たくさんの神話の物語の中で#2

♯2 冥界の使者

翌日の朝のことだった。夢狩は朝食を摂(と)っているとテレビでのニュースの内容の一つに耳を傾けるのであった。その内容は夢(む)狩(かり)が昨日の帰りに襲われたその後の事なのであった。その後、二人の死者が出たというが、神話の中にあった冥界の番犬ケルベロスか、死神か冥界の王か…。夢狩は昨日のことが本当にあったことだと確信するのであった。
「最近物騒ね。夢狩遅くなる場合は気をつけてね。」そう言いながら夢狩の飲んでいるカップにコーヒーを注(そそ)ぐのであった。
「うん、解って(わか)いる。今日は午後で終わりらしいから、早く帰って来るよ。」そう言いながらコーヒーを飲むのだった。
「あ、私今日は遅くなるから、早めに帰ってくることと、最近は物騒だから外に出ちゃだめ、はいこれ、夕食は帰りに買って。」そう言いその日の夕食代を弁当と一緒にテーブルの上へと置くのであった。
「はい、有り難う志(しい)架(か)さん。」そう言い夢狩はコーヒーを飲み終わると支度(したく)を始め学校へと向かうのであった。夢狩の歩く道の先に一人で立ち止まっている者がいると夢狩はその者を知っているのか手を振りその者の側(そば)へと向かうのであった。
「カノ、昨日は大丈夫だった?」二人は朝の挨拶(あいさつ)をし、少し昨日の帰りの事以外の事を話しながら歩く、暫くしてそう夢狩は尋ねるのであった。夏音(かのん)はやはり怖い思いをした今日であるがためか表情を曇らせている。夢狩はふと我に返りこれはいけないことを聞いてしまったかと思うのであった。すると夏音の表情は最初の状態に戻す。
「うん、昨日はちょっと怖かったけれど大丈夫、そんなに心配しなくてもいいよ。夢狩も怖い思いをしたのだからそれでも普段通りでいる。」と夢狩は笑顔で頷(うなず)くのだった。
「有(あ)り難(がと)うカノ。」すると何処(どこ)からかしらと夢狩に声を掛(か)ける。その者は昨日の晩まで話していたバニルガの声だった。
 ― 君の友人は何かと前向きだ…。― と。夢狩は夏音に聞こえないように言う。
「ちょ、ちょっともし、聞こえたらどうするのよ!?」とバニルガは少々笑うというのであった。
 ― 案ずるな。ミカケラをやどす者にしか聞こえぬ故(ゆえ)に君の友人には今のところ聞こえはせぬ…。― そうバニルガは答えると夢狩は再び夏音と共に学校へと向かうのだった。その後、授業は午前で終わり皆が急ぎ足で帰り始めるのであった。夢狩は夏音を図書室で待っているとそこで本棚から本を一冊読んでいるのであった。読んでいる本のタイトルはやはり神話の本で、今度は〝北欧神話″である。夢狩はやはり楽しそうであった。それを観たバニルガが再びちょっかいを出してくるのであった。
 ― 君は、よく数多(あまた)の神話の書物を読むことをたしなむのか? ― 少々興味深そうに聞いてくるのであった。
「そ、一応神話の話とか、伝説とかよく読んでいるよ。」とこそこそとした声で答えると、用事を済ませてきた夏音と合流するのであった。
「お待たせ夢狩、早く帰ろう。」そう呼びかける夏音を見て夢狩は荷物を持ち夏音の側(そば)へと寄ると学校を後にするのだった。そして暫く二人は帰り道を歩いている時夏音はふとカバンの中を確かめるように覗(のぞ)くのであったそしてまた夏音は夢狩に言うのであった。
「あ、ごめん…夢狩…忘れ物しちゃった。私、学校戻ってとって来るけれど夢狩は先に家へ帰っていて。」その帰り道の事であった。二人は家に帰る途中の事だった。
「え、何忘れたの?」
「携帯と宿題。明日の授業までやらなきゃいけない!」そう言いながら急ぎ足で学校へと戻る夏音を見送ると夢狩は何か嫌な気配がすると周囲を見回す。夢狩は暫くしてから家路(いえじ)を急ぐのであった。しかし、夢狩は何者かの気配を感じ再び周りを見渡すが誰もいない。そして誰一人とも隠れている気配はないのだった。しかし夢狩は急ぎ足で買い物を済ませて家へと急ぐのだった。それをやはり陰から見ていた者が後をつけるのであった。そしてその者は手のひらを見る。その者の手のひらにはミカケラがその者の目の前で見えている。そのミカケラは紫水晶のような色に囲まれ、更に白い魂を想わせるような光が纏わり(まと)ついている中心には青白い光の塊(かたまり)が光っている。
「あの女の子か、〝例の神″のミカケラをやどっているっていうのは?」そう問いかける彼にそのミカケラは答えるのであった。
― アクマ(・・・)で、憶測だが、な…。釜寺(かまでら)雪(ゆき)兎(と)、お前はこのミカケラを夢の中で拾った者だ。あの娘(こ)が行ってしまう…。
「ま、待ってくれよ〝タナトス″…急ぐ気持ちはわかる!相手は普通の女の子かもしれないじゃないか。そんなことしたら関係の無い者を殺すことになるかもしれない!」雪兎はタナトスの急ぐ気持ちを止めるのであった。
― 臆病者めが…では、どうしようというのだ? ―少し苛立ち(いらだ)を見せたタナトスは雪兎に問(とい)を投げると雪兎は先程から見ていることから臆病といえるほどヘタレであることが理解できる。そんなヘタレである雪兎は少し考える思い切って口を開くのであった。
「…じゃあ、直接話しかければいいと思う。」と。
「…あの娘はともかく、やどしているものが果たして通用するかわからぬぞ…それに、他であるのなら尚(なお)、戦わざるを得ぬと思う。」そうタナトスは言う。雪兎は御最もなことを言われると少し考え込んでしまうのであった。
「……よく観察してみないことにはかわりはないと…。」そう言うと再び夢狩の跡(あと)をつけるのであった。その頃夢狩は家に着くと玄関の鍵を開けて家の中へと入り帰りに買った夕食を冷蔵庫へ入れるのであった。
「君が今夜食べようとしているものは一体何なのだ?」その後でバニルガは夢狩に問いかけるのであった。が、夢狩は何も喋らずに自室に行くのであった。バニルガは少し笑うとその意識は消えるのであった。夢狩は制服を脱いだ後で私服に着替え寝台に寝そべってしまうとバニルガのミカケラが再び夢狩の目の前に出現するのであった。
「…えーっと、さっきの質問ではあれはラーメンっていう食べ物だよ…ところで、あんたも気づいていた?」そう夢狩の問いにバニルガは中心部の光を潜めどうやら考えている様子なのであった。そして暫くしてバニルガは答えるのであった。
「ああ、気付いていたさ。やはり君は少し面白みがありそうだ…察しがいい。あれは冥界の死神。確か過去で聞いたのが、〝タナトス″だったか…。」そう言い夢狩はそのタナトスという名を聞き少しの間考えている。そしてまたバニルガの方を見て口を開くのだった。
「…ちょっと夕飯食べたら、外行こうか…。」と。
「…わかった。」そう言いミカケラのまがまがしい光を更に激しく光らせるそんなバニルガは何処か楽しそうなのであった。その後夢狩は食事を済ませたのと後に、外へと出てみるのであった。夢狩の視界には誰もいない様子であり、しかし奇妙な気配を感じるのであった。夢狩は更に電柱の方へ眼をやるとそこに人影が見えるのであった。
「…そこにいるのは誰!」そう言い叫ぶとその電柱の陰に隠れていた者は街灯が照らす光の下へと出るのであった。
「いや、俺は怪しい者じゃないんで、け、警察呼ばないで!」そう頼りない声で言う。夢狩は警戒をまだ解かない。
「貴方、誰ですか?」夢狩はなんだか呆れた様に再び尋ねる。
「か、釜寺、雪兎ですっ、あ、警察はやめて!」挙動不審な釜寺雪兎に対して夢狩は持っていた携帯を持ちボタンを押そうとするとそれを見た釜寺雪兎は言い叫ぶのであった。するとそれを呆れながらもタナトスの声がこう言うのであった。
「…何をしておるのだ、釜寺雪兎!」そう言い、声が聞こえてくると雪兎は手のひらを見るのだった。
「タ、〝タナトス″!」
「…やはりか…。君は、釜寺雪兎と言ったか。君にやどっていたのは、やはり死神の方だったか…。」バニルガが声を出してくると思わず夢狩も手のひらを出すのであった。
「何それ、気持ち悪っ!」雪兎は夢狩の持つミカケラを見てそう言い叫ぶのだった。
「やはり…貴様…。」
「これ以上言うな、死神よ。」そうタナトスが何かを言い掛けた時にバニルガは何かを誤魔化すかのように冷酷な口調でタナトスに言うのであった。
「まあいい…、どのみち闘わねばならぬのだ。今はバニルガと言ったか、手合せ願おう!」そう言い、タナトスのミカケラは大きく光り雪兎の肉体へとミカケラは入って行くのであった。それを見て驚く夢狩。すると更にそのミカケラの入った雪兎は攻撃を始めるのであった。そして驚きの余り腰が抜けて唖然(あぜん)。そんな夢狩にバニルガは声を掛けるのであった。
「夢狩、しっかりしろ。少し私を手伝え。」
「え、何?」そう答えるのであった。
「君のその肉体、借りるぞ。」バニルガの声を聞きながらやっとのことで立ち上がる夢狩は何処か冗談じゃないと言わんばかりの表情を見せるのであった。
「え、まさか、あのタナトスと同じことをするの!?」と察しがいいように夢狩は声を上げるのであった。
「とりあえず…移動しよう…。」と言いながらバニルガのミカケラも夢狩の中へと入ってくるのだった。
「!」その瞬間、夢狩の意識はもうろうとするとその先で何が起こったのかもわからない状態となり、意識を失って倒れしまうのであった。その後、バニルガのミカケラが入った夢狩の肉体は起き上がるのであった。
「……待て!」そう言い叫びバニルガが憑依(ひょうい)した夢狩をタナトスが憑依した雪兎が追いかけるのであった。暫くして市街地から離れた廃墟の工場付近へと辿り着くのであった。するとそのタナトスも追いつく。
「〝混沌″よ、戦え!」武器を取るタナトスはそんなバニルガを見てそう言い叫ぶとバニルガも剣を取りタナトスの方を見るのであった。そして夢狩に憑依したバニルガは自分を見るのであった。
「…女は久しぶりだな…最後にやどったのは五百年以上も前だったか…。」自分の身体のように呟くバニルガにタナトスは武器の先を向けてバニルガに言うのであった。
「何をごちゃごちゃ言っている、その娘は〝正式な肉体″ではなかろう?」と。
「さて、始めようか…。」そう言いながらバニルガは相手から攻撃を待つつもりなのか剣を構えるとタナトスから攻撃を開始するのであった。
「な! ― 消えた…だと!? ―」そうタナトスがバニルガ目掛けて武器を振るった瞬間バニルガの姿は消え、タナトスは驚きながらさらに内心そう思うのであった。そして、一瞬周りは静かになるのだった。とその瞬間のことであった。
「どうした、その肉体の持ち主にやどる前はそんなに弱くは無かった筈だと思ったが?」するとバニルガはタナトスの背後を取ると剣を突きつけ挑発まじりに言うのであった。それを聞いたタナトスは慌てて振り向きバニルガ目掛けて武器を振るうのだがバニルガはそれを避けると更に何かを投げつけたようだ。
「くっ、眼に砂!?…相も変わらず卑劣な手を使ってくる…。〝混沌″よ、〝冥王″への侮辱、忘れたわけではあるまいな?」そして先程からバニルガのことを〝混沌″と呼ぶタナトスは何とか目に付着した砂を払うと更に何かの呪文を唱えた。バニルガに向けて無数の岩が落下してくる。それを予知していたのかバニルガは目の前から来る岩を剣で切りつつ避けるのであった。
「…さて、何の事、だったか?」そうバニルガとぼけた態度で答えるのだった。それに怒ったタナトスはバニルガ目掛けて武器を振るうのであった。
「おのれ、シラを切るつもりか!」余程バニルガに対して怒っているのか武器をめちゃくちゃに振るうとバニルガは冷静に自分の剣で受けると押し飛ばすのであった。
「えーと、ああ思い出した。〝冥王″と確か戦ったな…。あの〝冥王″が負けた姿そしてあの表情<かお>はもう最高だったねえ~。」そう自分が昔に満足した頃を思い出すと笑みを浮かべ答えるのであった。更に激怒したタナトスは怒り狂うのであった。
「タナトス、いつもの冷静さはどうした?」するとタナトスの上の方から一人舞い降りてくるのであった。その女の手のひらにはミカケラを浮かべ地に降り立つ。
「〝ヒュプノス″か、何故ここにいる、ここは私に任せておけと言った筈であろう?」そう言い後ろを振り向くのであった。
「…おいおい、雪兎をそう振り回すなよ。」するとミカケラを浮かべていた女が男っぽい口調で言うのであった。
「…知り合い…?」そこで更にバニルガが問う。
「…一応、あかの他人だけれどタナトスとヒュプノスは兄弟だとかなんとか…。」そう女は返答するのであった。
「…はあ~…眠い…。働き者もいいけれどね…ぶっちゃけ、あんたは働き過ぎなのだよ。早く帰って休みなって。」そうヒュプノスはタナトスに眠たげなふうでもあるがどこかはっきりしたところを言う。
「…だってさ。」そうヒュプノスのミカケラを浮かべている女は後からそう言うのであった。
「…私も同感だ。そろそろこの子の家に戻らねば家の人が心配する。」バニルガもタナトスに言うのであった。
「これ、〝冥王″からも依頼されている。後、二分程で帰って来いと…。そうでないと怒られるぞ…はあー…早く帰って寝たい…。」とうとうヒュプノスは黒い光を更に光らせ少しイラついている。
「な!」タナトスの頭の上もとい、雪兎の頭の上には湯気が立っていた様でもあった。そして我に帰ったタナトスは少し考えその後急に武器をしまうと更にタナトスは後ろを向いてしまうとバニルガは一瞬不審に思うと何となく察したのであった。
「…全く、主君を馬鹿にされたとなればずるずると…。」そう言いながらバニルガも剣を収めたあとでタナトスは少しイラついたのか一瞬眉をしかめるがまた冷静になると雪兎の肉体からミカケラの姿が現れるのであった。雪兎は少し前に倒れそうになるが目を開きながら何が起こったのか理解できずに周りを見回す。
「あ、あれジュン?!」そうヒュプノスのミカケラを浮かべながら雪兎を見ている女を知っているのかその者の呼称を言うのであった。
「何をしている、雪兎?タナトスの能力<チカラ>に振り回されていたぞ!」そう呆れ言われ雪兎は怒っているように感じたのか思わずそこにあったドラム缶の後ろへと隠れ頭を抱えて怯えるのであった。
「あ、こら!」ジュンという女は雪兎を引き止めようとするのであった。
「とにかくタナトスお願い!」
「やれやれ…相も変わらず臆病なヤツよ。」そう呆れた口調で呟くと雪兎の手のひらをドラム缶の後ろから上がってくるのであった。
「おいこら、雪兎!」そう女は苛立ちをみせて言い叫ぶのだった。
「…〝混沌″よ、この勝負は後程着ける!」そう言い残し雪兎と共に消え去るのであった。
「あんたの中の女の子にちゃんと説明しときなよ…。」そう言い残しヒュプノスと共にジュンという女も消え去るのであった。
「さて…早く帰らなければ…。」少し焦った様子でバニルガは帰りを急ぐのであった。そして志架が帰る前に帰ったバニルガと夢狩、しかし夢狩は翌朝まで眠ったままであった。



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たくさんの神話の物語の中で#2

たくさんの神話の物語の中で#2

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-15

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