俺の気持ちがわからない男(仮)

MJLK=MaJiLoveKareshi

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「どおもー、MJLKの頼利です。毎度、御指名ありがとうございマ

ース」
「や、いつも悪いね。今日もよろしく」
 一昨年くらいに駅前に出来た、ビジネスホテルに毛が生えたよ

うな『お泊り八千円』の宿泊施設。その指定された部屋の前での

、成人男性二人の会話である。
 安っぽい木製のドアから顔を覗かせたのは、ネイビーのスーツ

に身を包んだアラフォーのおっさん。たしか製薬会社の営業みた

いな仕事をしていたはずだ。いつだったか、名刺をチョロまかし

…もとい、名刺入れから無断で一枚失敬したときに、チラッと見

た覚えがある。ずらっと役職や部署も印字してあったような気も

するが、如何せん覚える気のないことに関しては一切の記憶領域

を割かない俺のノウミソにはてんで情報が書き込まれていない。

名刺自体もおそらく俺の部屋の何処かにはあるだろうが、まあ、

埋まっているものを態々掘り出すほどの手間をかけることでもな

いな。
 見た目は、上の下ってとこ。いわゆるイケメン。いや、年齢を

加味すればハンサムとでも表現するべきなのか?一昔前にアイド

ルやってましたーと言われても納得できるようなレヴェル。大人

の色気ってのには程遠いが、そこそこ女が寄ってくるような顔だ

。実際、今も付き合って四年の彼女がいるし。先日、「近いうち

にプロポーズしようかと思うんだ」と真剣な顔で告白されたとき

は、本当に殴ってやろうかと思った。「指輪って本当に給料の三

カ月分がいいのかな?」じゃねーよ。
 それを愛人に言っちゃうような神経をしている、残念な男。
 愛人って表現は正しくないか。この人はちょっとした事情があ

って、仕方なく男と寝ているだけ。俺なんてのは、セフレでもな

く…性欲処理の道具?便器?
(そのまんま、デリヘルボーイと客ってだけ。ビジネスライクな

お付き合い以外ないじゃない)
 自分で突っ込んでしまうほど彼との縁は薄い。体の繋がりばか

り深くなって、早三年。最近の俺は少しおかしい。

「明日のデートは何時からっすか?」
「うん、10時に家まで迎えに行って隣の県の温泉にいく予定」
「へー。じゃあ、お泊りコースだね」
(…今日も明日も)
「ふふ、そーだね」
 嬉しそうに言うんじゃないよ。三十男が温泉デート?ふーん。

しっぽり浴衣でって、やる気満々じゃん。
 つーか、その温泉ってこの間俺が言ったとこじゃないだろーな

。まさにこのホテルで、明け方見るともなしにつけてたテレビが

、近郊の旅行番組で「たまには温泉でもつかりたいなー」とか俺

がアンタの隣で言ったヤツ。アンタも「最近疲れがとれないから

僕もゆっくり旅行とかしたいなー」とか俺の隣で素っ裸で寝っこ

ろがりながら言ってたトコロ!
「そうそう!人気で予約取れないって出てたけど、ちょうどキャ

ンセルで空きがあってね。運が良かったよ」
 …それは、ニッコリ笑って言うセリフだろうか?しかも俺に向

かって。いい度胸だ。何も考えてないんだろうけどさ。

俺の気持ちがわからない男(仮)

俺の気持ちがわからない男(仮)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-02

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