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 一昔前のアイロンは皺の一つも見過ごせない。だから「『朝が遅い』のは何故なんだ?」と皺を正すように聞いてくる。それに答えない私に,容れてきたばかりの水を蒸気にして怒っているのだけれど,だから細かいことを気にしないクローゼットからとても呆れられて一枚ずつ,シャツを任されることが減りつつある(と指摘した所で,高温ぶりに変わりは見られないけれど)。
 代わりに,近くのクリーニング屋さんの仕事が増える相関関係の上にとまって休んでた,笑顔を絶やさない横顔を備えたフラミンゴ似のペリカンが,ピンクの身の上でさっそうと飛び立って行ったという一通の報せが届いた。天気予報の代わりに「なら今日は雨だ。」と漏らした,彼は(そう,彼は)片時も雨を休まないと知っていた私はもう兎の靴下を脱いでいる。
 それで枕元に,隠していた訳でもない懐中電灯で壁紙を照らせば切り取られる影の,群がりを払う単三直列のライトで遊びたがるクマの縫いぐるみがはしゃぐ。九月が好きで,七月あたりから機嫌が良い。それが気に食わないデフォルメされたライオンの絵柄はつぶらな瞳をその可愛い顔とこちらに向けて,野性味を感じさせない声をかけた。けれど考えることに私は大体がオハヨウか,あるいはコンニチワを意味する笑顔しか返さないし寄越さなかったものだから彼と私の意思疎通について,陶器製のプレイリードッグスは三匹の声を揃えて教えてくれてる。
 「上手いことには,なってないよ。」と。
 「そう,上手いことにはなってないよね。」と,片面を強く焼いてしまうトースターをインテリアにしてみた試みは『オットー夫人』と名付けたポストカードにとにかく不評で,眠る前にしか付けない眼鏡と組み合わせた寝間着姿で正面から私は言い合いをする。そうしてすぐ近くの,バネじかけのおもちゃが困って跳ねてるのが分かる姿見の鏡の中で,時たまにその姿が見えなくなることがよく見える位置に座って互いに背中を向ける。そして『オットー夫人』は述べるように謝る。
 「やり過ぎた私(わたくし)が,いけないね。」と(「色のセンスを言う前に」,という前置きを余計に置きながら)。
 机の下に住むように,つまりはもうカーペットの上で暮らすようにして先の兎の靴下は何も知らない。脱いだままの形で片一方がもう片一方をただひたすらに思うその一足は,一足先をさきに自由に転がして定位置を動かないでいる。小さい音でこそこそと,何かを話している気配を出して最後に大きく笑ってるけど,机に頭をぶつけて痛がってるような沈黙を必ず最後に引きずる。足を伸ばす私がたまに蹴飛ばし,「あ,」と思って「ごめん。」と続くはずの言葉を一言だって口にしないことを兎なりに根に持っている,というのが近くで見てる地球儀の話だ。
 そんな同じカーペットの地平の上で,その行方を見守られているトイカメラはシャッターを静かに切る。向いている方向はまちまちで,シャッターが切られるのもその時々によって異なるけれど,切らない時はないトイカメラと景色の関係は一定の距離を保ち,時間も変化も何もかも受け入れて始めて可能になってる。大人というにはまだ早い,とトイカメラの使用年数をからかう一昨年の携帯電話は切ってから,手伝う私が開けるカーテンは出窓を剥き出しにして終わる。再び閉じることは早々にしない。
 「トイカメラは,ゆっくりと時間をかけるタイプなんだ。」って,白いシャツ着た様々の,『大小を有するあの人』が聞き取れる小さい声で言っていた。




  『朝が遅い』のが続けば,それは良くないことである。『ぎしぎし』とベッドが軋んだ時のように,何処かと何かの心配を同時にしなきゃいけなくなる。『早い朝』が,最初に部屋の中から出て行った原因は私にないことが『真夜中』は悲しいと良く言う。それで『真夜中』は「ただいま」を言うか言うまいか,すぐ側で,うんうん言うように迷ってる。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-02

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