予言

偶然飲み屋で出会った、その女は、中学時代のクラスメイトだった

~ 予言 ~


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 彼女との出会いは、ほんの偶然だった。あの日の俺は、それまで付き合っていた有紗と別れたばかりで、少々気鬱だった。とにかく、女が抱きたくて仕方がない時だった。だから、ある意味、誰でもよかったのだ。そんな時、あの、坂本スミレがこの俺の前に、突然現れたのである。

 あの夜、俺は常連としている飲み屋で、独り呆れるほど泥酔していた。有紗に対する未練もあったが、それ以上に、彼女の俺に対する捨て台詞が耳に染み付いていて、荒立ちが拭えなかった。あの女は、てっきり俺にべた惚れしていると思い込んでいた。だが、まさか、あんな馬鹿げたことを口にするとは!
 あれほど尽くしてやったこの俺に、あれほど俺に対する愛を貪っていたくせに、何であんな態度がとれるんだ!一度くらい、他の女と寝ただけで、戯れに少し遊んだことぐらいで、何故それ程、この俺が責められなければならないんだ!ふざけるな!糞女が!!
 ・・・いや、そうではないか?ああでも言わなくては、この俺を諦めるなんて、あの女には無理だったのだろう。・・・ああ、そうさ。そうに決まっている。
 ・・・あの女は馬鹿なんだ!そうさ、きっと後悔するさ。そのうち、また泣きついてくるに決まってる。だが、もう、二度とあんな女抱いてなどやるものか!

 そうなのだ。あの時は、そんな考えたくないことばかりが、しつこく頭の中を駆け巡り、いつまでたっても気が晴れなかったのだ。だから、意味も無く酒ばかりが進んで、俺はもはや正気を失いかけていたのかもしれない。だがそんな時、あのスミレが、俺の席へと、俺の前へと、ゆっくり近づいてきたのである。
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 「優一君でしょ?わたしよ、坂本スミレ。うふふ、隣に座っても、構わないわよね」
 スミレが、そう俺の名前を呼んだ時、俺は全然彼女が誰なのかが判らなかった。そもそも、スミレなんて女に覚えが無かった。だが、そんな俺のつれない態度などなんら気にする様子も無く、スミレはひとりで話を続けていた。
 「中学の頃、同じクラスだったじゃない。忘れちゃった?うーん、そう、わたし、あの頃とは随分雰囲気変わっちゃったから、仕方がないかな?」
 そう呟くと、スミレは小さなピンク色のラメのバックから何かを取り出し、自分の顔にそれをあてた。冴えないデザインの黒ぶちメガネだった。だが、俺はその顔を見て、ようやくピンときた。そうだ!こいつ、確かに中学時代同じクラスにいた、坂本だ!
 ・・・いや、そうなのか。こいつの名前はスミレだったのか。だから、靴ズミなんてあだ名が付いていたのか。
 しかしながら本人の言うとおり、スミレの外見は本当にあの頃と、そのおもむきが丸っきり変わっていた。中学の頃の彼女はマジで陰鬱な性格で、暗いイメージがプンプン臭ってくる女子だった。また体型も同様に冴えなくて、貧弱に痩せてて、猫背で、何気にそこに居るだけで、どこか貧乏臭い女だった。
 だが、どうだろう。今の彼女は全然違う。ボディーもメリハリが出来ていて、いわゆる巨乳で、色白で、胸を張り堂々としていて、どこか女の色気をムンムンと漂わせていた。・・・そう、まるで別人だった。
 「わたしね、実はあの頃、優一君のことを、密かにずっと想っていたのよ。うふふ」
 「えっ?」
 「そう、わたしにとって、あなたは、初恋の人だったんだから」
 ・・・その後の記憶は余り無い。そう、気付けば俺は、ホテルの一室でスミレを狂うように犯していた。彼女の肉体の感触が、激しいあえぎ声が、俺の脳内を満たし、溢れんばかりに響き渡っていた。
 俺は、彼女と携帯の番号やメールアドレスを交換した後、ホテルを出た。また、こうして会うことを約束したのだ。そしてその時、ふと思った。
 「ああ、有紗なんかと、とっとと別れていて正解だった」
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 だが、それからしばらく経ったある日のことだった。仕事中、スミレからメールが来た。
 <OOO社の株、急いで買って!絶対間違いない情報だから、お願いします。わたしを信じて!>
 俺は、そのメールを見て愕然とした。いや、確かに彼女には、自分が今、株式のトレーダーをやっていることは話したが、スミレからこんな情報をいきなり持ち込まれるとは思いもよらなかったからだ。しかし、どういうことだろう?彼女は何かインサイダー情報でも手に入れたのだろうか?それで俺の職業を思い出し、こんなメールを送ってきたのだろうか?・・・意味不明だ。何の確証も裏も取れない情報だ。信じるには危険すぎる。
 ・・・俺は当然のごとく困惑した。だが、俺はこのスミレのくれた情報を信じることにした。いや、実はこの会社に付いては少しうわさがあった。だから、以前より気に掛けていたのだ。そして、そこへ来てこのメールだ。ここは男なら、やってみるべきと思ったのだ。そう、これは俺にとってチャンスだった!もし、この話をふいにして失敗したら、きっと後悔するに違いない。
 実際のところ、今の俺の業績は最悪だった。正直、現在の株式市場はガタガタだ。毎日のように同僚たちが退職し、まるで違った業種に転職している。俺も、もはや後が無い。そう、だめ元でやる価値は十分ある筈だ。・・・そう思った。
 そして、余り日を待たずして、その試みが大成功であったことを俺は知ったのだ!

 「スミレちゃん、やったぜ!凄いよ!君のお陰だよ。マジありがとう!」
 「うふふ、お役に立てて、わたしこそ凄く嬉しいわ。あなたなら、きっとわたしの言葉を信じてくれると思ってた。優一さん、わたしを信じてくれて、ありがとう」

 そしてその後も、スミレは事あるごとに俺に情報をくれた。そして当然のように、それらの情報は確実に実を結んだ。俺の会社での業績は、瞬く間に天上へと上り詰めていった。そして気付けば、俺は会社から億単位のボーナスを貰うまでになっていた。
 だが、それでも、少しだが不思議な感じはある。スミレはどうして誰も知りえない情報を、実に最も重要な瞬間に知りえることが出来たのだろう?このことは、やはり、どう考えても納得のいく説明が付かなかった。
 そしてこのことを、当然ながら俺は何かに付けてスミレに聞いてきた。電話で、メールで、ベットの中で・・・。だが、彼女は結局はぐらかすばかりで、いつになっても何も語ってはくれなかった。
 そして俺は次第に、そのことを聞かなくなった。いや、もはやどうでもいい事と気付いたのだ。要は、金が儲かればそれでいいのだ。スミレも俺が大金持ちになることで、当然得をするわけだ。金を思う存分使って遊べることは勿論、俺のこの愛を、あいつは独占することが出来るわけだから。
 そう、余計なことは考える必要はない。ただ今いえることは、この俺とは、それほどまでに価値ある存在なのだということだ。有能でイケ面のこの俺は、元来幸せであって当然なのだから、報われて当たり前なのだ。
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 その日、俺はいつもより早起きした。仕事で海外に出張しなくてはならなかった。数日分の荷物を担ぎ、ようやく飛行場へと辿り着いた。だが、その時だった。電話が鳴った。
 俺は素早く携帯をポケットから取り出し、電話に出た。スミレだった。
 「優一さん!大変なの、落ち着いて聞いて!」
 「えっ?どうしたんだよ?」
 スミレの様子は明らかに変だった。声がうわずり、動揺していることは明白だった。
 「・・・あのね、わたし、見てしまったの!だから、何も言わず、わたしの言うとおりにして!お願い!じゃないと、あなたの身が危険なの」
 「えっ、何?それって、どういうことだよ?」
 「今まで、ずっと黙っていたけど、わたしには、未来が見えるんです。だから、今までも、あなたの仕事のお手伝いが出来たんです。株式の未来が見えたから!」
 俺は、その言葉に愕然とした。そうだ、ずっと今まで、何度彼女に質問しても答えてくれなかった回答を、スミレは今告白したのだと気付いた。
 「このまま、この飛行機には乗っちゃ駄目!すぐにキャンセルして、次の便に乗ってください。次の便だよ!次の便なら、絶対に大丈夫な筈なんです。だから、お願いします!
 」
 俺はその時、とても重大な事実を思い出したのだ。そう、そうだったのだ!こんなことが、これと似た出来事が嘗てあった。それは中学生の頃だった。
 あれは社会科見学で、学年の生徒皆がバスで工場地帯へ移動しようとしていたときだった。・・・しかし、それは隣のクラスのバスであった。そのバスが、クラスの生徒を全員乗せ終え、今発車しようとしたその時、スミレがバスの前へ飛び出した。
 「だめ!このバスは危険です!皆降りて!このバスで、行っちゃだめ!」
 彼女はあの時、そう狂ったように叫んでいた。皆、驚いた!騒然となった。何が起きたのかと俺たちのクラスの連中も皆、押し合うようにバスの窓から首を出し、その様子を眺めていた。そして、それが、その騒ぎの張本人が、こともあろうに我がクラスで靴ズミとあだ名され嫌煙されていた、あの根暗な坂本スミレであると知って、大騒ぎになったのを覚えている。
 だが、結局、スミレの話など信じるものは一人も居なかった。彼女は当然無視され、罵倒された。・・・しかし、本当の驚きはその後のことである。
 そうなのだ!その後、本当にそのバスは、スミレが危険だと予知したその車両は、事故を起した。運転手のミスで、追突事故を起してしまった。けが人が大勢でた。死人は無かったものの、テレビニュースにもなる程の大騒ぎになったのだ。
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 そうだ!スミレには、元々予知能力が有ったんだ。だから、株式の未来での展開も判ったんだ。そうだ!間違いなく、あの時のバス事故も、スミレは予知していたんだ。だからそれを食い止めようと、あんな馬鹿な真似をしていたんだ。そうだったんだ。
 ・・・だが、思えば、スミレは惨めだった。あのバス騒動の後、むしろ彼女は煙たがられた。気味悪がられた。俺達は結局、事故を予見した根暗な女子を不気味なものとしか捕らえなかったんだ。・・・いや、それ以前から、何処か捕らえどころの無いスミレを俺達は毛嫌いしていた。だからこそ不気味に感じた。
 あの事件の後、女子男子の境無く、スミレに対するいじめが激化して行ったことがあったかもしれない。そうだ!そういえば、そんなことがあったんだ!スミレはあの頃、一度自殺未遂をしでかしたんだ。クラスから総スカンを喰らい、不気味女と気持ち悪がられ、靴墨臭いとののしられ、それに堪りかねた彼女は、校舎裏の立ち木で首吊り自殺をしようとした。だが、その時偶然に教師の一人が彼女の異様な様子に気が付いて、寸での所で事無きを得たのだとか・・・。そんなうわさ話が、確かにあの頃あったのだ。
 ・・・そう、俺はそんな出来事を、その時、急に思い出したのである。
 ・・・そう、これは間違いない!この飛行機などには乗っちゃいけない!
 そうだ。スミレには見えたんだ。この飛行機が事故を起す未来の姿が!
 俺は、この事実に気づくと、もはや何の迷いもなく、スミレの忠告に従って行動した。すぐに乗る筈だった便をキャンセルし、つぎの便のキャンセル待ちを願い出た。運の良いことに、すぐに次回便の席が取れ、俺はほっと安堵の溜息を吐いた。飛行場の待合席でスミレに電話を掛けた。俺の話を聞いたスミレは涙ぐんだ声で「良かった良かった」と、何度も呟いていた。そして、電話を切る間際、ポツリと言った。
 「・・・ああ、これで、わたしの苦労も報われた」
 俺は、その言葉に涙した。俺という男は、なんと果報者だろう。どうしてもっと早く、あんないい女の存在に気づかなかったのだろう。
 思えば、中学の頃の俺は、余りにも愚かだった。スミレに対し、馬鹿げた態度ばかりとっていた。何度となく、酷いことを口走り、きっと彼女のことを傷付けたに違いない。スミレの気持ちなど、まるで判っていなかった。
 ・・・馬鹿だった。馬鹿だった。馬鹿だった。
 だが、それも全て、カビが生えるほど昔のことだ。まだ未熟な子供の頃の話だ。今更何を思っても仕方あるまい。
 ・・・後悔、先に立たず。そう、そんなことはどうでもいいさ。
 これからを、大事にしよう!スミレを思い切り愛してやろう!苦しいほどに幸せにしてやろう!・・・そうだ!・・・そうだ!
 きっと、俺とスミレとは、運命によって固く結ばれた仲だったのだ!
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 俺は飛行機の座席で、インターネットの検索をしていた。本来なら、この時間は出張先でのプランを固めておくことこそが必要だっただろう。だが、今の俺にはそんな現実など霞んで見えた。それよりも重要な事があった。そう、それはスミレとのバカンスだ!
 前々から、その話はしていた。だが、仕事に追われるうちに次第におざなりになっていた。それに、今の俺の体は休日といえど忙しかった。スミレには悪いと思ったものの、他にも女がいたのだ。その娘は頭は悪いが、スミレとは違い根本的に造形が美しかった。また、夜も最高で男としては決して見過ごすことのできない女だったのだ。
 だが、今はその気持ちも変わりつつある。今の俺にとっての比重は、スミレの方が高まっている。いや、これまでも、もっとアイツを愛してやればよかった。少し寂しい想いをさせていたかもしれない。
 そう、だから、その償いをしてやろう。長めの休みを取って、たっぷりとスミレと俺との、二人だけのバカンスを楽しもう!
 ・・・だが、そんなことを考えていた、まさにその時だった。
 急に機体が振動を始めた。ガタガタとボディーの軋む音が響き、激しく揺れた。
 『バボーン!』と、何かが破裂するような爆発音が聞こえた。乗客たちの悲鳴が狭い機内に鳴り響いた!
 「やだ、エンジンから火が出てる!」
 そんな声が何処からか聞こえてきた。そして、それとほぼ同時に、機体が大きく安定を失って一気に下降していくのを体に感じた。そしてその時、俺の携帯のバイブレーションが、胸ポケットの中でブルブルと振動した。
 <きっと今頃、刺激的な最後のフライトを楽しんでいることでしょうね。本当に馬鹿な男。せいぜい己を後悔しながら、地獄に落ちな!この屑が!>
 「えっ、・・・・・・・・・・!?」

 緊急用の酸素マスクが上から落ちてきた。何処からか白い煙が漂ってきた。客室乗務員が、パニックを起こしている乗客に声を掛け、落ち着くように説得していた。機長から、落ち着いて対処さえすれば、きっと大丈夫であるとのアナウンスが入った。
 ・・・だが、俺にはもう判っている。この機は間違いなく落ちるだろう。そしてこの俺の末路もまた然りだろう。
 ・・・そうなんだ。そうだったんだ。あの女がおれの前に現れた、あの日から、もはやこの俺の運命は決まっていたのだ。
 あのスミレが俺に惚れていたなんて、あり得ない話だったんだ。俺が中学時代にしていたことを考えれば、当然の答えだ。そもそも、あいつを一番からかっていたのはこの俺だ。
 バス事故の時だって、スミレに同情する奴だって少しはいたのに、そんな意見を完全に踏み潰し、あいつを汚物扱いにして、罵倒して、クラスから、学校から、必要にいびり出していた張本人は、そう、この俺だ!
 だが、別に悪気はなかったんだ!ただ、悪ふざけのつもりだったんだ!
 ・・・そうだ!思えば、スミレが悪いんだ。あのバス事故の後、何故かあいつを、あの靴ズミをヒーロー扱いする奴が現れたんだ。あんな気味の悪い女のことを、凄いとか、偉いとか、自己犠牲を顧みず皆を救おうとしたとか!
 そんなバカなことを口走る奴が何人か現れて、俺はそれが我慢ならなかったんだ!
 だって、そうだろう!あのまま、あんな馬鹿げた流れで話が盛り上がっていってしまったら、あの靴ズミが、本当にヒーローみたいになってしまったら、それまで先頭を立って、あのブスをいびってきた俺が、まるで悪者みたいになっちまう!
 だって、そんなの、絶対に嫌だった!嫌だったんだ!・・・だから、どうしても、許せなかったんだ!
 ・・・だから、追い込んだのさ、自殺すればいいって、そう思ったのさ。
 ・・・俺が悪いんじゃない!俺が悪いんじゃない!俺が悪いんじゃない!
 ・・・なんでだよ、・・・俺は何にも悪くなんてないのに、

 間もなく、機体は青い海の中へと姿を消した。

予言

予言

付き合っていた彼女に振られ、やけ酒を飲んでいた、そんな時、突然俺の前に女が現れた。だが、それは、もはや顔も忘れていた中学時代のクラスメイトだった。・・・そして、それを機会に付き合い始めたスミレには、実は隠された驚くべき能力があった。 その女との運命的な出会いが、彼の未来を180度変えた。そう、彼女の予言が、その男の負け犬人生をひっっ繰り返した!・・・のだが、

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-09-20

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