【掌編幻想譚】Perspective
一
コンビニの蛍光灯がやけに暗いような気がしていたが、ああ、あれは夕日に目が当てられてそう感じていたのだなと、外へ出て気が付いた。
思えば、店員の声も明るかった。
袋の中には、目新しいチューハイが一つ。
商店街はいつもより人通りが少なく、伸びる影がよく見える。
ひときわ長いこの影は、そう、銭湯の煙突だ。
こんな所にも銭湯があったのか。
そんなことを考るが、しかし、
近所に住む自分は、当然そのことを知っていたのだ。
だとすれば、
なぜ自分は、今になってそんなことを思ったのか。
と。
行く先の空に、チラと煙が上がっているのが見えた。
やけに黒々とした煙だった。
煙は風になびくでもなく、ゆっくりと上がっていく。
ヘビ花火によく似ていた。
路地へ曲がる手前で見た時には、ひらがなの「う」の下部を左右反転させたような形になっていた。
不思議に思いながら、
そんな光景も、チューハイを二人で分ける頃には、すっかり忘れてしまっていた。
あれを見たのは、一体いつのことだったろう。
今になってそれを思い出すのは、この帰り路の夕日が、あの時の夕日と似ているからか、あるいは―――
と。
私は、
音無き音を聞いた。
それは、赤い空から、うなるように降り響いていた。
何を、
呼んでいるのだろう?
なぜ、
呼んでいると分かった?
故郷を―――
【掌編幻想譚】Perspective