解決

 旦那が冷蔵庫のドアをはずす。その理由はわからない。

 2、3日は電源が入ったままドアが無いままになっていた。
 
 出先から帰って来た私はそれに気付き、いったい電気料金がどのくらいになるのかと考えるとゾッとしてた。

 私「何故そんな事をしたの」
 
 まずは理由を聞く。

 夫「そっちの方が便利だ」

納得が行かない。

 夫「電気代なんてたいして変わらない」

私は混乱する。

 私「理論的に説明して欲しい」

と言うと、開き直った時の卑屈な笑いを浮かべて答えない。

 私「冷蔵庫は温度を保つ為に始終稼働しているんだよ」

と、いったいどこから説明したらいいのかさえわからない事を説明してみる。

 私「健常者なら普通はわかるはずだよ。」

と、さらに説明しても、彼の片頬はニヤけたままだ。私はこの時の心理を良く知っている。
 
 『俺は小さい頃から勉強ができなかった事が無い、頭がいいのだ。頭のいい俺がそう思ったのだから、俺が正しい。』といった顔。

 それ以上の説明をしてもムリだと、全身の力を全て削ぎ落とされてから諦め、冷蔵庫の扉を自分で直す。

 旦那は部屋から出て行き、別の部屋で寝転がってネットを見ている。ワイドショー並みの私的怨恨ニュースが好みらしい。それから、お笑い番組と、アダルトサイト。まあ、往々にして男性とはそのようなものだろう。

 彼の行動にはこれといった理由が無く、しかし彼の中では何かしら確かな結果により行動しているという事柄に度々遭遇する。
 彼にとっては説明できないのではなく、説明しないだけなのだ。この高尚な計算を、誰が理解し得るだろう、といった確信を抱いたまま一生を終る覚悟ができているようだった。

 彼の世界にまで干渉する気はない。好きな様に自分の心の世界を構築すればいい。しかし、今回はいくら何でも度を超えている。ときどき私の作業する台所にやって来る彼は、卑屈で嫌な笑いをたたえたまま攻撃的な態度を取る。言葉の端々には、悪気は無いと言い訳のできる範囲で、私の神経をうまく逆なでする。
ここで怒れば、彼はビックリした様子を作り、私がおかしいという空気を作る。こういう役に立たぬ所で、彼はやたらと計算高く、天才的だ。
 
 冷蔵庫の扉を、何とか元通りに修復し、旦那のいる部屋を除いてみる。

 眠っている旦那の左側に立ち膝になり、触れてみるが反応はない。やはり、これは人間じゃない。人間(旦那)の形をした何かだ。彼の腕に、爪で小さな傷を付けてみる。全く反応が無い。

 私は、彼は彼ではない、人間ですら無いという結論に達した。どうりでという安心感が生まれる。人間でないなら理屈が通らなくて当たり前だ。

 台所から幅の広い中華包丁を持って来る。
 まずは致命傷に至らない程度に腹部に刃をあて、切り込みを入れてみる。ぴくりともせず眠っている。
 
 やはり人間ではない、痛みというものが無いようだ。
 それでも形は30代男性、起きて反撃されたら終わりだ。だからまず、私の近くにあり、一番包丁の力が入りそうな彼の左肩の当たりに中華包丁を振り下ろし、腕を断った。

 大丈夫、この生き物は気付かず、すやすやと眠り続けている。今の内だ。次は…起きて来て反撃されないようにするには……足だ。

残った右腕とバランスがいいのは左足だろうか?左腕と左足が無い方が動き辛いだろうか?

 いろいろ考え、私から近い場所にある左足を、体重と反動をうまく利用して腿の付け根当たりからまた勢い良く切断する。
 
 うん、これで彼が起きても、残った右腕と右足で反撃は難しいだろう。
 
 これで私の懸案は解決した。


※懸案—前から問題になっていながら、まだ解決されていない事柄。

解決

解決

理解し合えない夫婦の話です。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-23

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