仲間?雨ノチ晴レ?
はじめまして、サークルの副代表です。
知り合いの男性をモデルに、主人公と周囲の関係を描きました。
慣れない関西弁で、おかしい表現があるかもしれませんが、そこは目をつぶってくれると嬉しかったりします(笑)
では、お楽しみください。
4月のある日。とある高校の始業式の翌日。その高校の2年のあるクラスに転入生がやってきた。
「君らの新しい仲間だ。安宿(アスカ)くん、自己紹介を。」
担任が隣に立つ男子生徒に自己紹介をするよう促した。
「どーもっ!大阪から来ました、安宿颯人(アスカハヤト)です!これからよろしくっ!」
安宿颯人、それが大阪からやってきた転校生の名前だった。
明るく陽気でノリが良く、ひょうきんな龍太郎はすぐにクラスの人気者になった。
「ねえ、引っ越しの理由ってさ、やっぱりお父さんの仕事?」
「せや。オトンがこっちに転勤なってな。4月頭に来たんやけど、準備はいつ始めたと思う?」
「そりゃ大体1か月前ぐらいだろ?」
「そんな甘ないで。2週間前や。」
「えっ?何でそんなに遅いの?」
「オトンのせいやねん。オトンがなかなか言いださへんから遅うなったんや。
あの時はホンマに殴ったろか思うたわ。」
「何で言わなかったんだよ、お前の親父さん。恐妻家とか?」
「忙しかったとか言ってたけど、どーせ忘れとったんやろな。
子供の誕生日もヘーキで忘れるヤツやから、そんくらいフツーやで。」
そんな風に話していると、教室の隅から怒鳴り声が聞こえてきた。
「おせーんだよ!このノロマ!」
「タラタラすんな!」
龍太郎が声の方を見ると、一人の男子生徒が数人の男子生徒に囲まれている。
囲まれている男子生徒の手には、何かのプリントだろうか、紙の束が乗っていた。
「どしたん?あいつ。」
「ああ、孝太か。あいつ、佐伯孝太ってんだけど、のんびり屋だからいじめられてるんだ。」
「筆頭が吉村玲一くん。去年も孝太くんと一緒で、ずっといじめてるの。」
「誰も止めへんのか?」
「止められるわけねえじゃん。玲一はケンカめちゃつええんだぜ。去年、1人止めたヤツいたけど、
返り討ちくらってボッコボコにされたんだ。」
「そいつ、今でもおるん?」
「いないよ。とっくに転校しちゃったもん。」
「誰も恐れて止めへんってわけか・・・」
「龍太郎も、ヘタに手出ししないほうがいいぜ。どうせ包帯だらけになんのがオチだ。」
「ああ・・・」
そう言いながら、龍太郎はもう一度孝太の方を見た。
孝太は、しきりに頭を下げ、何か言いながら紙の束を抱えて教室を出て行った。
それから数日後の帰り道、龍太郎は前の方に、一人で帰る孝太を見つけ、近寄って声をかけた。あれか
ら何度もいじめられている孝太を見て、龍太郎は声をかけずにはいられなかったのだ。
「よう。」
「えーっと、安宿くん・・・だよね。」
「そや。安宿颯人。確か、佐伯孝太やろ?」
「覚えてもらわなくてもいいよ。ノロマで通じるから。」
「何言ってんねん。お前、あんなふうに言われて悔しくないんか?」
「まあね。もう慣れっこだから。」
「寂しいこと言うなや。マイナスの言葉に慣れたらアカン。」
「そんなこと言われたって、もう7?8年言われてるんだよ。嫌でも慣れるって。」
「まあ、お前がそう言うならしゃーないけど、俺はいつでもお前を助けたるからな。」
と、その時、後ろの方から颯人を呼ぶ声が聞こえた。颯人は孝太の肩をポンと叩き、ニッと笑って
走って行った。孝太は、自分に投げかけられた言葉の意味を考えながら1人歩き出した。
それから1週間も経ったとき。その日も相変わらず孝太は朝から罵られ、からかわれていた。
昼休み、生徒の大勢いる教室のまん前に、孝太は引っ張って行かれ、
数人の男子から寄ってたかって蹴っ飛ばされ、罵られた。もちろん、始めたのは玲一だ。
「ノロマ!」
「ぐふぅ・・・」
「鈍くさくてヘドが出んだよ!」
「てめえ、もっとシャキシャキ動けや!老人か?」
「がはっ・・・」
「俺たちを恨むんじゃねえぞ!おめえが鈍くさくて何も出来ねえから、制裁してんだよ。」
「ぐっ・・・」
「何も出来ねえおめえを恨めよ!」
「あうっ・・・・」
「おめえ、もしかして身障だから鈍くせえの?」
玲一が孝太の髪を掴んで無理やり顔をあげさせた。
「い、痛い・・・」
「うるせえ!」
玲一の強烈なひざ蹴りが孝太の腹部を襲った。
「はうっ!」
「身障はな、身障専用のクラスでいろよ。ここは『健常者様』のクラスだぜ?何で身障のおめえがいるの?」
「勝手に入り込んだおめえが悪いってことで・・・」
「制裁続行☆」
さらに蹴られ、小突かれる。おそらく、やっている男子の中の誰かが動かしたのだろう、教卓が隅の方
に動いていた。まるで『思う存分やれ』とでも言うように。
「二度と来れねえようにしてやるよ!」
孝太は言葉を発する気力もないらしく、少し前からただやられるがままになっていた。
「あれ??気絶したの?目え覚ませ!」
玲一が思いっきり孝太の顔を殴りつけた・・・と思ったが、その腕を誰かが捕まえていた。
「てめえ、何だよ?転校生が口挟んでんな。」
正体は颯人だった。途端に颯人が玲一の胸ぐらをつかみ、怒鳴りつけた。
「お前は人でなしや!」
突然の颯人の罵倒に、玲一は驚いて固まってしまった。暗い目の颯人は、玲一を離すとバシッと頬を叩いた。
「何すんだよ!」
「痛さがわかったか?」
「はあ?」
「孝太の痛みがわかったかて聞いてんねん!孝太がどれだけ傷ついたか、わかってたんやろな?」
「理由、教えてやるよ。俺、孝太が嫌いなんだよね。グズでノロマで弱っちいくせに、教師に気に入られてんだぜ。
いっつも一人前みたいな顔しやがって、マジムカつくんだよ。」
その瞬間、颯人が玲一を殴りつけた。
「俺もな、お前みたいに、人の悪口言ったりからかったりする奴、大嫌いなんや。」
さらに玲一を蹴りとばす。
「がはっ・・・何すんだよ!」
「お前がやってることやで。嫌いな奴には暴力振るってええんやろ?」
そう言いながら、颯人は蹴り続ける。
「何か言うてみい。何も言えへんやろ。自分のやってたことやもんなぁ?」
「よ、よせ・・・もう、やんねーから・・・孝太の事、バカにしねーから・・・」
「聞こえんなぁ。お前もこうやって孝太に暴力振るってたやんか。孝太が『痛い』言うてるのに、蹴ったやろ。
あれと同じようにしたろか?」
「ごめん・・・もうやらねえよ・・・一切孝太に関わんねえから・・・」
「ホンマやな?」
「ホントだ・・・二度とやんねえから・・・」
「わかった。ならやめたるわ。ここにいるこいつらが証人やで。破ったら、今度こそおめえの足腰立たんようにしたるかんな。」
しかし、それにキレたのが玲一の仲間だった。
「おめえ何しやがんだよ!」
「よけいなことしやがって!」
3人に囲まれたが、颯人はものともせず冷静に言った。
「しゃーないなぁ・・・こっちもボコさへんとわからんか・・・。廊下出え。教室じゃアカン。下手すると病院行きや。」
颯人はそう言うとさっさと廊下に出た。3対1。周りの生徒はあまりにも無謀だと思った。その時は。
試合開始のゴングは1人が颯人に向かってきたことだった。しかし、颯人は軽々とそれを避け、
回し蹴りを側頭部に命中させた。その後、一人の腹にパンチを入れ、3人目を後ろ蹴りで倒した。
そう、実は颯人は、弓剣道以外の武道なら何でもこなし、おまけに総合格闘技やボクシングもできて自衛隊
の体術(これは兄仕込み)も使えるという、最強とも言えるケンカの腕を持っているのだ。
しかし、自分のために拳をふるうことは今まで一度もなかった。
「なんや、もう伸びたんかい。まあええわ。もうやらへんな?」
ひょうひょうとたたずむ颯人に、3人は座り込んだまま何度もうなずいた。
その翌日、颯人が学校へ行くと今までとは違った反応だった。
「おーす。」
返事を返さない。今まではすぐに颯人の周りに人だかりができ、担任が来て注意してもなかなか自分の席に
帰ろうとしなかった。しかし、今日は誰ひとり颯人のそばには行かず、ちらちらと見ながら何やらコソコソ話していた。
「あれ、どしたん?」
事情が分からず、ポカンとする颯人に藤瀬樹が言った。
「みんな、おめえが怖いから関わりたくねえんだよ。」
颯人は一人ぼっちになってしまった。今までの明朗快活な颯人はどこへやら、最近は自分から話しかけることもなく、
常に一人で携帯をいじって過ごすようになった。それでも決してマイナスな表情は見せず、ただ淡々とした表情で日々を過ごした。
「安宿くん。」
2週間ほど後の帰り道、一人で歩いていた颯人に孝太が声をかけた。
「ごめん。」
「あ?」
「僕を助けてくれたせいで、今度は安宿くんがハブかれちゃって・・・」
「なんや、そんなことか。気にすることやない。俺は正しい事やったから後悔してへんし、
今の状態をお前のせいやとも思わへん。」
「でも・・・」
「慣れっこやで、こんなこと。大阪でもあったしな。」
「えっ?」
「俺、アホみたいに明るいやろ?やから、ちょっとあんな様子見せるとみーんなドン引きやねん。
けど、しばらく時間がたてば元に戻る。」
「すっごいポジティブだね。」
「アハハ、そこが俺の取り柄やからな。ほら、雨降って地固まるってことわざあるやろ?
今は雨が降ってんねん。やまない雨はあらへん。いつかきっと必ずやむで。」
颯人は終始にこやかだったが、その目は心なしか寂しげだった。
最初こそニコニコしていたものの、やはり続くとこたえるのだろう、少しずつ颯人の笑顔が消えていった。
しかし、周囲が冷たい態度をとっても、孝太だけは颯人と仲良くしていた。
自責の念が、自分のせいで颯人が辛い目に遭っているという思いがあったからだった。
周囲が颯人に冷たい態度をとるようになってから2カ月が経った。ある休日、颯人は家にいてもつまらないと1人で街に出かけた。適当に店を覗いたり、公園に寄ったり、ぶらぶらしていると、前方で自分の高校のジャージを着た男子生徒が、
数人の男に囲まれ路地に入って行く姿を見た。これはヤバい、と感づいた颯人は急いでその後を追った。
刑事が犯人を尾行するように、物陰に隠れながら後をついていくと、数人の男は空き地に着き、
そこで突然男子生徒を蹴り倒し、執拗に暴行を始めた。颯人は電信柱の影から男の人数(3人)と位置を確認、
そして深呼吸で心を落ち着かせると、ゆっくりした足取りで男たちの方へ向かって行った。
「クソガキが!オレたちにガン飛ばすなんざ、100年早えーんだよ!!」
1人が男子生徒の胸ぐらをつかみ、殴ろうとしたその瞬間、誰かがその腕をつかんだ。
「お前にも同じこと言うたるわ。俺のダチを殴ろうなんざ、100年経ったってさせへんで。」
颯人だった。颯人はそのまま男の腕を放した。
「なんだてめえ!」
男3人は、明らかに不良。力もそれなりに強そうだ。そんな3人にスゴまれても龍太郎はひょうひょうとしていた。
その姿はもちろん癪に障る。不良3人は颯人を取り囲んだ。3対1、誰もが無謀だと思える構図だが、
颯人にとっては何ともなく、逆に挑発するように言った。
「で、誰から?そや、あんまり俺を挑発しない方がええで。俺もお前らを病院送りにはしたくあらへんからな。
ガッコ退学んなったらかなわんし。」
それにいきり立った男たちは全員で襲いかかってきた。颯人はそれでも涼しい顔で、一人の腕をひねって転がすと、
もう一人にパンチをくらわし、最後の1人にチョップをくらわせた。
「この野郎!」
残っていた1人、つまり男子生徒を殴ろうとした男が再び襲いかかってきた。しかし、颯人は
「なんや、まだ諦めへんのかい。少々強めにやらんとアカンか。」
と小さくつぶやき、腕を掴んで素早く身体を移動させ、組み伏せてしまった。
「これでもまだやるか。いくらでも相手したるで。」
不良3人は目の前の高校生の強さがどれほどかようやく実感したらしく、
「覚えてろ!」
と安い捨てゼリフを残して逃亡していった。颯人は座り込んでいる男子の方へ振り向くと、二カッと笑って手を差し伸べた。
「ほら、立てや。怪我ないか?」
「あ、ああ。」
恐る恐る男子は颯人の手を取って立ち上がり、ジャージの尻を叩いた。颯人が笑顔を浮かべながら言う。
「藤瀬樹やろ。いったい何があったん?」
「部活帰りに街をぶらついてたら、突然『ガンつけてんのか、てめえ!』って絡まれたんだ。」
「うわ、そんな典型的なカラまれ方するやつまだおんねや。」
「うるせーな。でも、お前、ほんと強いな。なんか武道やってんの?」
「まあな。」
そう言い、龍太郎は遠い目をして話し出した。
「あれは俺がまだ大阪におった頃、小学校2年か3年くらいのときや。ダチが中学生にからまれてボッコボコにされてな。
でも、俺は見てることしかでけんかった。何もできず、ただダチがボコされてるとこを見てるだけやった。
それがもー悔しくて悔しくて、それ以来、ダチを守りたくて何でも武道と名のつくもんには何でも手を出した。
少林拳、柔道、空手、とりあえずガキん頃はそれだけやって卒業と同時に辞めた。
で、中学入って、総合格闘技とボクシングを始めたんや。それと、一番上の兄貴が自衛隊上がりやから、
自衛隊の体術も教えてもろうてん。今は、少林拳、柔道、空手、総合格闘技、ボクシング、自衛隊体術、
全部こなせるようになった。もちろんケンカも兄貴に鍛えてもろうたから強いで。
そんで、強くなるって決めた時、同時に決めたんや。この拳はダチのため、大切なヤツのためだけに使おう、
絶対に自分のためには使わへんって。」
「そうなのか。なあ、颯人。」
「ん?」
「俺、お前みたいに強くねーけどさ、お前になんかあったら俺が代わりに戦ってやるよ。それから…」
「礼はいらへん。当たり前のことしただけや。そんじゃ、またガッコでな。」
「ああ、じゃあな。」
颯人は二カッと笑い、軽く手を振ると空地を出て行った。
翌日、颯人が教室に入ると、前と同じように数人が集まってきた。
「颯人、すげーじゃん!」
「大の男3人をぶっ飛ばしたんだろ?」
「な、何やねんいきなり。」
突然の事に戸惑う颯人に、男子のひとりが言った。
「樹から聞いたんだ。颯人がケンカ強いのは自分のためじゃねえ、友達のために強くなったんだって。」
「自衛隊の体術って、どんなやつ?」
「少林拳ってアクロバットみたいなのだろ?やってくれよ!」
この間までの態度がウソのように、みんなが颯人の周りを取り囲む。顔をあげた颯人は、樹と目が合った。
樹が二カッと笑う。颯人も笑い返し、その後大声で言った。
「わーかった!わかったから荷物くらい置かせろっちゅーねん!」
「よし、じゃあ早く置いて来い!」
颯人はカバンをドサッと机の上に置き、また教室の前へやってきた。
「まずは自衛隊の体術やな。」
周りの男子、そして女子が『おーっ!』とどよめきをあげる。颯人の笑顔は、転校してきた時よりも輝いていた。
今、颯人は『雨降って地固まる』のことわざを、身を持って感じていた。
(やっぱ仲間ってええな。これからも俺は俺で生きてくで!)
仲間?雨ノチ晴レ?
私は、ある期間、いじめで悩んでいました。
この小説に出てきた安宿くんのように、きっかけがあったわけではありません。
ある日突然始まりました。かといって、この小説のようなハッピーエンドでもありませんでした。
これは、私の希望です。
何かがきっかけで、『いじめ』のようなことがあっても、そのきっかけが崩れてまた仲良しに戻ってほしい。
これから先、こんな風な学生たち、子どもたちがいれば、きっといじめも減ってくるだろう。
そんな思いを込めて書きました。
いかがでしたか?感想をお待ちしています。