俺の行方Part1
「あなた、ご飯よ。」
今日の晩御飯はオムライスか、俺の嫁はよくわかってるなぁ。
ま、ちょっと子供らしいが別に構わない、美味しいのだから。
「いただきます」
「うん、食べて。・・・今日仕事どうだった?」
「別に、いつも通りだよ。ちょっと働いてちょっと休憩してあとは大体話してるだけ」
「そっか。何もなくて何よりだわ。」
「・・・それが一番いいよね、俺は普通のサラリーマンだけど、これで納得してる。昔は保育士や小説家になりたかったけど、俺って諦めが早い人間だからさ。なんだかんだでやっていけてるよ。」
「そうね、私もそのおかげであなたと出会えたわけだから。」
「うん、ぶっちゃけそれでもう十分だ俺は。」
オムライスをほうばる間、少しだけ会話をした。いつもこんな感じだ。もうちょっと話す時もあるかな。あまり上下は激しくない。
「・・・」
「・・・」
「・・・あ、そういえば今日なんか見たい番組あるんじゃないの?」
「ああ、思い出した、あったあった。後で観ないとな。ありがとう。」
「ううん、私も見たかったからいいのよ。」
「うん」
今日は俺の大好きなドラマがある。内容は言わないがとにかく好きだ。昔から見ているから絶対に見過ごせない。だけど俺はよく忘れてしまう。
忘れるたびに毎回嫁が忠告してくる。本当に助かっている。
俺はこういう人間だ。
「・・・」
「・・・」
「ごちそうさん。」
「うん、食器片づけるね。」
「いや、いい。俺が片づける。自分が食べたのくらい片づけるべきだろ。」
「ふふ、ありがとうあなた。」
「子供のころから自分のはちゃんと片づけてたから別に嫌じゃないよ。」
「しつけがしっかりしている親だったのね。」
「・・・は?」
断言する、俺の親は決していい親とは言えなかった。
「・・・え?違うの?私あなたの親とは会ったことないから・・・」
それもそのはず、会えるわけがない。
「そうか・・・じゃあ今のは訂正してくれ。俺の親は決していい親ではなかった。」
「・・・そう。」
「そうだ。」
カチャカチャ。食器を片づける音と水の流れる音が響く。
「・・・あなたは」
「ん?」
「たまに、死んだような目をしているわね。」
「死んだような目をしている」と言われたのが3回ある。
「お前は死んだような目をしているなぁ」
みんなは冗談のつもりで言っていると思うが、今なら言える。
俺には辛くて仕方なかった。
そう、俺がまだ中学生の時の話だ。
ひねくれものだった俺は昔からゲームが好きだった。親父も大好きでそれで移ったのかもしれない。
ネトゲも好きでまぁたまにリアルにも支障が出るほどやっていた。成績も下がるわけだ。
でも俺はよかった。
友達もいる、親友かもしれない人もいた。分かち合える人もいた。楽しかった。この先もなんとかやっていけるだろうと思ってた。嫌な奴もいたけど別につきものだと思ってあまり気にしてはいなかった。
そして、俺が一番大切にしてる理解者(っぽい)人だっていた。
このままやっていけると思っていた。
思っていただけだった。
俺には家族がいる。親父とおふくろと姉と
殺された妹か弟だ。
中1のいつぐらいだろう、夏と秋のあいだぐらい。着実に成績が落ちていた。
めんどくさがりやだった俺には到底テスト勉強なんかできないわけで。
とうとう親父に言われた
「そろそろ頑張らんと色々禁止にせなあかんな。」
「おおおっふ、了解」
定番の禁止令だ。これは頑張らないといけないな。うん、頑張ろう。
親父はすごく頭がよかった。習字も5段?んでもって頭の回転もすごい。しかもゲーマー。しかも元結構な不良。今考えたら恐ろしいわ。
しかし俺はそれなりに頑張っただけだった。なんでだろう、もともとこういう人なのか俺は。だんだんと成績も下がった
親父にもまぁ怒られるが、それでもなぜか奮闘できなかった、なんでだろうな。
なんでだろうな。
俺の親は今考えると酷かった。
俺は親がまだ結構若いころに生まれた子だった。デキ婚ではない。と思う。
姉がいる、俺がいる、親父もおふくろもいる。祖父だって祖母だっている。
俺が小6の頃だっけな。
「に、妊娠した・・・!」
・・・・え!
一瞬言葉出なかった。実感が湧かない。
「おおおお・・・お、おめでとう」
後から聞いたことだが作ろうとしたわけじゃないらしい。デキちゃった。わけだ。
とりあえず嬉しがる家族一同。
しかしそれも一瞬だった気がする。
俺のおふくろは軽い精神病だった。ほんと軽いけど。
しかし精神病には変わりない。
まず考えたのは
「子供三人でもやっていけんの母ちゃん?」
そう、おふくろがやっていけるのか、いろんな意味で。
病院の先生にも言われてるらしい、やっていけるかどうか。
一同は考える。
「うーん・・・」
結局こうなった。俺と親父が考えた案だ。
「まぁ後は母ちゃん自身が決めたらいいんちゃうの?」
別に投げやりになったわけじゃない。
「そうやね。」
おふくろもそれで納得した。
正直俺は妹か弟はどっちでもよかった。
いや、どっちかというと見たい。俺の弟か妹、どんな顔だろう、どんな性格だろう。そしてどんなにかわいいだろう。と。
しかし俺はそんなこと言えるはずがない。親も精神病。俺がでしゃばったらおふくろに負担かかるだけだ。あまり言わないでいた。
でも見たいという気持ちは変わらない。
そして2週間くらい経った。
リビングに集まる家族。
「・・・ごめん、やっぱ中絶するわ。」
そうか。そう決めたら仕方ない。
「そうか~、まぁそれが一番いいんちゃう?」
「せやせや、まずおかんの負担が大事やからな。」
「うむ、そうするべきやな。」
みんなでフォローしあった。
おふくろはごめんねと数回言ってあとはいつも通りだった。
俺もあまり変わらなかった、その時は。
中絶。小6の俺でも大体しかわからなかった言葉だ。あのとき俺は「おなかの中にいる赤ちゃんをおろす」と覚えていた、たぶんあってるはず。
しかし今はすこし違う。
人殺しと一緒だ。
そしてとうとう中絶の日。
いつも通り俺は学校でみんなと遊んで帰って風呂入って夜まで、いや夜もだけどゲームしてた。やっぱ楽しいなぁ。
そして夜、みんなが帰ってくる。
「・・・中絶したわー」
中絶を終えたおふくろが言う。
「そうかーお疲れ。」
この時もリビングにみんないた、姉と俺とおふくろと親父だ。
おふくろはまたごめんねと数回言って日常話に変えた。
それなりに盛り上がった。
俺はなぜか早めに部屋に戻った。
「・・・本当に母ちゃんは中絶したんや。いまいち実感できんなー」
と一人つぶやくと同時に
大泣きした。
死んだ。俺の妹か弟かわからないが死んだんだ。もう会えない。名前も決めてたのに。女だったら千尋。男だったら流星だ。
それも儚く終わった。死んだ。おふくろが殺した。俺にはそうとしか思えない。だめだ。もうだめだ。
余談だがそこから俺は極度のロリコンになった。
そしてこの日を境に家族が一人いなくなった。千尋か流星か分からないけど、あの世でも元気でな。
※一部修正を加えました
俺の行方Part1