ウサ番

?私はもうすぐ死ぬから。″
 まだ13歳の少女、アサヒが侵された病魔、『癌』。その現実を受け止めている彼女。
 絶望と未練が入り混じった最悪な状況でアサヒの手術がスタートした。麻酔で眠りについた直後。夢の大戦争が始まった。
 ここはラビットワールド。みながウサギの国だった。この国では毎日のサバイバルが行われる。
 現実に戻るにはラビットワールドの勝者にならなければならない。
 アサヒはラビットワールドで生き抜くことができるのか。そしてアサヒの命は救われるのだろうか。

 10時20分。
 11時からアサヒの手術が始まる。
 『癌』を取り除く。
 
 ナースステーションの看護師達がアサヒの話をしていた。
「やっとでアサヒちゃんの手術だねぇ。13歳で癌なんて…可哀そう…。」
 アサヒはそれを聞いていた。
「手術なんて…意味ないよ。」
 看護師達がアサヒに気づいた。
「何言ってるのよ。手術をしたら病気が治るんだよ?退院できるんだよ?」
「分からないよっ!助かるかどうかなんて。」
「どうしてそんなこと言うの。」
「私は…もうすぐ死ぬからっ。」
 看護師達は言葉を詰まらせた。
 その間にアサヒは自分の病室に戻った。
(そうだよっ、もうすぐ私なんか死んじゃうんだよ!意味なんてない!)
 そんなアサヒの気持ちはごちゃごちゃのまま手術が始まった。
 麻酔がどんどん効いていく…。

 アサヒは目を覚ました。

 だけどここは…病院じゃない。
 手術室でも病室でもない。
「ここは…どこ?」
 周りを見ると…ここは、どこかの路地裏だろうか。
「おい、そこのお前っ!」
 後ろで誰かが叫んでいる。
 振り返ると…ウサギ…?
 ウサギ…なの!?
「…え。う、う、ウサギぃ!?」
「お前…もしかして新入りか?いやぁ、よく来たなぁ!勇気あるんだなぁ。」
「誰?っていうか、ここどこ?!」
 そのウサギ…らしき生き物は私を見て目を見開いた。
「なぁんだ、やっぱ新入りかぁ!ここはラビットワールド。そして俺はラム。」
「新入り…?…ラビット、ワールド?」
 ドタドタドタッ…。
 誰かが走ってきたようだ。
 すると、ラムがどこから持ってきたのか、剣を持って走って行った。
 そして走ってきた暴走族みたいなガラの悪い…ウサギとぶつかりあった。
 凄まじい音で腰が抜けてしまった。
 しばらくして音が止んだ。
 とっさに瞑った目を開いた。
 そこには、傷ついたラムだけが立っていた。
「あぁ…良い気晴らしになった。」
「…は?」
「おい、そこのお前、行くぞっ!」
 そう言って私に手を差し伸べた。
「…。」
 意味が分からない。
「名前は?」
「…え。あ、アサヒ…ですけど。」
「んじゃぁ、アサヒ、行くぞ、ついてこい!」
「どこに!?」
「アサヒはウサ番にならなきゃ現実に帰れないんだよ。」
「…え。」
 とりあえず手を取った。
 …と同時に大きくジャンプした。
 そして一気によく分からないスタジアム的なところについた。
「く、くっさぁ。」
 その匂いは生臭くて、まるで死体の匂いだ。
「うん、ここで負けたらさ、死ぬから。」
「…ふぅん。」
 一瞬ドキッてなったけど。
 もう、分かってることだから。
「闘ってる間に体が動きを覚えるよ。」
 体が…光って…?
 ウサギになった…?
 体が…ウサギに…なってるしぃ!
「う、うわぁぁぁぁ…。」
 パニック!
 ここどこっ?!
 なぜかここはスタジアムの中…というか、戦場に立っていた。
『さぁ、行けっ!敵は目の前だぁ!』
 アナウンスがビビるくらいでかい音で聞こえた。
 ドッカーン!
 いきなり目の前に光線みたいな光が放たれた。
「ぎゃぁっ!」
 目を瞑った。
 そしたら勝手に体が…。
 剣がアサヒの心臓から…!
 そしてあの敵目がけて剣を振った。
「そんなんで勝てるとでも思ってここに来たのか?バカめ。」
「ぐあぁっ!」
 痛い…全身が痛い…。
 激痛…。
 体が動かない。
 何度も何度も光線みたいな光がアサヒを襲う。
「うぅ…。」
『死ぬかよっ!』
 アナウンス…。
 ラム?
『死んでいいのかよっ!立てよ、闘えよ!』
(なんで…。こんな目に。これは手術?死ぬの?ほんとに…死んじゃうんだ。)
「別に…。死ぬなんて…恐くないし。…うぐっ…。」
『バカヤロー!お前が死ぬなんて俺にはどうでもいい。だけどな…勝ってほしいんだよ!』
 ラムが叫んでる。
 ものすごく弾んだ声。
『悔しくねえのよ!!!』
 ダニ声になって叫んでた。
(死ぬなんて分かってる。分かってた。…だけど。)
「このまま、死ぬのはもったいないかも。」
 立ち上がった。
 また剣を構えた。
『アサヒ、感じるんだ。あいつを…敵の動きを感じるんだっ!』
 感じる…。
 感じるんだ…。
 目を瞑った。
 剣が勝手に真横に振った。
 ガーンッ!!!!
「あ、当たった…?」
 ドンっ!
「うわぁっ!」
 当たったと思ったら…。
 やられた。
 くそっ。
 また立ち上がる。
「弱い弱い。あー、弱い。つまんねぇ。」
 何度も何度も繰り返した。
 もう体が持たない。
 無理かもしれない。
 勝てないかもしれない。
 痛いし…。
「い、痛いぃぃぃぃ!!!!」
 なんでこんな言葉を叫んだのだろうか。
『アサヒ…。』
「痛すぎるっ!もう痛いのいやっ!」
 光線が飛んできた。
 それを素早い動きで交わした。
「分かったよ、感じたよ。あいつの居場所じゃなくてあの光線をねっ!」
 再び飛んできた光線も交わし、思いっ切り相手を剣で殴った。
 命中だった。
 相手は吹っ飛んだ。
 すると相手が吹っ飛んだ場所に…ラムが飛んでいった。
 ドッカーンッ!
 めっちゃやばい音が響いた。
「ラムっ!?」
 …。
 応答がない。
 辺りは静まり返った。
 砂煙の中に…ラムがたっていた。
「ラムっ!」
「アサヒ、帰れよ。死ぬなよ。アサヒ、お前は世界最強のウサ番だっ!」
 体から光が溢れた。

 アサヒの目が覚めた。
「アサヒちゃん。起きたっ!!!」
 気づくとここはアサヒの病室だった。
 周りには看護師達と家族がいた。
「そっか、助かったんだ。」
「そうだよっ!癌が上手に取り除かれたよ、退院できるよっ!」
 アサヒに自然と笑顔と涙が溢れた。
「良かったぁ。」

ウサ番

『ウサ番』という座を手に取ったアサヒ。
ラムの言葉がアサヒの背中を押した。
現実に帰ってきて、死ななくて良かった、という感覚があった。
アサヒはこの冒険で成長できた。

アサヒはラムのことが一生忘れられなかった。
きっと、これからも忘れることはないだろう。
また会える日がくるまでアサヒは生き続けた。

ウサ番

アサヒとラムの大乱闘をきっかけにアサヒが成長する姿がたくましい。 アサヒの切ない生き様が心に焼きつく。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • アクション
  • 児童向け
更新日
登録日
2011-09-09

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