快適な部屋
超短編です。
何が快適なのか、人によっては様々な思いがあると思います。
皆さんは、どんな快適な過ごし方をしていますか?
近未来の快適な世界。どちらが快適なのか?
若い男が、3㎡の部屋に住んでいた。その部屋は、床も壁も柔らかい素材でできていた。
彼らは生まれたときに、遺伝子的に問題があったり、一歳までに性格的に問題があると認められた時点でこの部屋で過ごさなければならない人間で、一般の人とは隔離されて一生を過ごす。
その部屋は、いつも快適な温度に設定してあり、窓は無かった。その男は、小さい頃からずっと一人でこの部屋に暮らしていた。
おしめを替えるのも、壁が変化してひとの形になり、きちんと変えてくれる。ミルクもひとの形に変わった壁が抱いてくれて与えてくれた。寝るときは、ひと形に浮き出た壁に添い寝してもらって、柔らかく暖かな床に包まれて眠った。
そして、ある程度大きくなると壁が画面になり、床から机が浮き上がり学校となった。そして学校が終わると、壁からひと形が盛り上がり、壁の変化した人とと会話し遊んだ。鬼ごっこも駆けっこも床が動いき、壁が景色を変化させて本物の鬼ごっこや、駆けっこと同じように出来た。
そして男が成人に近くなり、教えなくても異性に対して関心を持ち始め適齢期になると、床から男の好みの女性が出現し、男は愛の行為に耽った。その精液は壁に飲み込まれていった。
男は、特に仕事をするでもなく、壁から出てくる食事を食べて、壁の変化した友人や、恋人と語り、壁の本を読み老いていった。男は死に面して独り言を言った。
「人口が多くて、狭い部屋だったが友達も出来、穏やかないい人生だったなぁ。ロボットが全てやってくれる世の中らしいけど、残っている自然というものを一度見てみたかった」
男が住んでいた部屋は、工場の様な一角にあり広大な四角形の塊であった。男が死ぬと自動的に壁が開き、男が吸い込まれ処理されていった。
男が住んでいた、その工場用のような周りには綺麗に手入れされた街路樹の奥に、洒落た一戸建ての町があり普通の男と女が暮らしていた。
「ねえ、あの一角には遺伝的に劣った人が一生隔離されてるんでしょ。かわいそうにね」
「うん。そのおかげで人口も調整でき、自然は豊富で快適な世界になってるんだろうけどね。優秀な遺伝子も残せて、一番の方法らしいね。生まれたばかりで、隔離されて一生地獄を味わうんだろうね。僕たちは彼らの分もこの厳しい社会で幸せを掴まないとね」
「うん」
競争によるストレスで、自殺の絶えない世界の中で家族は楽しそうに遊んでいた。
快適な部屋