どこかの旅人 【約束】
昔昔のどこかのお話。大地のいたるところに大きな穴が開いて、そこから生まれた魔物が各地ではびこるようになった世界。そんな世界の各地を気ままに旅する人間とその召還魔(使い)のお話。
. とある町から少し離れた場所に灰色の岩山があった。隕石のような巨体が並ぶ岩山の内、特に大きな岩に薄汚れたお爺さんと旅人、そして旅人の召還魔(使い)がチョコンと座っていた。 旅人の瞳は美しい金色でこげ茶色の髪を後で1つに結び上げている。汚れたマントをバサリと羽織り、首には若干長めの薄桜色の布が巻いてある。彼女が肩から提げているボロボロのバックにはロロと言う名前が茶色の糸で刺繍されている。ロロの隣に座る召還魔はシェパードのような姿で漆黒の綺麗な毛皮をまとっている。尾は細く、先は扇の様になっている。そして顔には白狐の面をし、人語を理解する不思議な獣だ。ロロはこの相棒をトレスと呼んでいる。 「そうか、じゃあ爺さんはずっと此処でその親友を待ってるのか。」ロロは横で話すお爺さんに同情した。「まぁ、人を困らせるのは彼の得意技だからね。若い頃に、年取ったらまた2人で大きな仕事しようって約束しちゃって。破るわけにはいかないんだ、友達だから」お爺さんは困った現状にも関わらず照れくさそうに笑う。「怒らないのか?」ロロはキョトンとした顔で彼に尋ねた。「此処で待っているのは私の勝手だからね、怒れないよ」優しく笑うお爺さん。ロロはふーんっとそれを軽く受け流し出発の準備を始めた。速やかに支度を終えたロロは昼飯のお礼を告げ岩山を降りようとした。が、あることを思い出しお爺さんに再度声を掛けた。「あ!そう、そう」と軽く呟やきながらバックから小さなガラスの小瓶を1つ取り出し、お爺さんの手元に投げた。飛んできたそれには白い粉が8分目まで入っている。それを見てお爺さんは元気に笑いながら言った。「何だアンタ、盗み聴きしてたのか!」小瓶は勿論返事をしない。それでもお爺さんは続ける。「アンタは本当に面白い人だな。骨になっても会いに来てくれたのか」無言の小瓶をおでこに当てながらお爺さんは泣き出した。お爺さんがお礼を言おうとした時にはロロとトレスの姿は見えなかった。
岩山が小さく見えるくらいの所でトレスが今日初めて口を利いた。「あの小瓶の中身って何?」ロロは歩きながら直ぐに答える。「知らない。前に滞在してた街の警察の人に言われたんだ。この小瓶を岩山の爺さんに渡してくれって。あの爺さんは人骨っぽく言ってたな」それを聞いたトレスは数秒何か考えてから、「へぇぇ」と曖昧に相槌を打った。
その後、1人の殺人鬼が灰色の岩山にやって来た。彼がそこで白い粉の毒で死んだ親友を発見したのはロロ達が去ってから数時間後のことだった。それからしばらく経って、2人の殺人鬼の手配書は各地から撤去された。
どこかの旅人 【約束】