無情

凄い勢いで駆けて行く犬が居ましたから何事かと思いましてね、何があるのか見てみたんです。
でも私が見たのは曲がり角を曲がって行く犬の後ろ姿だけでした。

私の人生は酷く無駄な人生だなぁとその時思ったんです。

誰かに誇れるわけでもない、むしろ引け目すら感じるのです。

とても惨めです。


私は走り出しました。目的はありません。ただ駆け出したのです。

むやみやたらと走ったものですから、もうへろへろです。おまけに自分がどこにいるのかも分からない。

膝に手をついて肩で息をしながらゼェゼェ言っていると脚に激痛が走りました。

倒れこんでのたうち回りましたが激痛は止みません。

ちょうどふくらはぎの辺りに犬が食らいついているではありませんか。

野犬だ。

そう思った瞬間恐怖が私を支配しました。

やばいやばいやばいやばいやばいやばい

私の手が何かを掴みました。それを無我夢中で犬に振り下ろしていました。

犬も噛みつきゃ殴られるとはよく言ったものです。

ぐったりとして半ば原型を留めていない犬を見て漸く落ち着いた私は一息ついてから歩き出しました。脚には噛まれた以上の痛みがありました。おそらく犬を殴っている時に自分の脚も殴っていたのでしょう。


ふざけんじゃねぇよ!


私は踵を返すと脚を引きずりながらも急いで犬の所へ戻りました。

何ということでしょう、私は怒りに任せて犬の亡骸を更に痛めつけようと考えていたのです。しかし、戻ってきた私の目に飛び込んできたのは無数のカラスにつつかれている元犬の姿でした。

私は吐きました。泣きました。ちびりました。

気付くとカラスの群れに飛び込み暴れていました。何羽の頭を潰したかわかりませんが多勢に無勢、私は眼球をくり抜かれると抵抗できなくなり後は分かりません。犬と共に捕食されてしまいました。

私は泣いていたでしょうか?分かりません。


私の愛すべき人生はこうして幕を下ろしたのです。

無情

無情

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-02

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