透明人間ソルジャー

ついに、軍はその兵器の開発に成功した!のだが・・・!?

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 現在、国防軍は多額の巨費を投じて、とある実験に力を入れていた。
 ・・・そう、それは完全なるステルス機能を備えた兵士の開発である!
 目には見えない、完全に透明な兵士。どんな場所にでも、誰にも知られず、密かに侵入することのできる兵士。
 もしも、そんな兵士が作り出せたなら、世界中にはびこるテロリストたちを一網打尽にできることは間違いない!
 それは正に、国家の安定。いや、それ以上に、このテロのは頻発する不安定な世界から、あらゆる紛争を完全と無くし、絶対的な治安を築くための、最強最大の武器になるはずである!
 ・・・そう、それは、真の最終兵器といっても過言ではないものなのだ。

                   *
 そして、まず開発に力を入れたのが、ステルススーツという兵器だった。
 それは最新の光学技術を駆使した装置で、兵士が受けた光の信号を、その反対面にそのままの形で投影することで、あたかも、そこに何も存在しないかのように錯覚させるというものである。
 要するに、それは光の屈折を利用した機械的な装置であり、別の言い方をすれば、光学式透明迷彩スーツとでも言うべき代物であった。
 ・・・だが、残念なことに、その装置の開発は、現時点においては、まったく顕微鏡世界の実現に留まっていて、真の軍事利用には、未だほど遠いものだったのだ。

 しかし!そんな現状において、同時進行中だった、もう一つの研究が、今、正に、偉大な成果を上げつつあったのである!
 ・・・そう、それは人間の肉体そのものを完全に透明化するという医学的技術である。

 つまりは、それまでは実現不能と思われていた『透明人間』を創りだすという、バイオテクノロジー技術のもたらした究極の研究結果だったのだ。

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 その日、エリア666の地下1500mに存在する、その秘密施設の一室には、軍の幹部の他、国防省、諜報省などの関係者が、わんさかと訪れていた。
 それもそのはずで、この研究発表は、今後の世界軍事情勢及び、諜報活動の在り方を根幹から変えてしまうかもしれない重大な研究成果であったからだ。

 そして、そんな彼らの見守る中で、当研究主任の博士が、その手を斜め前へと静かにかざしながら、重々しく言葉を発した。
「皆様、では、ご紹介いたします。彼こそが、我が研究の被験者となってくれた、勇敢なる軍人『アーネスト・ミッチェル軍曹』であります」

 ・・・だが、そこには、誰も座っていない椅子がポツンと置いてあるだけである。
 当然、皆、何の言葉も出ず、ただ眉間に皺を寄せるのみだった。

「・・・・・・・・」
 シーンと、静まり返る室内。

「あははははははは、やはり、皆さんお分かりにならないようですな。
 ・・・いや、しか~し、それこそが、完璧なる証明なのです。あははははは!」
 博士は余裕で、そう言って笑った。

「では始めます」
 博士の合図を受け、白衣姿の助手が部屋の隅に置かれていた自動小銃をそっと手に取り、誰も座っていない、その椅子へと近づいて行った。
 そして、椅子の方にその銃を差し出すと、何故か銃は空中に浮かんだままスっと止まった。まるで手品でも見ているような光景だった。
「お~っ、!」
 と静かな歓声が上がった。・・・だが、本番はこれからだった。

「では、軍曹。その自動小銃を一度分解し、再度組み立て直してくれ」
 すると皆の目の前で、その自動小銃は、ひとりでにバラバラに分解されていった。そして、一度バラされたそれらの部品は、またすぐに、再びスムーズな流れで元の形へと組み直されていく。
「ウオ~ッ!!これはすごい!!!」
 皆が、すぐ眼前で生じた、その光景に思わず驚きの声を上げた。そして同時に、この実験の完全なる成功を実感させられていた。
 ・・・だがそんな時、ふと、一人の若い将校が、とある提案した。

「・・・あのう、銃器の扱いは良くわかりました。ですが次に、ナイフの扱いを確認させていただけないでしょうか。やはり隠密作戦においては、銃器より、音を立てないナイフの方が、より重要ですからね」
 するとその言葉に、軍事関係者だけでなく、諜報機関の連中も頷いた。

「ああ、・・・はあ、そうですね。わかりました」
 博士は少し困惑したものの、すぐに納得し、そう言って了承した。

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 完全なる透明人間兵士となったアーネスト・ミッチェル軍曹の手には、艶の良い赤いリンゴと、果物ナイフが握られていた。
 ・・・だがまあ、今更言うまでもないが、皆の目には、それらリンゴやナイフが、ゆらゆらと宙を浮いているようにしか見えない。

「では軍曹、ナイフで、そのリンゴの皮を剥いてくれたまえ」
 博士が、そう声をかけると同時に、リンゴは空中でゆっくりと回転を初め、そしてその皮は、やはり空中に浮遊しているナイフの刃先に削がれるように、スルスルと剥き落とされていった。
「ウオ~ッ!!!、これはスゴイ!完璧だ」
 思わず、ロバート中将が唸るような声を上げた。すると、その周りの連中も同調するように「ウムウム」と深く頷いた。

 ・・・だがそんな時、またあの若い将校が、皆の感嘆を遮るように言葉を発した。
「いや、ではもう少し、複雑なこともお願いできますか?・・・そう、例えば、ウサギさんのリンゴを作ってみるとか?」
 その言葉に、一瞬、皆から笑いが吹き出た。だが、すぐにまた静かになった。
 ・・・そう、その若い将校の目が、実に真剣だったからだ。

                   *
 そのリンゴは、小さなテーブルの上で、まず6分の1に切り分けられた。そして、その内の一つが、またスーっと宙に浮き上がった。
 そしてその後、果物ナイフはゆっくりとリンゴの皮に、斜めの切れ込みを入れ始めた。
 ・・・のだが、急に、そのナイフの動きが止まった。
 そう、どうやら上手くウサギのリンゴが作れないらしい。

「やっぱり」
 若い将校がふと呟いた。
「やっぱりとは、どういうことだね?」
 ロバート中将が、若い将校を睨みつけるようにして問うた。
 すると若い将校は、少し自慢げに顎を上げ、ゆっくりと返答した。
「簡単なことですよ。要するにこういうことです。この透明人間は、透明であるが故、自分の手が見えないのです。従って、細かなナイフの操作ができないのです。
 そう、うっかりすると、自分の手を切ってしまいますからね。
 ・・・ふふふ、やはり、僕の睨んだとおりだ。この透明人間は、兵士としては、まだまだ未完全ですな!」

 だが、その答えに、ロバート中将は首を傾げた。
「いや、そんなことはあるまい。我が国の兵士は、例え真っ暗闇の中でも、自分の携帯する自動小銃を、常に素早く分解し、組立直せるように鍛え上げられている。
 従って、例え自分の手先が一時的に見えなくても、何の問題もあるまい。もしも、それが困る事態が発生した時には、その時のみ目視できる手袋をはめれば良いだけのことだ。そうすれば、何の支障もないだろう。
 ウム、この透明兵士は、十分に活用できる素晴らしいものだ!私は感動したぞ!」

 そのロバート中将の言葉に、周囲の皆が、ウムウムと深く頷いた。
 そして、ふと見れば、博士はすっかりと上機嫌で、得意げに自分の顎鬚をスルスルといじっていた。

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「いいえ。そうではないのです」
「・・・え?」
 突然、聞き覚えのない声が、室内に響き渡り、サッと皆の視線が声のする方に集中した。
 ・・・そう、それは、ずっと黙りだったアーネスト・ミッチェル軍曹の声だった。

「自分は、自分の手が透明なために、上手くウサギさんのリンゴを作れない訳ではないのです」
「えっ!?、それはどういうことだね?」
 皆が一斉に、その見えないアーネスト・ミッチェル軍曹に注目した。・・・というか、居るだろうその場所を見た。
「自分は、日夜訓練を受けてきているので、M16Aの分解組立は手探りでも、容易にできます。また、単純なリンゴの皮むきくらいなら、問題ないのです。
 ・・・しかし、何も見えない中で、複雑な作業を、初めて行うのは、やはり困難なのです。・・・中将閣下、訓練不足で、本当に申し訳ありません!」

「え?」
 皆が、一様に首を傾げた。

 すると、博士は「ゴホン!」と一度咳払いをした後、のうのうと話し始めた。
「皆さん、透明人間の目が盲目なのは、至って、当たり前の話しでしょう。
 だって、彼の目は、その網膜も含めて完全に透明なのです。光を完全に透過してしまう網膜で、光の認識ができるわけないでしょ?
 光が100%通過してしまうから、透明なんだから。その本人が何も見えなくたって当たり前!
 そんなこと、小学生にだって理解可能な極めて簡単な科学的知識ですよ。・・・嫌だなあ、アッハハハハハハハハハ♪ 」

「・・・それじゃ、ダメじゃん」
 ロバート中将は、ガックリとうなだれた。


                   完

透明人間ソルジャー

アメリカの科学番組「ナショジオ」を見てて、何げに思いついた話です。でも、実際に文章に起こしてみると、すごく使い古されたネタな感じですね。
まあ、いいか、・・・苦笑!

透明人間ソルジャー

その日、国防軍は巨額を投じ、ついに、悲願だった透明兵士の開発に成功した! それは、真に、未来の軍事バランスを一変する偉大な発明であった! ・・・果たして、その透明人間ソルジャーの実力とは!?

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-10-01

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