【掌編幻想譚】Perspective

 コンビニの蛍光灯がやけに暗いような気がしていたが、ああ、あれは夕日に目が当てられてそう感じていたのだなと、外へ出て気が付いた。
 思えば、店員の声も明るかった。
 袋の中には、目新しいチューハイが一つ。
 商店街はいつもより人通りが少なく、伸びる影がよく見える。
 ひときわ長いこの影は、そう、銭湯の煙突だ。
 こんな所にも銭湯があったのか。
 そんなことを考るが、しかし、
 近所に住む自分は、当然そのことを知っていたのだ。
 だとすれば、
 なぜ自分は、今になってそんなことを思ったのか。
 と。
 行く先の空に、チラと煙が上がっているのが見えた。
 やけに黒々とした煙だった。
 煙は風になびくでもなく、ゆっくりと上がっていく。
 ヘビ花火によく似ていた。
 路地へ曲がる手前で見た時には、ひらがなの「う」の下部を左右反転させたような形になっていた。

 不思議に思いながら、
 そんな光景も、チューハイを二人で分ける頃には、すっかり忘れてしまっていた。

 あれを見たのは、一体いつのことだったろう。

 今になってそれを思い出すのは、この帰り路の夕日が、あの時の夕日と似ているからか、あるいは―――
 と。
 私は、
 音無き音を聞いた。
 それは、赤い空から、うなるように降り響いていた。
 何を、
 呼んでいるのだろう?
 なぜ、
 呼んでいると分かった?
 故郷を―――

【掌編幻想譚】Perspective

【掌編幻想譚】Perspective

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-03

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