晴れの日もハレの日も
First
春、桜が舞い散る季節。そんな賑やかな街中を、俺は歩いていた。今日はなんだが心地がいい。何かいい事がありそうな、そんな気がする。この季節になって、自分らしくもない高揚した気持ちで街を歩いて行く。行き先は
待ち合わせ場所。夏の日に出会った、ある少女との久しぶりの再会の場所。彼女は変わっていないのだろうか。まだ自分を好きでいてくれているのか。心配していても始まらない。俺は、あの日の事を思い出した。
Second
7月の終わり頃だった。俺は自転車を転がして、あの店に向かっていた。俺の趣味はプラモ作り。他人からは笑われるかもしれないが、それでも俺が誇れる立派な趣味、そう、俺の生き甲斐だ。いつもは模型店には人はいない。一般層にはあまり広く広がっていない世界だ。いるはずもない。しかし、今日は先客がいた。見かけないような、長い綺麗な黒髪の少女。棚に並ぶ模型の箱を珍しそうに見ている。俺は思わず声をかけた。
「プラモデルに興味があるのか?女の子にしては珍しいな。」
それが、俺と彼女との出会いだった。
「え?いや、その、別に興味があったとか、そういうのではないんですけど…」
少女は少し困ったような口調で答えた。どうやら、この街に越してきて初めて見たのがこの店だったようだ。
「おかしいですよね。興味も無いのに。でも、眺めていると何故か落ち着くんです。」
「せっかくなんだから見てるだけじゃなくて、作ったらどうだ。好きなの買ってやるからさ」
「いいんですか?じゃあ…」
少女は目を輝かせながら、積まれている模型の山を物色している。
そして、選んだもの。それは小さなロボットのような安いキットだった。
「それでいいんだな。」
少女は頷く。その姿は、どこか俺の心を温めてくれるような、そんな気がした。
「あの…」
「なんだ?」
「私の名前、牧野さゆりです。もしよかったらあなたの名前、教えていただけますか?」
「ギム・ギンガナムだ」
「嘘つかないでください。」
少女はふくれた様子でこちらを見ている。
「ごめんごめん。本当は新堂輝だ。」
「また、会ってもらえますか?」
「いつでもいいさ。それ、出来たら見せてくれよ」
「はい。今日はありがとうございました。」
そういって少女は走り去る。
俺はその後ろ姿を眺めていた。この日から、俺の忘れられないあの夏が始まる…
なつ?はじまり?
あの少女と会ってから3日たったとき、俺はある事に気づいた。また会う約束はしたものの連絡先を聞いていなかったのだ。会いたくても方法がないのだが、とりあえずまたあの店にいってみることにした。するとそこに、彼女はいた。あの時買ってやった小さなロボットを手に持ちながら。
「お久しぶりです輝さん。これ、出来たんですよ。もしよかったから、見てもらえませんか?私の家で…」
彼女はわかっているのだろうか。俺は男だ。会って間もない男を自分の
家に上げるだろうか。
でも、自分を信じてくれている気持ちは裏切りたくは無かった。最も、彼女の側にできるだけ長い時間居たかったのが本音なのだが。
この時から、俺は彼女を意識し始めた。
彼女の後についていき、家にあがる。その時、俺の顔面に衝撃が走った。目に映るのは黒い足裏。刹那、俺は蹴られたのだと理解した。
「ちょっとお姉ちゃん!誰よこの変態!」
いきなり人の顔に蹴りをいれて変態呼ばわりとは何事か。
「ちょっと!お客さんになにしてるのあゆみ! ごめんなさい、この子、あゆみっていって私の妹なんです。」
晴れの日もハレの日も
後々追加編集します