「近況報告」

 私はペットの世話をしている。そのペットとは今、無垢な顔をして、ソファーの上で寝ているあいつである。今日はそのペットの話をしたいと思う。
……私とあいつとの出会いは一年ほど前になる。


 その頃、私は今とは違う所で生活していた。そこでは朝、昼、晩の三食飯付きで、兄弟や友人とみんなで暮らしていた(まあ、今も三食きちんとでてくるが)。
そこにあいつが現れた。
今までも動物が紛れ込むことは多々あった。しかし、この動物ほどに、私が興味を持ったものは、かつて無かっただろう。
あいつはとてもひどい顔をしていて、今にも泣き出しそうな様子だった。何か辛い目に遭ったのであろう、そう感じた私は、そいつに声をかけてやり、慰めてやった。
我ながら良いことをしてやったと思う。そうするとあいつはたちまち私に懐いてしまった。
私は、今の家の生活環境がとても気に入っていたが、一度あいつに声をかけてやり慰めてやった以上、このままほったらかしにすることは、私には罪に思えた。
そこで仕方なく私は新しい家であいつと暮らすことにした。

 新居での生活はとても大変だった。
毎日のようにあいつは私に甘えてきた。機嫌の悪いときは家の中で吠え、家具に八つ当たりをして、挙句の果てに私に泣きつくのだ。
私が友人の所に遊びに行っていて、家にいなかったとき、私が帰った瞬間飛びついてきて泣きだすのだ。
まるで赤ん坊のようだった。
それらを見てきて、本当にしょうがない動物だと思った。
だがそんな動物でも毎日慰め、励ましながら生活していると、次第に情がわいてくるものだ。
最初は仕方ないと感じていたが、今ではあいつが泣き付いてこないと、寂しくさえ思えてしまう。
いやはや、まるであいつの親になったかのようだ。ペットは家族のようなものだ、と良く前の家に遊びに来ていた友人が言っていたが、それがようやくわかった気がする。
それにしても、この動物は難儀な生き物だ。感情の捌け口が無いと生きていけないらしい。
私のようなものがいない野良達は、そいつら同士で生活しているみたいだが、やはり保護者がいないと感情の捌け口が同族に向いてしまうらしい。まあすべてというわけではないが。


 どうやらペットが起きたらしい。
寝る前は何かあったみたいだが、私は外に出ていたからあまり知らないのだ。
友人が、私のペットが暗い顔をして帰ってきたと言っていたのを聞いたぐらいである。
部屋を見ると暴れた跡がある。いつものように泣きながら暴れたらしい。
どうせまだ泣き足りないだろう、仕方ない、相手をしてやるか。


「おいおい、どうした?
また会社で嫌な事があったのか、この前言っていた上司のことか?
それとも彼氏と喧嘩か?
何にしても、私が話を聞いてやるから、好きなだけ泣け。
本当にお前は仕方ない奴だ。だが私達は家族だからゆるしてやる。
もっとも猫語は通じないから喋っても意味はないか。」

 本当に、人間とは難儀な生き物だ。
我々、猫は感情、知能ともにほどほどのレベルで留めている。
そのため生物の本能のままに生きられるのだ。
人間は知恵を求め、その結果として理性を手に入れた。
そしてその理性によって、本能のまま生きられなくなってしまったのだ。

矛盾に満ち溢れた醜い生き物……、それだけに私には幸せを求める姿、一つ一つが美しくみえる。
私はこれからも、人間社会という混沌に生きる私のペット……、いや「家族」を支え続けていきたいと思う。
それが、保護者の義務だと思うからだ。

「近況報告」

少し修正

「近況報告」

なんとなーく気分で書いてみました。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-29

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