タイムマシーン
SFチックな超短編小説です。
どうぞ、ちょっとした息抜きにお楽しみください。
超短編です
もし、光より早く飛べたら。100光年離れた星に50年で着けば、つまり2光年のスピードで飛んで地球を振り返ったら、50年前の過去を見ることができる。これは過去に行ったのではなく、光を見ているだけであるが実際に見ることができるはずである。
松本博士は、タイムマシーンで未来に行くことは未来というものはまだ無いものである。つまりゼロであるため、無に行くことは出来ないという結論に達した。それから博士は過去に行くことに研究のすべてを賭けた。
大学を卒業して27年間わき目もふらずに研究に没頭してきた。結婚もせず髪はぼさぼさ。年中白衣で過ごしている。
タイムマシーンと称するものを、作っては壊し、壊しては作り、またある時は複雑な計算をわき目もふらずに行っていた。過去という残像を捉える計算が間違っていないはずが、いつも機械を作って見ると失敗であった。
50歳になった博士は過去の残像を捉える数式の計算を完成した。どう確かめても合っている。
「原理はあっている」と博士は確信していた。あとは機械を計算通りに作るだけであった。が機械を作り始めて5年。どうしても過去を見れなかった。
博士は、55歳になったある日いつもと違い設計図に狂いなく機械を作るのに疲れてきていた。適当にコイルを巻き、虚ろな目でコンピュウータのプログラムを打ち込んで機械を組み立てた。100とメモリをセットして機械のスイッチを入れてみると、異様な音とともに博士を100年前に連れて行った。つまりタイムマシーンの作成に成功したのである。
100年前の日本は、大正時代で第1次世界大戦が始まったばかりで活気づいていた。大正の人たちは透き通って白衣を着た髪の毛ぼさぼさで、足元はぼやけまるで浮いているような博士を見て幽霊としか思えなかった。きょろきょろと物珍しそうにしている博士は、誠に気持ちの悪いものであった。
かなり解像度を上げてはいるのだが。、100光年先の星を見ているようなものなので、どうしてもぼやけてしまう。思いもかけず大正時代に行けた博士であったが、残念ながらあっという間に現代に戻ってしまった。
博士は江戸時代が大好きであった。唯一の趣味は時代小説を読むことであった。 今までSF作家たちが想像していたタイムマシーンは、その時代で必要なものを用意して出掛けねばならなかったが、博士の発明したタイムマシーンは実際にその時代に行くわけではないので出発の準備は必要なかった。
今まで30年の苦労が報われた博士は、夜になったのも気づかずに250年にタイムセットをして、スイッチを入れた。
その頃250年前の江戸ではべろべろに酔っぱらった丸山応挙が、柳の木に小便をしていた。そこに長髪で白衣を着て、顔色の悪い松本博士がぼわっと浮き出してきた。 丸山応挙はびっくりして小便をまき散らしながら、大声をあげた。
「お化けだー!!」
丸山応挙は腰を抜かしながら逃げて行った。
それから、丸山応挙は足のない幽霊画を描くようになった。
松本博士が偶然作ったタイムマシーンは、調子が悪くなりどんなに修理しても2度と過去に行けなかった。過去に行った証拠が何もなかった博士は、タイムマシーンが成功したことを誰も知るよしもなかった。
タイムマシーン