姿勢が悪いお話

姿勢が悪いお話

何はともあれ、首は落ちる。
姿勢が悪い。腰を下ろした際に、背中をこれでもかというくらいに丸める癖があるようだ。慢性的な肩こりに悩まされながらも、今更改めようという気概も湧かず。死ぬまでにはどうにかしようとは思っているが、具体的な策はまだ考え中である。
時々思い立って首を上げて後ろに傾けないと、頭が重くて仕方が無い。
特に読み物をしている時は、このまま球体に成り果てるつもりであるかの如く、背筋を丸めている。読書中の私はきっと、どんな時よりも無防備で傷つきやすいのだろう。自然界で体を丸める類の動物たちがそうであるように、この時ばかりは背に腹は変えられぬとばかりに姿勢が崩れる。
日頃姿勢が悪いのも私のセンチメンタルな性分が原因だと言ってしまえば楽なのだが、生憎、運動不足によって脆弱化した体幹が主な理由である。
意識こそすれども、首は落ちる。
授業中や、説教を聞いている間や、病院の待ち時間なんかにはよく、ころりとなる。
姿勢が悪いな、と自分で意識していると、頭の重みで首が、真っ赤に熱された硝子のようにゆっくり、有る程度までは伸びた後に、いよいよ重力に耐えきれず落下するという感覚が訪れたりもする。
もうやたらと頭を支えなくとも良いのはどんなに素晴らしいだろうと思うが、そのような感じがしたらすぐに私は首は後ろに傾けることにしている。こう見えて一応、老後についても多少は考えている私だ。
首が落ちてしまえば肩こりは解消するだろうな、と心の中で呟いて、大きく首を回してみたりもする。その拍子にぐきりと骨が軋むような音が鳴れば、露骨に顔をしかめたりもする。そんな時には決まって私の足元には、もう拾い集められないような硝子の破片と、思い出と面倒事が混合して無数に散らばっているのだ。

姿勢が悪いお話

姿勢が悪いお話

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-28

CC BY-NC-ND
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