで経ってもノックの音はしない。
やった、あの御札が効いたんだ! 思わずガッツポーズをしてしまった。
安心すると急にお腹が空いてきた。さ、手洗いうがいを済ませて食事をしよう。
廊下の電気をつけて洗面所に行き、電気をオンにした。
真後ろに、黒い服の女が笑みを浮かべて立っていた。
6:花子さん
放課後、友人4人と一緒に学校のトイレに向かった。話題の、「トイレの花子さん」を呼ぶ為だ。
「ねぇ、もう止めようよ」
友達に無理矢理連れて来られた、同じクラスの女の子が言った。この様子だと、強引に連れて来てしまったらしい。
「大丈夫だよ、前にもやったけど何も起きなかったし」
「だから、何も起きない方が良いんだってば」
「うるさいなぁ! 私の言うことが聞けないの?」
友人はたまに怖い面を見せる。その部分は、自分はあまり好きではなかった。
女の子も黙ってしまった。何だかこっちが申し訳ない。
友人が奥のドアをノックし、花子さんとやらに呼びかけた。
「花子さん、遊びましょう」
当然、返事は返って来ない。あんなの単なる迷信なのだから。
「おかしいなぁ」
言いながら、友人達はドアを開けて中を調べ始めた。私も何だか気になってきたので見てみたが、やはり中には何もいなかった。
「何も起きなかったね」
「なぁんだ、つまんないの」
「じゃあ、帰ろうよ。……あれ? あの子は?」
個室から出て来ると、そこにはもう女の子の姿は無かった。
友人によると、その子の名前は「鈴木花子」と言うらしい。
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