消失願い
黒い紙に白い筆で書き連ねるのは、私の記録。
少しの嘘を交えて語りましょう―――。
――――消えたいと願うことは、いけないことなのだろうか。
私の名は白磁。きっとどこにでもいるただの人間だ。ただの人間の戯言を聞いてはくれまいか。
私は、何もなく穏やかな日常を過ごしていて、不満も不安もない変わりようのない日常の中でふと、考えてしまうことがある。
「消えてしまいたい」
何の脈絡もなく突然頭の中に浮かんでくる言葉。浮かんできた言葉を口にすれば目から零れ落ちていく涙。その涙を拭うと別の事へ思考が巡る。何の変哲もない、ごくごく普通の日常の中に潜む”願望”に自分でもよく分からなくなる。なぜそんなことを思うのか、なぜ思いついてしまうのか、なぜ消えたくなるのか・・・。
自分の中の変化なのに、それをどこか客観的に見ている自分が居る事にも不思議でならない。
「消えてしまいたい」<(また・・・・考えてる)>
「この世界から形を保てなくなって」<(また・・・・言い出した)>
「知っている人の記憶からも消えてしまいたい」<(そんなの・・・・寂しいだけじゃないか)>
そんなこと、幾度となく考えてきた、思ってきた。
生きることに疲れたことなんて一度もない。一度だってないんだ。それなのに、私の中のワタシは呟いていく。その波がいつ来るのかなんて分からない。でも、どんなに楽しい日々を過ごしていても、どんなに嬉しいことがあっても、どんなに愛している人がいても、ワタシは呟くのだ。”消えたい”と―――――。
弱音を吐いた後は涙を一筋流す。それを拭えばいつもの私になるのだ。自分の意志ではないことは確かに思えた。思う必要のないことを思っている。自分はおかしいのではないかと最初は震えた。それでもまた時間が経てばワタシは考えていた。いつか、私の心の中だけではなく、ワタシの心の中まで満たしてくれる人がいないかどうか、私は探している。ワタシが呟くのをやめる時まで・・・・・・・・。
*****
――――消えてしまいたいと思ってしまうのは、私だけではないはずなのだ。
私の名は黒磁。私は見えるが見えない場所にいる。そして、ただの人間だ。
この世の中は残酷だ。死に物狂いで生きていても、いずれ体は衰弱し、朽ち果て、焼かれ、自然へと還っていく。なんと残酷な事だろう。どんなに生を望んでも、死は必ず迎えに来る。どんな姿になり変わろうとも意味などないのだ。ただただ、そこに命があるのなら消えていくだけだ。だから私は考える。考えてしまう。
「消えてしまいたい」
考えぬことなどもう無理だった。そう遠くない昔、ワタシはもう忘れてしまっているだろうが、私は忘れない。忘れることなど出来はしなかった。この体に刻み込まれたモノはずっと息を潜めて待っているのだ。この体が朽ち果てていくのをずっと、ずっと・・・・・。刻まれたことは覚えているのに、なぜそう至ったのかは完全に忘れてしまっている。ワタシは暢気なもんだよ。苦しみを全て私に任せられても困るっていうのにね・・・。
どんなにワタシに愛しい人が現れても、いつしかそれは疑念に変わっていくのを肌で感じる。嗚呼、またなのかい。また、分からなくなったんだね。だったらその疑念、私が貰うさ。そんなことを続けてもワタシのためになんてならないって分かってた。でももう止められなかったんだ。あの子が疑念を抱くよりはマシだと思ったんだ。
だから私はまたあの子に聞かせるのさ。
「消えてしまいたい」ってね―――――――。
消失願い
よく考えてしまうことをそのまま書き出しただけです。
他意なんてありません。
それでも、これを読んで何かを感じてもらえたら嬉しいです。
何が嘘かは分かりましたか・・・・?