安定志向(6)

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第五章「諦めと、それから」

 どうにかなる可能性なんて、もう何処にも――ありは、しないんだ……。
 そう。可能性なんて何処にもない。だから俺は、とことん今のままの人生を歩んで、楽しんでいくしか無いんだ。
 そして、今俺が一番楽しめるもの。それは――闘争だ。自らの肉体を極限の状態まで追い込み、その状態へと追い込んだ奴を潰す。それこそが唯一の楽しみ。何年も前からずっと続けていて、けれど美雪が嫌がるからしばらく遠ざかっていた趣味。だが、もう俺の側に美雪はいない。なら、いいじゃないか。もうどうなったって、知ったことか。

 夜が完全に更けるのを待ち、母さんにばれないようにそっと家を出る。せっかく親子関係を修復できたんだ。なのに、また同じことを繰り返していることを知られたら、きっと再び関係は瓦解する。それは避けたかった。しかし、俺がこの趣味を続ける限り、身体には際限なく傷が刻み込まれていく。だから時間の問題ではある。だが、いずれ限界が来るとわかってはいても、自ら終わらせることはあるまい。
 そうやって自分を納得させながら歩き続け、最寄りのコンビニまでやってきた。
 そしてそこには――
「おい、社会の屑共」
 明るい場所に誘われてやってきた屑五人が群れている。
「なんだぁ、てめえ?俺達に喧嘩売ってんのか?ああ?」
案の定、連中は額に血管を浮き上がらせて立ち上がる。
「いや、それは少し違う。暇潰しに成敗してやろうかと思っただけさ」そう言ってニヒルに嗤う。
「てめぇッ!!」
 すると一番手前にいた、いかにも下っ端といった感じのリーゼント男が殴りかかってくる。
「おいおい、今どきリーゼントかよ。不良ってのは、頭ん中昭和のまま固定されてんのか?」
リーゼントの拳をわざとギリギリで避けながら挑発する。
「こっちは一人じゃねえぜ!」
茶髪ピアスの男がバットを構えて迫ってくる。
「もちろん忘れてはいないさ!」
 振り下ろされるバットを左足の踵で振り払い、その勢いで前へ進み右拳を茶髪ピアスの顔面めがけて放つ――
「ガハッ……!?」
 茶髪ピアスは汚い唾とともに歯を一本吐き出して吹っ飛び、ゴミ箱にぶつかって中身をぶちまけながら気を失って倒れる。
「やりやがったな!このおおおおお!!」
 仲間が無惨に倒されるのを見て、残りの連中も走り寄ってくる。
「来るなら最初から来いよっ」
 茶髪ピアスの落としたバットを拾い、それを真ん中のリーダー格の男に向けて投擲する。
「ちょ待――がふっ…」
 バットは過たずに命中し、それに気を取られた取り巻き二名にそれぞれ拳をお見舞いする。
「ふぅ、これで残るはお前一人だ」
 そう言ってリーゼントの方を指さす。
「ひっ……」
 だが、もはやリーゼントに戦意は残されてはいないようだった。
 リーゼントは「これで勘弁して下さい!」と大声で言いながら財布を地面に置くと走り去っていってしまった。
「あーあ、別に金目当てじゃなかったんだけどなあ。まあ、貰えるもんは貰っとくけどさ」
 頭を掻きながら財布を拾うと、どこからかパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「げっ、マズ。よく考えたらここコンビニの前じゃん。三十六計逃げるに如かず!」
 警察がやって来る前にさっさと逃げることにした。あんまり楽しめなかったけど、小遣い入ったし、別にいいか。

 来る日も来る日も、俺は同じようなことをやり続けた。あまりにも荒らしすぎて、最近ではこの辺りから不良がいなくなってしまったくらいだ。だが、それでも俺の乾きは一向に収まることはなく、今ではわざわざ隣町まで出向いて屑を成敗している。正直、その交通費は痛い。けれど、俺には連中が『自主的に』渡してくれる金がある。なので、一向に問題はない。
「さて、今日も行くか」
 そう――問題は、どこにもない。

 だが、そんな俺でも学校に行かない訳にはいかない。
「ふあ~あ……。眠い……」
 なのだが、毎晩遅くに隣町まで出かけて屑退治しているので、当然睡眠時間は短くせざるをえないわけで。今まではどちらかと言うと授業は真面目に受けていたのだが、近頃では授業中は睡眠時間になってしまっている。
「佐倉くん」
 今にも机に突っ伏しようとしていると、担任に名前を呼ばれた。
「はい、何ですか?」
 あくびを噛み殺しながら訊くと、
「放課後に進路相談室まで来てください」
「進路相談?えーっと、はい、わかりました」
 はて、進路相談室?一体何の話だろうか。まだ二年の夏だし、進路相談には早いと思うのだが……。

 そして放課後。HRが終わってすぐに進路相談室に入ると、
「佐倉くん。本当のことを言って欲しいんですが」
 そこには担任だけでなく、黒スーツの男二人と校長が座っていた。
「はい。何でしょう」
 なんだろう。何か、嫌な予感がする……。
「あなた、最近夜はどのように過ごしていますか?」
 この瞬間、俺は全てを察した。遂に、年貢の納め時がやってきたのだと――
「……出かけています」
 だから、もう全てを諦めて、本当のことを話した。

 それからのことは、もう語るまでもあるまい。
 俺はいったい何処で間違えてしまったのだろうか……。
 いや――そんなことは、考えるまでもない。
 全てはあの時の選択だ。
 あの時、もし今とは違う選択をしていたら。
 きっと、こうはならなかったのではないだろうか。
 もし、やり直せるのなら。
 もし、今とは違う道を歩めるのなら。
 ……だけど、『もし』なんてことを考えても仕方がない。
 俺は、間違えてしまったのだから……

--BAD END--

安定志向(6)

まだ終わりじゃないですよ?


という予定でしたが、いろいろと問題が発生してしまいまして。(処理不可能な矛盾点がたーんまりあるとか)
この作品はここで打ち切って次作に取り組みたいと思います。
次作は今作や今までの作品とはうって違ってコメディチックな作品になる予定です。
今度はしっかりプロットも用意してますから何とかなる……はず!

安定志向(6)

自分の初恋はまだ終わっていなかったのだと気付いた雄介だったが、彼はその恋を成就することは不可能だと思い、諦めてしまった。そして、そんな彼のその後は――

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-08

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