True Sky Memories page3
家に着いた陽次は昼間、仮想世界で見かけた女の子のことを思い返す。彼女は一体誰なのか。そして動きを見せるサイバーテロ。今後の彼の運命は? True Sky Memoriesの3話目です。
陽次は家に着くと、靴を脱ぎ、二階へと上がる。挨拶はしない。なぜなら、挨拶をしても返事が返って来ないからだ。彼には父親がおらず、母親は夜遅くまで働いていた。台所へ行くと、「遅くなる」というメッセージカードとともに、ラップのかかった料理がおかれていた。陽次はそれを冷たい目で見下ろした。
食事を取り、風呂に入った後、陽次は部屋に戻るとターミナルからテレビのアプリケーションを起動させた。適当にチャンネルを回し、面白そうな番組を探すが、特になかったのでニュース番組を見ることにした。ウィンドウの向こう側ではアナウンサーが国会の様子、海外で活躍するスポーツ選手の映像、今流行りのデザートなど、今日起きた出来事を報道していた。世界では今この瞬間にも様々な事が起きている。しかし、個人が知ることのできる情報などたかが知れている。リアクターシステムによって情報は得やすくなったが、今でもそれは変わらない。この世のあらゆる情報を知る存在がいるとしたら、それはさぞ偉大なのだろう。
「次のニュースです。最近になって活動を活発にさせているサイバーテロ組織【ベートノワール】が本日、様々な公的機関・企業に対してテロ予告を行っていることが明らかになりました。このテロ予告について、警察庁のサイバー対策課はネットワークの監視を強化、およびアクセス数の多いサーバの警備を強化する方針です。また、特殊部隊による、対テロ組織チームを結成し、テロ組織の武力行使に備えるという案も検討中とのことです。続きまして、詳しい解説を……」
陽次はそこでウィンドウを閉じた。テロ組織【ベートノワール】。以前から名前程度は知っていた。当時はネットワークウィルス、スパイウェアの撲滅を行っていた組織だった。それがいつの間にか、少しずつ犯罪行為を行うようになり、ついにテロの予告をした。正義を掲げていた人物らが、その理想のため、やがて破壊活動を行うという話はよくある。彼らもまたそれと同じなのだろうか。一体何を思ってテロをしようと思ったのか。
「やめたやめ。そんなことを考えてもしかたない」
ベッドに横たわり、思考を止める。テロ組織のことなど考えも意味がない。どうせ口だけの脅迫、あるいはサーバへのクラッキング程度のイタズラが起きるだけだ。テロと言っても愉快犯となんら変わらない。気にするだけ無駄だろう。
目をつむり、昼間グランデからログアウトした時のことを思い出す。自分のことを見つめていた少女。彼女は一体誰だったのだろうか。ズキリ、と胸の奥に痛みが走る。――心当たりがあるんだろう。もう一人の陽次が言う。うるさい、だまれ。強引に思考をねじ伏せる。――本当はわかっているんだろう。うるさい、うるさい。もう一人の自分の意見はおそらく正しい。証拠はないが、たしかな確信があった。しかし、認めたくない。それを認めてしまったら自分が自分でなくなってしまう。なんのためにここに来たのか。なんのために、今を生きているのか。自分の全てが否定されてしまう。
「……もう、寝よう」
強制的に思考を停止するため、睡眠誘発プログラムを起動する。徐々に意識が薄れていく。何も考えたくない。それが彼の願いだった。
True Sky Memories page3