ありがとう
まだまだ暑い日が続きます。
わたしは犬の散歩に出かけていました。まだまだ幼くて、小学校2年生の私は犬に引っ張られてしまいます。
引っ張る力が強くて、私はとうとう手を離してしまいました。
「あっ! 駄目だよ!」
まだまだ小さい子ですから、犬は言うことを聞かずにどんどん走って行ってしまいます。車が通る道に出なくて良かったです。
少しすると、前を歩いているワイシャツを着たおじさんにぶつかりました。噛まなくて良かったです。でも、わたしは心配でした。犬が殺されるのではないかと。
おじさんが振り返ります。犬は吠えました。私も思わず手に力が入りました。背中が寒くなりました。
おじさんが、ゆっくりと犬を抱き上げます。目を覆いました。
でも、わたしが思っていたようなことは起こりませんでした。おじさんは犬をわたしの所へ連れて来てくれたのです。犬を私に渡すと、おじさんは笑顔でわたしを見ました。
「手、離しちゃだめだよ」
「え?」
「いいかい、今の世の中、誰がいい人で、誰が悪い人かわからないんだ。今日は良かったけど、もし違う人にぶつかって、それが悪い人だったら、どうする?」
犬が死んだら……わたしは怖くなって泣き出しました。すると、おじさんが笑いながらわたしの頭を撫でました。
「ごめんね、怖い想像をさせてしまったね。兎に角、今は何処に危ない人や悪い人がいるかわからない、とっても危険な時代なんだ。君も気をつけるんだよ」
「はい」
おじさんは私に手を振って、先に行ってしまいました。
怖かったけど、助けてもらったんだから、「ありがとう」を言わなくちゃ。
「ありがとう、血だらけのおじさん」
ありがとう