鍵と世界の物語
第一章
誰もいない部屋で、横たわっていた。
窓の外では雨の音。畳の上に仰向けになって、白熱灯の黄ばんだ光を浴びている。いつ頃から、そしてどれくらい、こうしているのかわからない。周りを見渡すと、使い古された小さなちゃぶ台とブラウン管のテレビが目に入った。そして足元には押入れがある。私の右手に粗末な台所と、玄関。左手には申し訳程度のベランダがある。玄関を上がってすぐ右手に台所、正面に居間、といった感じだ。古びたワンルームのアパートだった。
私はゆっくりと上体を起こし、立ち上がった。もう一度、小さな室内を見渡して、畳の上、座布団と一緒に置かれた、テレビのリモコンを見つけた。電源ボタンを押してみる。ブラウン管は、カラフルなストライプ模様を映し出した。チャンネルを変えると砂嵐になった。どうやらテレビをつけても意味はないらしい。もう一度ボタンを押す。ブチン、という音と共に、砂嵐は消えた。壁掛け時計の針は、三時十五分を指したまま動かない。ポケットを探ってみると、確かに入れていたはずの携帯電話がなかった。しばらく床を探して見たが見つからない。私は諦めて、ベランダへ向かった。カーテンは開かれ、銀の枠で囲まれた磨りガラスは、外の闇を写して黒く染まっている。鍵を開けて外に出ようとして、私は言いようのない不気味さを感じた。鍵が、ない。それどころか、普通は二枚で開閉するはずの窓が、一枚しかない。つまり、大きな磨りガラスが、ただ壁に埋め込まれているのだ。心臓のあたりがムカムカするような、立っている足の感覚があやふやになるような、何とも言いようのない感覚が私を襲った。私は、なんだか窓から目を離すのが恐ろしかった。窓から目を離さないまま、じりじりと後退していくと、玄関の段差で躓き、座り込むような形で転んだ。ドアで強かに腰を打った。なんだかほんの少しだけ緊張が和らぎ、立ち上がってドアを見てみた。ドアノブがなかった。しかし、今度は鍵穴がある。内側からドアを開けるのに、鍵を使うというのは奇妙だが、さっき見た開けようのない窓よりは幾分かマシだ。少なくとも、開く手段があるのだから。
鍵と世界の物語