異国
日本の昔話と西洋童話を混ぜてみました。
楽しんで頂ければ幸いです。
とある名も無き小さな村。
その村の一軒の家には二十歳の青年が住んでいた。青年の名は桃太郎。
十年前――十歳の時、人間達から物を奪い困らせていた鬼達を退治しに、犬、猿、雉を家来に鬼ヶ島へ赴き、見事鬼を退治したという英雄である。
その後は犬、猿、雉と別れ生まれ育ったこの村で暮らしていた。桃太郎を育ててくれた優しい老夫婦は十五の時に亡くなった。
いつものように時を過ごしていた彼の許に誰かが訪ねて来た。
桃太郎は戸を開ける。
「……ああ、これはこれは、お久し振りですな」
立っていたのは長い長髪を高く括った老人だった。
老人は穏やかで端整な顔立ちをしている。名は浦島太郎。
「どうぞ、中へお入り下さい」んだ
桃太郎は中へ勧めたが浦島は首を振る。
「いや、話はすぐに終わるので此処で」
「そうですか……。――御用件は何でしょう?」
浦島は一つ咳払いをすると言った。
「桃太郎殿、異国へ行きたくは御座いませんかな?」
「…いこく…ですか…?」
「そう。行くのはヨーロッパです」
「よーろっぱ……」
桃太郎は話の展開について行けない。
「桃太郎殿は好奇心旺盛ですから、乗って下さると思いましてな」
「ちょ……ちょっと待って下さい。…一体何故…?」
「実はですな、私は竜宮城で貰った玉手箱を開け、このような爺に成り果てた後、船乗りになりました。それから様々な国を見て回りました。そして、ヨーロッパのとある国でシンデレラという十七の娘と知り合いましてな。シンデレラは父が亡くなった後、継母とその娘達に扱き使われているというんですよ。シンデレラは早く嫁に行ってこんな家から出たいと言っていましてな。貴方のことを聞かせたら、そりゃあもう気に入ったらしく……」
桃太郎は浦島の話を遮った。
「私に逢いたい…と」
浦島はコックリと頷く。
「どうですかな、桃太郎殿」
先程浦島は桃太郎が好奇心旺盛だと言った。確かにそれは本当だった。
桃太郎が鬼退治を買って出たのは、少なからず『鬼』という存在に興味を惹かれていたからだ。
桃太郎は異国が、ヨーロッパがどんな所か見てみたかった。それにシンデレラという娘にも逢ってみたかった。
「行きます」
少年のように輝く瞳で青年はそう言い放った。
「そうですか。それは良かった」
老人は暖かな笑みを浮かべた。
「爺さん、話が着いたんならとっとと行こうぜ」
突然背後からこえが聞こえた。
浦島の背後から現れたのは少年だった。歳は十五といったところか。
ボサボサの黒い髪に陽に焼け、土に汚れた真っ黒な躰には襤褸の単衣を一枚纏っていた。
「これこれ、そう焦るな烏」
烏と呼ばれた少年はそっぽを向いた。
「浦島殿、その少年は?」
桃太郎の問いに苦笑して答える浦島。
「まあ、弟子といった所ですかな」
「弟子…ですか」
桃太郎は不思議そうに呟いた。
「それは兎も角、済みませんが明日出立ということで宜しいか?」
「は、はい!喜んで」
桃太郎は満面の笑みで答えた。
異国
まあまあ上手く書けました。
続編を書くつもりです。