幾何学恋愛浪漫譚
開始のベルが鳴る
「千紗そっち行ったよ」
トンファーを持った麗奈が予定通りに千紗の方へレプリカントを追い込みながら言った
「これでスコア更新」
千紗は両手を揃えレプリカントの腹へ掌打を叩き込んだ・・・
『非人間』(レプリカント)と『駆逐者』(ジュエリスト)達の争いは一進一退の攻防を続けながら
2年目を迎えていた・・・『駆逐者』達は『快楽人形』(マリードール)と呼ばれる少女達を使役し
『非人間』を駆逐している・・・
『快楽人形』は『ヒト』ではない・・・駆逐者に作られた生命体でありその生命の源は製作者の精液である
主人を守り戦い従う存在・・・それが12人の『駆逐者』と11体の『快楽人形』だった
快楽人形
銀二が京子の頬を叩く音がミーティングルームにこだました
「折角追い詰めておきながら非人間を取り逃がすとはどういう事だ」
「すいませんご主人様」
頭を下げる京子をもう一度銀二は殴った
「もう止めて下さい銀二さん」
傍らで見ていたタモツが二人の間に割って入った
「快楽人形もつくれない駆逐者に言われたくないな」
銀二はタモツを押しのけた
「その辺にしとけよ銀二」
ミーティングルームに入って来た雄一が京子を再び殴ろうとした銀二の
腕を抑えた
「おや今月第3位の雄一さんじゃないですか?いやぁランキング
上位の方は違いますな」
銀二は皮肉を言って出て行った
「大丈夫?京子」
心配そうに伸ばされたタモツの手を京子は跳ね除けた
「触らないで、本当に余計な事ばっかり」
そう吐き捨てると銀二の後を追った
「気にしないで私達快楽人形はマスターが全てだから・・・」
雄一のパートナーの美和が優しくそう言った・・・
「さっきはたすかったよ重蔵」
雄一は少し無骨な感じの男の横に座って言った
「あんまり褒めないで下さい、あんなの『たまたま』ですから」
重蔵の横に座っているパートナーの楓が冷たい目で重蔵を見ながら言った、
なまじ美人系の整った顔をしているので余計にキツク聴こえた
「そう言うなよ楓、俺は感謝してるんだからさ」
「雄一さんがそう仰るなら良いですけど・・・」
楓はムクレタまま正面を向いた
それぞれの関係・・・
駆逐者の住居兼基地『アーガマ』それは「ここ」と「あそこ」の狭間に存在していた
駆逐者と快楽人形はその必要性から共にここで暮らし、酒場やゲームセンター等の
娯楽施設も揃っている、快楽人形の奇抜な服も専門のテーラーが存在する
アーガマは子宮であり街であり墓場であった・・・
酒場「青髭兄弟の店」ここは「苦い夜のボルシチ」「負け犬のサラダ」
「卑屈なターキー」等本来味覚と食欲を持たない快楽人形でも
食べられる料理が多く雄一や重蔵といった常連も少なくない
着ている着物の袖が気になるのかボルシチをメインに食べる楓と対照的に
美和はターキーの足にかじりついていた
「やっぱここだ・・・」
四人の席にタモツがやって来ると空いてる席に座った
「やっぱ良いですよねこの4人の関係・・・駆逐者も快楽人形もなくて・・・」
「タモツは俺達を美化しすぎだよ、俺達だって駆逐者・・・そう銀二と
やってる事は変わらんよ」
雄一は枝豆のガラをテーブル中央のツボに投げ入れた
「雄一さんはまだしもウチの重蔵は・・・」
楓は隣の重蔵を見た
「俺・・・やっぱ上と掛け合ってきます、このままじゃ京子が・・・」
「やめろタモツ・・・お前が処罰されるぞ」
「良いんです・・・もしここに居られなくなったって・・・京子は・・・」
タモツははっきり言った
「私達快楽人形は気持ちが変わる事はないのよ・・・いくらタモツさんが
京子の事好きでも、銀二さんに作られた京子がタモツさんを愛する事はないのよ」
美和が背負っていたクマのぬいぐるみ型バックからティッシュを取り出すと
口のまわりを拭きながら言った
「でも・・・お二人は快楽人形と・・・」
「だから割り切ってる千紗・麗奈組に勝てないんだよ・・・」
雄一が苦笑いをした
「いいかタモツ、俺達みたいにはなるなよ・・・快楽人形に恋をした
駆逐者に価値はない」
重蔵がタモツに言った
君を探して・・・
夜の市街を雄一達は疾走していた
「重蔵、恭介、そっちはどうだ?」
雄一は物陰に隠れるとインカムで通信を行った
「Aブロッククリア」
「Cブロッククリア」
二人の声が聞こえた
「あとはDブロックだね」
隣の美和が頷きながら言った
「嫌な予感がする・・・」
雄一が手を出すと美和は背中のクマちゃんバッグから
無反動バズーカを取り出し渡した
快楽人形唯一戦闘能力のない存在・・・それが美和だった、
美和はサポート用の存在で戦闘自体は駆逐者の雄一が行う
「Dブロック、敵発見・・・」
恭介の声を合図に二人は一気に駆け出した
「『切り裂き』(リッパー)型か・・・」
今回の非人間は右手に長い爪を持ち壁に『立って』いた
「恭介、明菜を最大戦速で突っ込ませろ、重蔵は楓に弦結界を張らせて
俺と明菜以外を守ってくれ」
「私にも・・・」
「アイツの速さから守れるのは楓の結界しかないんだ・・・悪いな」
雄一は明菜とアイコンタクトをとると左右に弾けた
「明菜の匕首をかわすか・・・相当だな」
雄一は敵の逃げる方向へ撃ち込んで行った
「美和、予備マガジン」
弾を撃ちつくした雄一に隙が出来た
「アマイナ・・・ニンゲン」
非人間は明菜の攻撃を避けると明菜の左腕に爪を立てた、赤い潤滑液が
虚空へ飛び散った
「ウザッタイコネコモ、ツカマエレバ」
そのまま非人間は明菜の右肩を爪で貫いた
「しまった・・・」
「任せて」
マガジン交換に手間取る雄一の横を楓が通り過ぎた
幾何学恋愛浪漫譚