ルイーズと光の守手

第0章 プロローグ


 少女の後を、闇がヒタヒタとつける。少女は走るが、闇を振り切ることはできない。そればかりか、距離はどんどん縮まっていくような感覚さえするのだ。しばらくして、それは感覚でなく現実であることに少女は気づいた。
「来るな…来るな…」
 呟きながら少女は走る。闇は後をつける。
「お前は私が怖いかね?」
 闇が突然、少女にささやきかけた。少女はビクっと肩を震わせ、少し立ち止まった。ハッと我に返ると、少女はまた走り出す。闇から少しでも逃れたい、それだけを考えて。さっきから全力で走っているのに走り疲れることも無かった。
「私は何も怖くないんだ」
 闇に向かって少女は走りながら言った。闇はそれを聞いてククっと笑っただけだった。少女にはそんなことどうでも良かった。闇から逃れられる気がする…。そう、すぐ先に光が見える。もう少しで闇から逃れられる。
「お前は自分が怖いな?」
 その言葉に、少女は気を取られた。そして、その体がぐらりと傾き…少女は躓いた。なぜ躓いてしまったのか…その時、少女は理由を考える心の余裕など無かった。ただただ、闇が怖かった。地面に座り込んだ少女は、恐る恐る振り返った。そこには虚無の世界…闇が広々と両腕を伸ばし、少女を飲み込もうとしていた。
「来るなぁー!!」
 そう叫ぶと少女は意識を失った。深い深い闇に…

 

第1章 不吉な前兆


 すべての始まりは、ここからだった、と言っても過言はないだろう。ジネットはため息をついた。
「やれやれ、まったく…」
 ここはレアノ帝国。魔術師で溢れかえっている。魔術師にはそれぞれレベルがあり、力、位共に低い方から高い方に記すと、見習い魔術師、9?1級魔術師、聖魔術師今はナヴォワジル王朝第16代の女帝グラシアーヌが1人でこの国を治めているのだ。この星一の大国であるレアノ帝国は、様々な産業が盛んで、治安も良い。まさに「平和の象徴」とも呼べる良き国家である。
 それは別として…、ジネットには頭を煩わせている悩みがあったりする。いつもプライドが高く高慢な彼女ばかり見ている周りの者からすると想像できないような立ち振る舞いだった。と言うのも、彼女の孫であるルイーズが中々彼女の言うことを聞かないからである。ジネットはグラシアーヌからルイーズの教育係りを命じられていた。教育といっても単なる勉学ではない。魔術の勉学だ。ジネットは、ルイーズをこの国の聖魔術師にさせるために毎日必死に教育しているのだった。しかし…
「ルイーズ、いいかい?魔力はでたらめに使っちゃいけない。それはお前の命を取ることにもなってしまうからね。気をつけるんだよ。」
 と、ジネットが言うと
「どうして?私の中の魔力を無限に使えたらいいのにね、おばあ様。そうしたら、私どんなことでもやってみせるのに。」
 そう答えたのだ。
(何だね、このバカバカしいことを言う娘は!!!)
 こういったやり取りが二時間半も続き、疲れ果てて、ストレスも溜まりまくっているジネットなのだった。ルイーズの魔力が、普通の見習い魔法技術学校の生徒を合わせたものより強いことは、ジネットも、グラシアーヌ女帝も分かっている。しかし…当の本人は丸で分かっていないのだ!!ルイーズは確かに強力な魔力を持っているが、コントロールができない今、下手に目を離すとそこら中を焼け野原にしてしまいかねないこと。まぁ、気付いていないなんて思い込んでいるのは周辺の大人たちだけで、ルイーズにはちゃんと分かっていたのだが。しかし、ルイーズは欲しかったのだ!何がって?友達が…。
 ジネットはルイーズをやっかいな孫、としか思っていなかった。それをルイーズは感じ取っていたから、祖母にはなつかなかったのだ。それが分からないジネットは、孫とかかわった時は四六時中イライラし通しだった。ジネットは相手の気持ちを読み取れない。他人のことを一番に考えることができないのだ。それは、ルイーズにとってはとても悲しい事だった。
 祖母は決して、友達が欲しいという自分の切実な願いだって聞き入れてくれないに違いない。でも、こればかりは折れてしまいたくない…。バレてしまったら大目玉を食らってしまうのは確実だが、ルイーズは友達を作るためにある行動を起こそうと決心した。
「よし。おばあ様には叱られるわ。それは仕方が無いもの。でも…私行くわ!」
 ルイーズは見習い魔法技術学校へ乗り込むことにしたのだった。
(今まで私は、とても幼かった。それに、おばあ様にずっと気に入られようと頑張っていたわ。でも、今私がやるべきことは、おばあ様に媚を売ることではないと思う。ないに違いないわ!!私は15よ。やれば、きっとできる。)
 場所はしっかり把握している。なぜなら、家の前にある丘を下っていくと、すぐに学校は見つかるからだ。学校には、生徒は1000人を軽く超す人数が居るので、校舎や敷地はとてつもなく大きかった。そこには、ルイーズと同じくらいの子供はもちろんの事、色々な国の生徒がたくさんいる、らしい。といった事しか、魔術師学校について彼女は聞いたことが無かった。
「それも今日で終わりよ。おばあ様やグラシアーヌ陛下がどうして私を民間人から遠ざけるのかは分からないけれど…私は人生で初の友達を作ってやるのよ!!」
 計画実行は、明日。彼女は窓の外の、数回しか出たことの無い外の世界を見ながらそっと囁いた。希望に胸を躍らせて…。
 明くる日の朝。いつもより少し早めに起きたルイーズは、ゆっくりと仕度を始めた。そして朝食を取っていると…
「ルイーズ、何か企んでいるのかい?おまえ今朝から口元が緩みっぱなしだよ。」
 ジネットがそう言ってきた。ルイーズはこんな詮索には慣れっこだったので、あっさりとかわした。
「そうかしら?お庭の薔薇がキレイに咲いたから、私今とても嬉しいの。ほら、おばあ様見て。青薔薇さんとかキレイでしょう?」
 そう言って無邪気に笑ってみせた。するとジネットはため息をついた。
「そうですか。薔薇なんてどうでもいいから、早く一人前の魔術師になってくれると私は本当に気が楽になるのですがねぇ…。ほら、さっさと朝食を食べておしまい。」
 それを聞いたルイーズは心の中で笑っていた。
(薔薇なんてどうでもいいですって?貴方は女性じゃないの?女性ならもう少しお花を愛してみたらどうかしら?)
 ルイーズは花が大好きだ。特に薔薇が好きで、自分の家の大きい庭でたくさんの薔薇を育てている。ジネットはルイーズが花の話をするとそんなものどうでもいいから魔術の勉強をしろ、と言うのが口癖だった。それがルイーズにとって嫌で嫌でたまらなかった。それでも、今日はそれ程までに気にならなかったのが事実だ。ルイーズにとって友達ができるということは、今はこの世界で何よりも輝いて見えたのだった。
 数時間後。ルイーズが部屋でくつろいでいると、ジネットが部屋の扉を叩いて言った。
「では、私はグラシアーヌ陛下のところへ行って来るから、留守番をしっかりしておくように。」
 それだけ言うと、ジネットは出かけていった。チャンスは…今だ。

ルイーズと光の守手

ルイーズと光の守手

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-09-11

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