夜の夢 2

ika60

夜の夢 2

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黒い部屋の隅で天使を探していた。
僕はこの行動をするまえ、天使を赤いおもちゃ箱に仕舞う夢をみた。赤いおもちゃ箱は、茶色くて、ニスを塗りたてでテカテカと光っている箪笥に入れたはずなのに、現実じゃ、おもちゃ箱も箪笥すら、どこにもない。僕は顔をふと上げた。
僕は天井をみた。天井も真っ黒だった。…この部屋で黒くないのは、天井にくっついている丸電球ひとつと、僕だけだった。僕は青色のジャンパーを着ていた。ふいにそのジャンパーの胸ポケットのチャックを開けて中をまさぐってみると、鍵があった。銀色で、柄の部分には鍵メーカーのロゴが彫り込んであった。
とたん、目の前に白い扉が現れた。それをいそいで開けると、また黒い部屋が現れて、真ん中に少女がぽつんと佇んでいた。
少女はしろかった。白いワンピースを着ていた。
少女は泣いていた。どうしたの、と声をかけた。ここに来るとちゅうで、鍵をおとしてしまったのです。もう、家には帰れないと少女は泣じゃくりながら答えた。
それはもしかして、この鍵ですか?と、僕は胸ポケットに入っていた銀色の鍵を少女にみせた。刹那、少女はそれを目を丸くしてみつめ、次の一秒で少女は僕から鍵をさっと奪い取った。
「どろぼう!」
少女は泣き腫らした目でこちらを一瞥して、部屋の隅へ逃げて行った。ひらひらと白いワンピースが揺れていたのが印象的だった。少女のシルエットはだんだんちいさくなりちいさくなり、白は黒に取り囲まれて、彼女は蟻になった。
僕は鍵を渡しただけなのに、どろぼうなんて勘違いもいいことだ。鍵は勝手に胸ポケットに入っていただけであって、僕はけして盗もうとしたのではない。
僕は気分が胸糞悪くなったので、近くにあった白い自販機で、コーヒーを買って飲んだ。自販機の蛍光灯で照らされた僕の手の甲は、やけにしろく病弱そうにみえた。骨や血管が浮き出ていた。
缶を近くにあったゴミ箱に捨てると、僕はまた歩き出した。等間隔のぼんやりとした街灯が、僕をみちびいてくれた。
町は黒かった。しかし、深夜のそれとは違った。僕は気がつくと、さびれた商店街に足をはこんでいた。夜と時も更けたいまとなっては、もはやここはシャッター商店街。
曲のブランクの間、ふと耳をすませば、商店街の奥からクラシックギターの音がひびいてきた。僕は思わず音楽を止めてイヤフォンを外した。
そのひとは街灯のしたでシャッターに若干もたれかかりながら、ギターを弾いていた。黒いニット帽をして、時代遅れの丸めがねをしていた。彼は歌をうたっていたのだけれども、僕のこころには重いヘッドフォンをしてあったので、僕はその歌声を聴くことはできなかった。このヘッドフォンのコードの先は、うけとめてくれるイヤフォンジャックもみつからなく、ただ暇を持て余してぶらぶらと宙を舞っていた。
しばらく彼の前でギターを僕は聞いていた。僕は、僕の前でわざとらしくおっぴろげられたギターケースをみつけたので、しかたなく財布を広げて500円玉をそこに投げつけた。すると街路の奥のくらやみから、先ほどの白いワンピースを着た少女がやってきた。やはり顔は浮かれない様をしていた。彼女は僕のとなりまでくると、このまえ僕から奪った銀色の鍵をギターケースに投げ入れた。鍵は音もなくギターケースの黒に飲み込まれた。500円玉はまだみえた。
少女は、僕のことを見上げた。そしてなにかつぶやいた。けれどあいからわず僕はその声が聞こえなかった。充血した彼女の目はじっと僕の眼孔をとらえた。
僕はあきたのでその場を離れた。10秒もしないうちに、僕は壁に行きあたった。壁は人間の体液で塗りたくられていて悪臭がした。
僕ははっときがついた。そしてバッと後ろを振り返った。さっきの街灯のしたで、ギターのおとこの前で少女が羽根を広げているのがみえた。
僕はしまったと思い、いそいで少女のもとに走ったが、少女は待つことなく、つばさを大きく拡げて天を仰ぎ、バサっっと地面をけり上げたかと思うと、トワイライトの、空の彼方へ飛んで行ってしまった。目で追ったけど、雲の白と、彼女のワンピースの白はかぎりなくにているので、すぐに見分けがつかなくなって、僕は追うのをあきらめた。
顔を下ろすと、地面でギターのおとこはチューニングをしていた。
彼が気づかないうちに、彼のギターケースに僕は手を入れて鍵を探した。けれど、そこには、500円玉も鍵も何も無かった。
いくら掘り返しても泥で手が汚れるだけだったので、僕はそれをやめた。ギターおとこと決別し、池袋駅を目指して大通りに出、僕は雑踏にもみくちゃにされながら、高崎線で帰路についた。

夜の夢 2

夜の夢 2

夢の記録

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-27

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