夢の中で

沙羅ら

気がつくと、木の上にいた。
ふあふあとした感覚に戸惑いながら太い木の枝に腰掛ける。
地面が随分と遠い。家が豆のようにしか見えない。
上を見れば、くじらがゆっくりと泳いでいた。
よく見ると鳥も人のようなものも飛んでいる。

ここは一体どこなのだろう。

そう思う反面、地元に帰ってきた時のような安心感もあった。
先程まで感じていたふあふあも無くなり、地面に降りようと立ち上がる。
そのまま一歩踏み出すと、もうそこは地面。

あぁ、夢の中にいるのか。

そう思いながら目の前の家へ入る。
赤いレンガで出来た小さな家の中は、窓辺に花が飾ってあり、白いペンキが剥げかかっている揃いの家具が置いてあった。
どうやら白を基調にしているらしい。
甘い匂いに誘われて、家の奥へ進むと台所に女の人がいた。
淡い茶色の腰まである髪を、口にリボンをくわえて結えている所だった。
自分の気配に気付いたのか、髪を束ねたまま女の人はこちらを振り返る。

おかえりなさい。もうすぐ、花の蜜のケーキができるわ。

そう言って微笑むその姿をみて、安心感を覚えた。
女の人に促されて椅子に座ってケーキが出来るのを待つ。
窓の外では鳥が鳴いていた。
と、突然世界が空間が歪み出す。
手を伸ばして体を支えようと必死になるが、もがけばもがくほど歪みは激しくなり、目蓋が落ちていった。
最後に見えたのは、女の人の悲しそうな悔しそうな、そんな表情だった。


気がつくと全身汗だくで、見えたのはヤニで黄色くなった壁だった。

また、あの夢か…。

そう思いながらベッドから出て、携帯を確認する、
今日もメールは一通も来ていない。
連絡先を知る存在がぜろに近いために、滅多に携帯がなることはない。
服や酒の空き缶が散乱する中を進んでシャワーを浴びに向かう。
今日もまた一日が始まってしまう。
恋人がいなくなってからというもの、毎日の楽しみもなく、ただ生きている。
結構恋愛に依存している所があるのかもしれない。
大切な存在があれば、仕事も頑張ろうと思えるものだが、何もないんじゃやる気も起こる気配さえない。
いつも見るあの夢の中の、あの女の人。

現実でああいう人がいればなぁ

などと濡れた髪にタオルをかぶり、煙草をふかしながら、つい考えてしまう。
あの優しい雰囲気。
小柄な体に長く美しい髪。
そしてなにより記憶に残るのは微笑む顔と声だ。
目を覚ますと声は思い出せないが、いつも夢の中に生きたいと思ってしまうほど安心感のあるものだった。
現実に魅力など感じない自分にとって、無条件に自分を受け入れてくれるあの人は、もしかしたら本当の自分の居場所なのかもしれないなんて考えてしまう。
何気なくテレビを見て慌てて立ち上がる。
早く家を出なければ電車に乗り遅れてしまう。
煙草を乱暴に消すと、床に散らばった物を蹴ったり踏んだりしながら家をでた。

夢の中で

夢の中で

  • 小説
  • 掌編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-24

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