魏延と馬岱

『魏延と馬岱』0:30 2009/03/31

aoto

1.魏延

「反逆者」というレッテルを貼られてしまうことになってしまった。
魏延は馬を宥め、落ち着かせる。
不意の矢は飛んできても、薙ぎ払える距離だろう。
前方には蜀国の城があり、物見やぐらには文官たちが王を囲んで群を成している。
門は無表情に固く閉ざされ、つい昨日まで同じ釜の飯を食べたという魏延将軍に哀れみの感情一つ、見せてはくれないようだった。
彼らは臆病な犬のように「主人」という盾にくっつきあい、やかましく吠えている。
「下がれ魏延。反逆ものめが」
「だまれ。文官風情が。お前らこそが反逆ものだ」
怒号によって、魏延がどれほど文官たちを震え上がらせても、それは全く効果を催さなかった。
魏延の後方には、魏延将軍の直属の兵士たちが列を成し、下手をすれば王に向かって刃を向けてしまっている。形勢は悪い。
部下の馬岱がささやく。
「やつらはすでに王の下...ですか」
「なに、あの中にオレにかなう輩はいない。ひねりつぶしてやるわ。その時お前にはオレと肩でも並べてもらおうか」
「私には勿体なき言葉でございます」
「うむ。諸葛亮の遺言も、おそらく文官たちが勝手にこしらえたものに違いないからな。文官というのは言葉を偽ることしか能のない奴らだ」
魏延は唇をかむ。
「にしても、あの文官どもより先に、城には駆けつけるべきだった」

丞相の諸葛亮孔明は戦地での死に際に遺言状を書き記した。
遺言状には自分が死んでしまった後の後継者や人事が采配されていた。
魏延将軍が蜀国で残した成果は数多い。
歴戦を経験し、蜀が敵国の魏の軍隊と戦うとき、魏延の武力は必須ともなるほど大きな力をもっていた。
当然自分が諸葛亮の後を継ぐと魏延は考えていた。
しかし、遺言状に魏延の名はどこにも見当たらなかった。
さすれば、早い者勝ちで、先に王の助力を得たものが権力を得る。
魏延は戦地から急いで馬を飛ばし、城にたどり着いたが、一歩及ばす、他のものたちに先を越されてしまっていた。

「降参したほうが身のためだぞ。魏延」
にらみ合ってしまえば、お互い罵りあうことしかできない。
「笑わせるな。王をたぶらかせた張本人めが」
「なにをいうか。お主が謀反を起こすことは生前の丞相がとっくに見抜いておられたのだぞ」
文官たちは勝ち誇ったように魏延を見下す。
“予言”という言葉が脳裏に浮かび、魏延は怒りを隠しきれなくなった。

「お前はいつの日か謀反する」
諸葛亮は魏延をこのように評価した。
魏延は予言の子だった。

魏延と馬岱

魏延と馬岱

「反逆者」というレッテルを貼られてしまうことになってしまった。魏延は馬を宥め、落ち着かせる。 三国志ものです。続きはブログにて。

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  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-23

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