神様の高度

静かに寝静まった家。眠れない自分の足音が響く。乾いたコップに水を入れ喉を潤したら、ごくり。今度はそんな音が響いた。部屋に戻る前にリビングを一瞥するとカーテンレースの隙間から光が一線射し込んでいるのが目に入った。その光に吸い寄せられるように僕の足はまたぺたぺたと音を立てて動く。

カーテンを手で掻き分けると窓の向こうには夜空が広がった。月が明るくて星の数は少ないけど。静かに鍵をゆっくり回し、窓を開けたらそよ風が吹き込んで僕の前髪を揺らした。吸い寄せられるかのようにベランダにある椅子に深く座ってみたけど、深い夜のせいか少し胸のあたりがざわついて。脚を折って抱えてみたら少し落ち着いた。首を反らせて上を見上げる。

遠いな…。

現実味が急にこみ上げたから逃げるように目を瞑ったら耳が冴え始める。先程前髪を揺らした柔らかい風の音を今度は捉えた。呼吸が大きくなる。心臓も脳も全部、動いている。真夜中に似つかわしくない鼓動を抑え、瞼の向こうにいる君を想う。

君といっても「実体」はない。会ったこともなければ、顔も分からない。不確かな君だけど、それでも僕にとっては紛れもなく「君」でしかない。大切にすることを教えてくれる君。想うことを実感させてくれる君。悲しいと後悔させる君。何よりも幸せだとみんなに口を揃えて言わせる君。

いつかはそんな魅力的な君の虜になり、全てを支配されたような錯覚に陥って、僕もきっとそんな君に僕を捧げるのだろう。僕は待ち遠しい。君に早く逢いたい。君はきっとどこかで「眠っている」のだろう。先に起きた僕は、早く君を見つけ出して起こしに行かないと。裸足でついた床は冷たくて僕はやっぱり生きていた。

神様の高度

恋をしたことが無い男の子の小さな夜。

神様の高度

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-15

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