キル・スタイル

夏休みの終わり。何も思わず手に入れたスマホのアプリだったが・・・

~ キル・スタイル ~


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 俺は今日も昨日同様、無気力だ。夏休みはもう残り少ないというのに、未だ宿題の半分も片付いてはいない。思えば何も大したことの無い、実につまらないひと夏だった。
 まあ、何の計画も立てず、何事にもチャレンジしようとしなかった自分が悪いのだからしょうがない。
 こんなことなら部活の合宿ぐらい、面倒でも、ちゃんと参加しておけばよかった。
 ・・・いや、この事を考えるのは止そう。どうせ、顧問や先輩に後で嫌というほど叩かれる。そして強制的に自分の行いを後悔させられることになるのだから。
 ・・・くそ!学校に行くのが、また更に嫌になってきた!
 「ブブブブブブ・ブブブブブブ・ブブブブブブ・ブブブブブブ」
 机のスマホが小刻みに振動した。メールの着信だろう。
 ああ、滝沢からだ。あいつも相当暇なのかな?
 <前略!!!マジ矢場情報あり サイトアクセス実行有之 キル・スタイル お前も一緒してやろう http://・・・・・>
 俺はすぐに電話を掛けた。
 「よう、タッキー、何あれ?・・・キル・スタイル?これってゲーム?」
 「へへへ、やっぱ、食いついた。もう、ダウンロードしたか?マジ面白いだろ!無料だから、遊び放題!途中で追加料金とか全然ノープロブレムだから、安心しな!」
 「バカ、まだダウンロード出来っこないだろ、今メール見て、今電話したんだぜ。俺は超能力者か?間抜け!」
 「秀は相変わらずの毒舌ですなあ。まあいいや、電話切って、すぐダウンして。これは絶対ハマるから。インストール出来たら、また電話ちょうだい。その方が話しやすいし」
 「・・・はいはい。ご連絡ありがとう。じゃ、後ほど!」
 しかし、滝沢とは不思議な奴だ。こんな人嫌いの根暗男に、あいつだけは懐いてくれた。思えば中二からだから、かれこれ三年の付き合いだ。お互い彼女もいない非モテ仲間だ。あいつといれば、俺は全然みじめな自分を自覚しないで済む。
 言われた通り、アクセスしてみる。真っ暗な背景に、淡々とした味も素っ気ない文字が羅列されている。これはどう見ても大手メーカーのサイトじゃない。きっと変人おたくが道楽で作った個人サイトみたいなやつだろう。
 ・・・あった。<キル・スタイル>これだ。『ダウンロード希望』をクリック。
 ・・・あれ?なに?・・・これって、ヤバくない?
 <このゲームは完全無料です。ただし、このサイトのことを多くに知らせないことを約束ください。また、いかなることがあろうと、それを自己責任として認識ください。>
 危ないサイトだ。マジで危険な匂いがプンプンしてくる。これって、ウイルスが入っていますと言っているようなものだ。
 ・・・まあ、いいか。もはや夏休みも終わりだ。一回くらい馬鹿げたことをしてもバチはあたるまい。
 ・・・だが、それを目にして、またため息が出た。そこにある文字は『ダウンロード』ではなく、<契約>だった。・・・しかも、赤文字だ。
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 インストールの終了後、念のためウイルスチェックをしてみる。
 どうやら問題ないようだ。まあ、どうでもいいや。
 取説文に目を通す。・・・うむ。単純明快なゲーム内容みたいだ。要するに、索敵して、潜入して、敵を倒す。操作も簡単みたい。方向キーと攻撃ボタン。後は索敵の時モードの方法がちょっとややこしいかな?いや、そうでもないか。・・・うむ、やっぱりこれって、よくあるフリーウエアーって感じだね。・・・と、この辺でそろそろ、滝沢の奴に電話をしますか。
 コールをすると、すぐに奴は電話に出た。もう待ちかねていた感バリバリだった。
 「インストール済みましたかえ?」
 「ああ、したよ。でも、これほんとに大丈夫なのか?スゲー、変態臭くねえ」
 「あれ?お主、まだゲームをロードしてないね。いいから、騙されたと思ってやってみし。マジ面白いよ。詰まらん心配なんか吹き飛ぶから」
 「ああ、謹んでそうさせていただくよ。で、話ってなんだ?一緒にやろうってあったけど、取説見る限り、これって完全な一人用じゃん。ネットゲーだと思ってたのに、全然違うっぽくねえ?」
 「ふふふふふふふ、そうです。その通りです。でもさあ、折角やばいゲーム見つけたのに、独りで黙々と遊んでも、いまいち燃えないでは御座ろうが。いや、実をいうとさ、これ面白いのは面白いんだけど、いまいち退屈な訳。結構おんなじことの繰り返しだし、何気にゲーム調整とかインチキなんだよね。まあ、個人サイトの自作ゲームみたいだから、しょうがないんだろうけど」
 「え?お前、言ってることが、ちょっと違ってきてない?ホントは糞詰まんない訳?」
 「いやいや、そうじゃないって。ちゃんと面白いっす!たださあ、わらしとしては、もっと楽しみたいわけで御座るよ。だからさあ、対戦しましょう。いや、競争か。とにかく、このゲームにはエンディングがあるらしいんだ。それを、先に見た方が勝ちとしよう!要するに、どっちが先に、十三人ぶっ殺せるか競争じゃ!」
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 そして、いざゲームを始めてみたら、俺は思わず叫び声をあげてしまった。
 「何これ?全然つまらな過ぎじゃん!バカかあいつは!」
 いや、だからこそ滝沢の奴は俺に対戦しようなんて言ってきたのだ。いや、競争か。
 とにかく変なゲームだった。そもそもこのゲーム。敵がいない。誰も攻撃してこない。そして自分にも武器がない。攻撃ボタン(説明書ではキル・ボタン)を押しても、ただ両手を前へと突き出すだけ。意味不明。しかも、自分にはあたり判定が存在しない。自動車みたいな物体が突然走ってきたりはするのだが、基本的には意味がない。他のキャラクターやそうした物体に衝突しても、何事もなく素通りしてしまう。
 ただし、壁は通り抜けられない。だから、迷路みたいに入り組んだ町中をひたすらに歩き回らなくてはいけない。しかも、その町のような感じの構造をした背景の表示が詰まらない。
 ただのそっけない線と面だけ。いわゆる前世代的ワイヤーフレームの疑似立体空間なのだ。まあ、ただそれでも少しは評価できるところがあるとすれば、何気にその構造が非常に複雑かつ、詳細に作りこまれている事だろうか。確かに目が慣れてくると、本当の町中を歩いているのと変わりない程に完全な箱庭になっている感じがする。
 では、そんな意味不明ワールドでプレーヤーは何をするのかといえば、とにかくターゲットを探すこと。いわゆる、おつかいだ。ターゲットの居場所は、マップや移動画面上の矢印で知ることが出来る。だから、ひたすらにそこへ向かって進むのみ。
 そして、そのターゲットのところに到着した暁には、そっと近づいてそいつをキル・ボタンで首を絞めて殺すだけ。結局それだけのものだった。
 しかし、こんな何も無いゲームだが、一応難易度が付いているとするならば、ターゲットを殺すとき、必ずそいつがその空間において一人でいることが条件となる。もしもその他の人影が近くにいるとキル・ボタンが発動しない。だから殺せない。馬鹿みたい。
 そしてもう一つ。自分はどうやら人には見えないらしい。そもそも、あたり判定すらないんだから当然なのかも知れないけどね。でも、どういうルール付なんだか知らんが、そのターゲットにだけは存在を気づかれる。しかも、はっきりとではない。ずっと側にいるのに全然気づかれないこともあれば、いきなり逃げたしたりすることもある。意味不明!
 それに、そのキャラクターの表示だって、ただの塗りつぶしのシルエットだけだから、表情も目の向きも、なんも判らない。だから何が起きているのか判り難かったりするわけだ。
 だが、背景同様に良く出来ている点を言えば、そのキャラクターの動きである。本当に滑らかで、モーションがリアルだ。そこだけは、感心するね。
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 <何人殺った?三人池多加奈?ふふふ、では、そろそろわらしも稼働しまする!>
 一時間ほど過ぎた時、滝沢からのメールが来た。要はこれから本当の勝負スタートだ。あいつは既に一時間ほど遊んでいて、十三人のターゲットの内、三人殺し終えていた。だからその時間分、自分はゲームを止めて俺のプレーを待っていたのだ。
 いや、本当は二人で一緒に再スタートしようとしたのだが、何故かそんな簡単なことが出来ない仕様だったわけだ。まったく馬鹿すぎ!
 だが、今俺は遅れをとっている。まだ、二人しか殺っていない。いや、これがこのゲームの最低なところだが、三人目に苦戦中!その理由がまた最低。ターゲットの前まで来たには来たが、そいつが全然一人にならない。他のキャラとベタベタくっ付いていて、トイレにも行かないぞ!という構えだ。アベックって設定か?なら、どうせなら、二人でベットにでも潜ってエロい動きでも見せやがれ!糞が。
 実は滝沢とは、この他にも幾つかのルールを決めた。まず、音声電話の禁止。あれが来ちゃうとその時に出なくてはいけなくなる。それでは肝心な時にゲームが止まってしまう危険がある。その点メールなら、手の空いた時に見ればいい。そして、ゲームを最後まで終了した時、相手に初めて電話を掛ける。そしてエンディングの内容を報告するのだ。
 負けた方も、その後でちゃんと最後までプレーして、自分でもエンディングを確認すれば、それ嘘かどうかすぐに判るという仕掛けだ。
 そして、敗者は今度会ったときマックでセットメニューを一つおごる。やっぱり、何かご褒美がないと盛り上がらないからね。しかし、俺は絶対に負けられない。もはや今月の小遣いなんて一円も残っちゃいないのだ。
 あっ、ようやくターゲットが離れた!あれ?こいつはマジでトイレに行くみたいだ。笑うね。さあ、この馬鹿野郎をとっと片付けましょう!って、こいつは野郎じゃなくて女かな?・・・まあ、どうでもいいや。さあ、ここらでキル・ボタンをボチッとな。
 のたうち回るキャラクターのシルエットがぐったりとして動きを止めると、画面が一旦真っ黒になった。『三人目・殺傷終了』
 そして、迅速につぎの面が始まる。『四人目を殺れ』
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 <へへへへへ!八人目終了にて候、早漏!勝ち確実?>
 <ふざけんな!勝負はまだ中盤だ、すぐに追いつく!!>
 滝沢の野郎、マジでもう八面終わってんのか?マジヤバい。俺は、まだ六人しか殺ってない。どんどん遅れをとっている。マジでぼんやりしてられない。
 その時、滝沢からまたメールが入った。
 <キキキキキ!早々で済みませぬ!九匹目、わずか三分にて終了、早漏過!己怖!>
 くそ!このままじゃヤバ過ぎる!あの野郎、調子に乗りやがって。もう、メールなんか返してる暇なんかない。なんとしても追い付かなくちゃ、ほんとに借金しなきゃならなくなる。負けてたまるか!
 ・・・・・・・・・・・。
 しばしゲームに集中する。
 『七人目・殺傷終了』『八人目を殺れ』
 ・・・・・・・・・・・。
 『八人目・殺傷終了』『九人目を殺れ』
 ・・・・・・・・・・・。 
 『九人目・殺傷終了』『十人目を殺れ』
 ・・・・・・・・・・・。
 「ブブブブブブ・ブブブブブ・ブブブブブブ・ブブブブブブ」滝沢からメールが来た。
 <いや、悪いね、勝ち確実!残一にて早漏!ダブチーバーガー四六四九>
 くそ!いや、まだ判るもんか!大概のゲームは最終面は難易度高いもんだ!諦めるもんか!・・・くそ、・・・集中、集中。
 ・・・・・・・・・・。
 『十人目・殺傷終了』『十一人目を殺れ』
 ・・・・・・・・・・。
 『十一人目・殺傷終了』『十二人目を殺れ』
 ・・・・・・・・・・。
 『十二人目・殺傷終了』『最後に奴を殺れ!』
 よし、最終面だ!まだ、滝沢からの電話は無い。もしかしたら逆転できるかもしれない。ここは慎重に、たが迅速に勝負を決めてやる。
 ・・・あれ?おいおい、なんだこれ?目的地は目の前ジャン。この面、最終ステージのくせに、鼻から破たんしてねえ?・・・ああそういえば、9面、三分ぐらいでクリアーしたなんて、あいつ言ってたっけ。いや、マジでこのゲーム調整めちゃくちゃ過ぎ!
 ・・・まあいいや。きっと、ランダムなんだろう。
 けど、前のメールから、もう一時間以上経ってるのに、マジであいつ苦戦してるのか?もしかしたら、もう終わってんのに俺が電話に気づかなかったとか?・・・いや、それはあり得ないか。・・・まあ、どうでもいいや。
 いや、しかし、これは、本当に逆転あるかもね。勝ったら、絶対ビッマックセットにしよう。あ、ここだ。この家だ。マジで目の前。難易度完全にゼロじゃん。
 それにしてもこの建物、何処にでもある普通の民家だね。ほんとに全然最終ステージらしさなんてまるで無し。もはや、家に入れば即効終了ぽくねえ。いや、まあ、こんなもんでしょう。でも、今回はラッキーでした。
 ・・・いや、そう思わせて、実は何かとんでもない仕掛けがあったりして。
 ・・・だってそうだよな。滝沢は、間違いなく最終面で苦戦中の筈だ。ここへ来て、間抜けなトラップにはまったりしたら、スゲー惨め臭いぞ。
 ・・・よし、油断大敵!ここは慎重に。
 あれ?この部屋の間取り、どっかで見た気がするな?だって、ここを右に行った所が階段でしょ。階段上がれば、その先に多分、今回のターゲットがいる筈だ。
 でも、それにしても、この家、凄くどっかの家にそっくり過ぎない?気のせいか?
 ・・・いや、こういう家の間取りって、何処も似たり寄ったりだよね。気にすることないな。だって、そんなことあり得ない。
 ・・・まあ、そんなことどうでもいいや。
 おう、いたいた。あれがターゲットだ。いや、しかし間抜けすぎる奴。部屋に一人きりで、なんか携帯ゲームみたいのに夢中だよ。全然、俺の気配に気づく心配なし!
 馬鹿過ぎ。簡単過ぎ。間抜け過ぎ。
 さあ、とっとと終わらせて滝沢に電話しなくちゃ。もう、これで勝ち間違いなし!
 さあ、お馬鹿の背後に付きました。
 さあ、これで、この馬鹿馬鹿しいゲームともお別れだ。もう、二度とやるもんか、こんなもの!さらば、馬鹿ゲー!さらばクソゲー!
 キル・ボタン、ポチッとな。
 「うっ!?・・・・・・・・息が、・・・・・・・・できなっ ・・・・・・・・ ・・・・・・・」

 エンディングなんか、このゲームには初めから何も用意されてなんか無かったんだ。
 だから、あいつからは、いつまでたっても電話がなかったんだ。
 ・・・この勝負、きっと、俺の負けだろう。

キル・スタイル

キル・スタイル

退屈を持て余していた夏休みの終わり、ふと友人から、奇妙なスマホの無料ゲームアプリを紹介される。 そして、お互いにルールを決めて、いざ対戦と洒落こんでみたのだが・・・ ・・・ただ、戯れに遊んだだけの、そのアプリには、実は奇妙な裏があった。

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-09-20

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