アップルパイからはじまった。(3)

アップルパイからはじまった。(3)

中瀬さん、愛してます。

中瀬さんが大好きで、仕方なかった。恋だと思った。愛だと思った。

渋谷駅の、モヤイ像前
啓次は、こちらに気づくと携帯を閉じる。
おおかた、他の女の子にでも連絡をとっていたのだろう。

ピタッとした暗いブルーのスキニ―ジーンズに
ブラックのジャケット。インナーはだいたい白。
日焼けサロンで焼いた、肌とのコントラストが好きらしい。
首にはシルバーのネックレスが輝いていた。

「おせーよー。何してたの?」

啓次は私の肩に腕を回し、強引に体を引き寄せる

(遅刻したのは、あんただろーが)

でも、ここで怒ったって無駄。
私は、申し訳なさそうな顔を作る

「ごめんごめん、喫煙所行ってた~」

「ふーん、今日どうしよっか?俺金欠だし・・お前も金ないっしょ?」

―でた。
私はそう思った、啓次がこの会話から始める時は
ホテルに行きたい時だった。
普通のデートを啓次としたって、たいして楽しくなかったけど。

「そうだね~。啓次はどうしたい?」

私は、啓次の腕に自分の腕を絡ませ、横から顔をのぞくようにする
180㎝近い啓次を、158㎝の私は10㎝のヒールを履いても
見上げる形になる。
啓次は、そうやって見られるのが好きだった。

「あ、その顔可愛い。
麻子はー?特にないなら・・・いっちゃう?可愛いから抱きしめたい。」

答えなんて、啓次の中では決まってるのだ。
どうでもいい。啓次なんかどうでもいい。
男なんてどうでもいい。

私と、啓次はホテル街に歩きだした。




中瀬さんと会ってから、3日経った。
私は名刺と携帯をにぎりしめて、悩んでいた。
家に、両親はいない。共働きで帰ってくるのは23時か、24時
でも愛してくれない訳ではない。

優しい、暖かい母親だ。私は母を本当に信用しているし、尊敬している。
ただ、父親とはうまくいっていない。
理由?理由は父親の携帯を見てしまった事があるから。

それが、間違いだった。
父への不信感、男への嫌悪感
父が、(不倫)をしているのを知ったのは中学2年生の時だったと思う。

忙しい家族だった、でも愛がない訳じゃなかった
大切にされていたし、笑顔は絶えない家族だった。

でも、父は不倫をしている。
それは事実なのだ。

とっくに日が沈み、私は自分の部屋に置いてある
オレンジリキュールをとりだし、キッチンに向かう。食器棚からお気に入りの
透明のグラスをとり、氷をいれ適量のリキュールをそそぐ。
炭酸水をいれ、レモンをしぼってから
マドラーであわせる。

―カラカラカラ―

マドラーがグラスに当たる音が部屋に響く
この音が好きだ、お酒も最初は好きでは
なかったけど、これも、また癖になるもの。

灰皿を取りだし、煙草に火をつける
お酒と、煙草
私の夕飯みたいなもの

格好つけているだけだけど。
でも、いつのまにか当たり前になった
ダイエットにもなったし、なにより
一人ではお腹もすかない。

リビングのソファーにこしかけ
再び、名刺を取り出す。



私は中瀬さんの事を忘れられなかった。



一目ぼれ、なのかもしれない。
でも、どんな人かも分からなかったし
怖かった。


でも中瀬さんと話したい
会いたいと思った

「ゼロ、キュウ....」
名刺にかかれた番号を携帯に打つ

耳元に携帯をかざす
無機質な音に、胸がどんどん高鳴る
緊張した

何回目かのコールで中瀬さんはでた。


「はい、もしもし」


中瀬さんの声だ。
心の奥が熱くなる、嬉しい

「あ、あの、前渋谷で名刺をくれましたよね」

覚えてくれているだろうか...緊張で、声が上擦ってしまう

「ああ!パン食べてた子だ!」

覚えていてくれた。
嬉しかった、本当に嬉しかった。

「連絡くれて嬉しいよ、マジで。あ、名前聞いてなかったよね?
なんて名前なの?」

「あ、まこっていいます」

「まこ、可愛い。じゃーまこちゃんって呼ぶね」

「よろしく、まこちゃん」

声から、中瀬さんが笑顔になったのが
わかった。



これが、中瀬さんとの始まり
出会ってから、6年
22歳になる今日まで、あの人以上に
人を好きになった事は無い。



続く

アップルパイからはじまった。(3)

アップルパイからはじまった。(3)

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-03

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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