狂った私をお食べなさい

狂った私をお食べなさい

こっちへおいで。

犯してあげる。
潰してあげる。

愛してあげる。

憎いのに可愛らしい
わたしのなかの
狂気ちゃん。

普段は可愛くリボンをつけて
おめかしして
自分の中でお利口さんにして眠っている

そんなもうひとりの自分。

ほら、
あなたの中にもいるでしょう?

花子とオヤジとレーズン

花子とオヤジとレーズン

ラムレーズンが嫌いな女がいた。

なぜか
寝る前にラムレーズンのクッキー食べてしまった女は

もぉおぉ~

くっそまずくて、

お水で
砕けてグチャグチャになった
ラムレーズンのクッキーを
喉奥に流し込んだ。

まるで
自分が
水洗トイレになってしまったような気分になった。

水洗トイレの気持ちがわかった気がした。

これからは
大切に使ってあげよう。
ピカピカにお掃除してさー。

や~
カーテン開けたくない。
引きこもりたい。

だけど
暗いのは嫌だから

カーテンを開けようとしたけど

いや

もし
ここでカーテンを
開けてしまったら
私は狼に変身するかもしれない。

と、
その女は
カーテンを開けるのを躊躇してしまった。

寝てる間に
世の中で何が起こってるかだなんて
わからないでしょう?

寝て
起きて

いつも通りに
ドアを開けてみて

果たして
いつも通りの世界が待ってるか

どうかだなんて

そんなの
わからないでしょう。

だから
いつもドキドキしながら
窓とかドアを開けるの

そして鏡を見る。

あぁ、良かった

しわしわのおばあちゃんになっていなくて良かった

って、

いつもいつもホッとするの。

女は
小さなころを
ふと思い出した。

窓あけて寝てたらさ、

姉に

「そんな窓ばっかり開けてたら

花子さんが飛んでくるよ」

って
謎に脅された記憶があるのだ。

そのときは
女も
まだ小さく純情だったので

「いやー
花子さんいやーいやー」

って言いながら
焦って窓をしめて
号泣したもんだ。

この歳になったら

んなわけない

と思うでしょう?

だけどね、

さっき

ラムレーズンが
くっそまずくて
水を流し込んで

水洗トイレの気持ちがわかってしまったのは、

決して
偶然なんかじゃなく
必然だと思った。

なんで
23年生きてきた女が

いまさら
水洗トイレの気持ちなんかわかってしまったのか…

なぜ…

なぜ…

トイレ=花子さん

ほら、

辻褄があうでしょ?!

きっと
花子さんの呪いだと思うのよ。

女は
ひとりで納得して

ひとりで
頷いた。

ねぇ
きっとそうよね。

だから
今日は怖くてカーテン開けれない。

姉いわく

花子さんは
真っ白な顔で
チューリップのあっぷりけ持って
飛んでくるらしいよ。

まぢ怖いー。

ガクガクブルブル震えながら

女は結局
カーテンを開けれずにいた。

そして、

布団を深くかぶり
枕に顔を埋めた。

そして
何も考えないようにした。

考えないようにした。

なのに

なのに

女は

また
酷く怯えた

なんと

なんと

枕から
おじさんの臭いがするのだ。

最近
朝起きたら

枕から
おじさんの臭いがするのだ。

うわー

とうちゃんの
臭いとそっくり


なぜ

なぜ

なぜこんな臭いが。

なぜ

オヤジの臭いがするの。

女は
推理を始めた。

まっ、まっ、まさか

すっ、すっ、すっ、

ストーカー?!

ストーカーが
私の布団で勝手に寝た?

いや

まっ

まさか


布団の中に
おじさんが住んでいる?


やっ

やだわ…

どうやって追い出しましょう…。

女は
そんなことを考えながら
ふと、ひらめいた。

「あぁ、そうか
殺してしまえばいい」

と、思って
枕を窓から放り投げてみた。

くっせーんだよ、おやじ!

ざまー!!

……

あっ、

窓あけたら
花子さんが飛んでくるかもしれないんだった。

と、
思い出した女は
急いで窓をしめて

また再び布団に戻る。

すると

なっ

なっ

なんと!

まだ
おやじの臭いがするのだ。

いったい
どうゆうことだ。

自分の体から
おやじの臭いが…

あっ

やっ

まさか…

私が寝てる間に
どっかのオヤジが

私をレイプしたとか?

そっ、それか

私の体の中にオヤジが住んでい…る?

どうしよう。

あっ

そうだ

「殺してしまえばいいんだ。それだけだ。」

そして
女は窓から身を投げ出して死んだ。

走馬灯が見えた。

たどり着いた先は
カラフルな森で
戸惑っていると

花子さんが迎えにきてくれた。

いちごの愛

いちごの愛

「ダーリン、私を召し上がれ」

いちごが僕の股間に手を添えて
誘惑してきたんだ。

僕は
今にも襲いたい気持ちを抑えながら答えた。

「ハニー、食べたいんだけど
ぼくは君のことが少し怖いんだよ」

「あら。
どうして?どこが?」

いちごがキョトンとした目で答えた。

…ぼくは
いちごの頭から目を離せなかった…

だって…

「だって…どう考えても君は刃先が剥き出しじゃないか」

そう、
いちごの頭からは
なんとカッターが突き出ているのだ。

僕は
本当にいちごの事を愛しているけれど

それだけが
気になって仕方なかった。

いちごはムッとしながら答えた。

「そんなことないわよ。気のせいよ。
私のどこに刃先があるっていうのよ」

でぇえ~~~。

ぼくが

「えっ?
どう考えても…君の体を刃先が貫通しているじゃないか」


正論を言うと

いちごは
真っ赤なほっぺを
ぷく~っと膨らましながら
こう言ったんだ

「それはね、
いつもいつも!!

貴方が私をイヤラシイ目で見るからよ」

ギク~~~。

そりゃ男ですから…。

それと刃先がどう関係あるのか…

僕が
オロオロしていると

いちごは
俯きながら言った。

「私には
貴方にこそ刃先があるように見えるわ。
つまりね、脳内変換なの。
私には貴方のちんぽが刃物に見えるのよ。」

「ひどいな
そんなに、ぼくに抱かれるのが嫌なのかい」

ぼくが
しょんぼりすると

いちごは
ぼくの目を見ずに

呆れたように溜め息をついた

「ほらね、貴方はいつもそうやってネガティブよ。
だから私から刃先が出てるように見えるだけよ。

私もねネガティブだから
貴方が私の体ばっかり狙ってる気がして…
被害妄想していたら
貴方のイヤラシイ目つきが刃物に見えてきたのよ。
あと、ズボン越しにテント張ってんの気付いてんだからね。
ふんっ。」

ギクっ!!

ぼくは
すっとぼけた顔をしながら答えた。

「なるほどね。
警戒してるから、お互い刃先が出てるように
見えるだけなんだね」

「そうよ。
だから安心して。
ほら、私を一口食べてみてよ!」

はやくぅ~!!
と、キスをせがむいちご。

「そんなに急かすなよ~。ハァハァ。
疑ってごめんね。
愛してるよ」

そう言って、
僕はいちごにキスをしようと
顔を近付けてみたけど…う~ん…

いちごは笑顔…でも…

やっぱり、
どう見ても刃先が出てるように見える。

…いや、
これは僕のネガティブ思考のせいだ。

いちごが、
僕を傷つけるわけがない。

いちごが、
僕を裏切るわけがない。

いちごを信じよう。

可愛い可愛いいちごを。

そして、
僕はいちごを、
おもいっきりかじったんだ。

そしたら
僕の唇が裂けた。

こりゃ、びっくり。

いちごは
ただでさえ赤い身体を…

僕の唇から滴り落ちる血で
さらに身体を赤く染めながら

「くくく…」
と、笑った。

その笑顔は
毒々しいくらい美しかった。

いちごは嘘つきだ。

結局ぼくの勘違いじゃなくて、

君の身体からは
刃先が出ていたんじゃないかよ。

僕は
裏切られたような気持ちになった。

…だけど
きっと愛するということは
心を開くということは
信じるということは
多少の怪我を覚悟しなくちゃいけないのかもしれない。

それに怯えてしまってるうちは、

本気でなんて
愛し合えないんだと気付いた。

いちごは
成熟した瑞々しい赤い裸体と
真っ赤な唇に
ポツポツした毛穴。
そして緑の髪の毛…

シンプルだけど
奇抜な彼女は

挑発的なポーズをしながら

「私に気安く触るから怪我すんのよ!ふんっ。」

と、言いながら
どや顔をした。

そして、

「わたし、征服されたいの」

そう呟くいちご…。

頭を撫でてあげたい…けど~

いちごから
飛び出てる鋭い刃先が怖いから

とりあえず刃先を引っこ抜いて

いちごの
カツラみたいな髪の毛を
プチンと抜いたんだよ。

そしたら
いちごが

「なにすんのよ、
禿げちゃうじゃない!」

顔を真っ赤にしながら
プンスカ怒った。

…いや
元々真っ赤だから、
さらに真っ赤にしてるかは
わからないが…

「髪の毛があったら、
君を食べれないからさ」

僕がそう言うと
いちごは恥ずかしそうに
頬を赤らめた

…と思う。

僕は興奮して
いちごを拳で握り潰したあとに

いちごを口に含んだ。

いちごは
激しく悶えた。

ぼくの口内の中で
ヌチャヌチャと歯に食い潰されて

いちごは
喘ぎ声を上げながら

息を引き取った。

そうとう
感じていたらしく

とても甘酸っぱい愛液を
たくさんたくさん出していた。

…やーっと
ひとつになれたね。

いや、
ちょっ、待てよ!(キ◯タク風に)

よく考えたら…
いちごは食べても食べても
何度でも生産されるから、

色んな男の口内で
イカされてるわけだ。

だから、
いつもいつも寂しいと言っていた。

あっ、
ぼくがいっそ人間をやめて
畑に生まれ変われば

いちごを独り占め出来るかも。

でも
僕はまだ死にたくないな…

そんなことを考えていたら

床に転がっていた
いちごの刃先が
死んだいちごの呪いで動き出した。

そして、
勢いよく僕の喉を

ざっくりと
深く深く掻っ切った後に

容赦なく貫通した。

僕の意識が遠くなる頃

いちごは満足そうに
でも少し寂しそうに笑っていた。

そして
いちごは血まみれの赤い指で
壁に愛を綴る…

「心の中で私は知っている
自分は正しい

私はずっと
闇に沈んでいる

でも、立ち直る

私は愛の彼方を
探し求めているの

(坂本龍一さんのthe other side of loveを和訳して抜粋したものです)」

バナナちゃんの恋

バナナちゃんの恋

ある朝、
起きたら
枕元にバナナが寝ていたんだ。

そして、バナナが話しかけてきた。

「驚かせちゃってごめんね。
私スーパーで貴方を見かけて
一目惚れしちゃったの」

…ほう。

確かに
こないだスーパー行ったからな…
ありえないことでもないよな

「なるほどねー」

ぼくは
あくびをしながら
そう答えておいた。

バナナは
さらに喋る

「でもね、人間に恋をするのは
私の世界では禁忌だから…
私は追放されてしまったのよ」

ぼくは
バナナと会話しているという
非現実的な状況なのに

寝ぼけていたこともあり、
考えるのが
めんどくさかったこともあり、

とりあえず

バナナの話を
適当に聞き流したんだ。

「そっかそっか。ゆっくりしていきなよ。」

ぼくは
そう言って再び眠りについた。
再び目が覚めると…

やっぱりそこには
バナナがいたんだ。

しかも
図々しく寝てやがる。
バナナのくせに
いびきなんか
かきやがって…

ぼくは
とりあえずバナナを
つついてみたんだ。

バナナは
ハッとしたように
パッチリと目を開いたから

ぼくが
おもわずビクッとすると

バナナは照れくさそうに笑った。

「やだ…私ってば
いびきかいてなかった?
うふふ」

そう言って
無邪気に
ぼくに抱きついてきた。

そして
バナナが語りはじめた。

「私は追放されてしまったから、
成仏することも
生まれ変わることも
出来ないわ。
だからね、たまにでいいから…
あの…その…あの…その…」

そう言いながら
モジモジするバナナに
若干イライラして

「なに?!」

ついつい
続きを急かしてしまった。

すると、
バナナが照れくさそうに
顔を手で覆いながら
震える声で言ったんだ。

「あっ、あの、その、あの…

たっ、たまにでいいからっ…

私を抱いてほしいの!!」

そんな大胆な告白をしたあとで、
バナナは恥ずかしくなってしまったらしく

ひ とりで

きゃーっ!!
とか言って走り回ってる。

そんなバナナを見ながら
ぼくは冷静だった。

ぼくは
いったい、どうやって
バナナを抱けばいいんだろう。

ぼくは
考えて考えて考えまくって、

とりあえず
まだ走り回ってるバナナを掴まえて、

「落ち着いてよ。
ところで君の性器は
どこにあるの?」

そう聞くと
バナナは少し照れくさそうに
俯きながら

「お洋服を脱がせて…」

そう呟いて

恥ずかしそうにクネクネしながら
仰向けに寝た。

そして、
バナナは
覚悟を決めたかのように
目をギュッと瞑った。

…洋服って?皮のこと?

ぼくは
バナナの皮を剥こうとした。

…なかなか剥けない。
とても堅いんだ。

どうやら処女らしい。

だから
ぼくはキッチンから
ナイフを持ち出した。

そして、
そのナイフで
バナナの皮を剥こうと試みた。

ナイフを握りしめて

「バナナ…
覚悟はいいかい?」

そう聞くぼくに
バナナはギュッと目をつぶりながら
上下に首を振った。

そんな健気なバナナを見て
ぼくの中のSの血が騒いだんだ。

くくく…

だから
ぼくはバナナを皮ごと
真っ二つに切ったんだ。

そしたら…
中からグロテスクなバナナの本体が見えた。

バナナが
恥ずかしそうに云った。

「長い間、処女だったもんだから…
腐ってしまったのね。
すっかりこんなにグロテスクになってしまって
私…恥ずかしいわ。」

ぼくは
とっさに

「でもバナナは腐った方が美味しいじゃん」


フォローした。

それにしても…
多少黒いならともかく
この色はグロ過ぎる…

ついついマジマジと
バナナの中身に見とれてしまった。

…いーやー、
しっかし…ほんと硬い。
なかなか剥けない。

すると。
突然バナナが
可愛らしい女の子に
変身したんだ。

えー

いやいやいやいや

なんじゃい、この漫画みたいな展開!!!!

ぼくは驚いてしまい、
瞬きするのさえも忘れていた。

そんな
放心状態のぼくに

バナナ(人間に変身したバージョン)が
覆い被さってきて

ぼくとバナナは
深く深く
朝まで繋がっていた。

驚くほどに
ぼくとバナナは相性がよくって

ぼくは、すっかり
バナナの虜になってしまったんだ。

行為が終わったあと、
たくさんお話をしたんだ。

バナナは
うっとりした顔で
ぼくの胸に顔を埋めながら
ぼくに愛を囁く。

「貴方を独り占めしたかったの。
だから神様にお願いしたの。
誰にも渡したくないから。
そしたら、こうして人間の形になれて
私とても嬉しいわ。
嗚呼、夢みたい。」

そんなバナナの話を聞きながら
ぼくはなんだか
とても眠くなり意識を飛ばした。



目覚めると
ぼくはベッドに寝ていた。

此処は何処だろう。

いとしのいとしの
プリティーバナナたんは何処に行ったんだ。

…あぁ、そうか夢か。
ぼくは少しガッカリした。

部屋の外から
親戚の人達の声が聞こえる。

おばちゃんたちの
うるさい話し声。

「院内では静かにしてくださいね」


注意する声が聞こえる

おばちゃんたちが
何を言ってるかは
聞き取れなかった。

ふと背中に
温もりを感じて振り向くと
バナナが
ぼくの背中に抱きついていた。


「ずっと一緒」



そう言って
バナナは幸せそうな顔で
ボロボロと涙を流した

ぼくも
何故だか泣けてきて
僕たちは

部屋の外に声が漏れないように
声を押し殺しながら
激しく貪りあった

それはそれは
史上最強に幸せな時間で

バナナと触れ合うと
まるで……
生まれた時から一緒にいるような…
そんな感覚になるんだ。

相変わらず部屋の外からは
おばさんたちの話し声が
煩くて煩くて…。


「それにしても
災難だったわね。
美智子さんショックでお家で
寝込んでるらしいわよ」

「そりゃー、
我が子が部屋に閉じこもってるから

覗いてみたら

局部をナイフで切り取って
倒れてる姿なんか見たら
ショックで立ち直れないわよ」

「美智子さん
女手ひとつで育ててきたものね。

自分が構ってあげれなかったから、

子供が精神的におかしくなってしまったんだと、
ずっとずっと自分を責めてたわ」

「でも
助かって良かったわね。

美智子さんが、見つけなければ

あと一歩で大量出血で命が危なかったらしいわ。」

おばさんたちの
うるさい会話を聞きながら
ぼくとバナナは
ウトウトしていた。

そして
ぼくはバナナにキスをしたあと
ぼくは子供のように
バナナに甘えながら

また眠りについた。

…おばさんたちの話し声や
看護婦さんの声を聞きながら。

ぼくは
ずっと寂しかった。

だれのものにも
なれないぼく。

ひとは
こどくだ。

だから
ぼくはぼくの中のぼくを
こじあけて

ぼくは
やっと
征服されることが出来た

たったひとりの
ぼくだけのぼく。

黒い卵とぼく

黒い卵とぼく

ある日
ぼくの部屋に
黒い卵がふたつ落ちていた。

最初は
小さな小さな卵だったんだ。
だけど、
そのふたつの卵は
どんどん大きくなっていった。

ある日
ふたつの卵にヒビが入ったんだ。

ぼくは
その小さな穴から
中を覗いてみたんだ。

そしたら
それはそれは
美しい女性が膝を抱えて
座っているんだ

その女性は、
ある時は寝そべっていたり
ある時は自慰をしていた。

ぼくは
そんな女性を見て
とても興奮して

毎日毎日、
馬鹿みたいに
自慰にふけったんだ。
早く生まれてこないかな。
早く抱きたいな。

ぼくは我慢出来なくなって
卵を割ってしまったんだ。

「ハァハァ」

自分が自分でなくなってしまうような欲望が

もう爆発する一歩手前で

ぼくは
どん底に落とされた…

女性が出てこないんだ。
女性は何処に行ってしまったんだろう。

割れた卵の中からは
小さな卵がたくさん
溢れて出てきたんだ。

…イライラした。
そして大量の卵は
また大きくなって
ヒビが入ったんだ。

ぼくは毎日、
その穴から女性を見るのが
日課になったんだ。

そして、
中を覗くと
…やっぱりあの女性がいる。

ぼくは我慢出来なくなって
また卵を割ってしまったんだ。

会いたい会いたい会いたいァアァアァア
やらせろヤラセロ早くヤラセロヨ。

……そんなぼくの欲望は
また裏切られた。

やっぱり出てくるのは
女性ではなくて
大量の小さな卵だった

ぼくは
あの美しい女性に
会いたくて会いたくて

頭がおかしくなりそうだった。
こんな気持ちは初めてだ。

しかも、
小さな卵たちが鳴き声を上げながら
飛び回るんだ。

ああ…もうイライラする。

卵の鳴き声が煩くて
ぼくは不眠になってしまい、

ぼくはバッグに
卵を詰め込んで
部屋の片隅に
しばらく置いておいたんだ。

ある日、母さんが
そのバッグを触ったんだ。

ぼくは腹がたって
触るな!と怒鳴りながら
バッグを奪い取った。

母さんは心配そうに

「何が入ってるの?それ…」

と聞いてきた。

ぼくが何も言えずに黙っていると
母さんがバッグを取り上げて
バッグを開けたんだ。

ぼくは
かなり頭に来て
母さんを思いっきり
突き飛ばしたんだ。

そしたら
バッグの中の大量の卵が散らばって

狂ったように飛び回る卵たち…

それを見て
ぼくは
どうしていいかわからず
声も出せず

パニックになってしまった。

そして
どす黒い感情が込み上げてきた。

…このクソババア…
なめた真似しやがって

きっと母さんも
この卵を狙ってるに違いない。

そんなの許さない
誰にも渡さない

そうやって
どいつもこいつもあぁあぁァアァアァアァア
覚えてろよ

ぼくの邪魔したら
母さんでさえも許さない。

ぼくは
無我夢中で卵を貪った

歯応えがあって、
コリコリした食感だった。

飛び回る小さな卵に
囲まれている母さんは
なぜか青ざめながら
座り込んでいた。

どうしたんだ、このクソババア。
卵が手に入らなくて
落ち込んでいるのか?

ぼくは
勝ち誇った顔で

母さんに近寄り

「母さん元気出してね」

と言いながら
母さんの肩に手を置くと

母さんは
ぼくの手を振り払い
ぼくの顔を無言で見つめたあと

とつぜん、
気がふれたように泣き出した。

「あんた…なんでこんなこと…」

そう言いながら
泣いていた。

なんだよ、このクソババア。
と思いながら

飛び回る小さな卵たちを
ぼくは
ボーッと見つめていた

母さんは
飛び回る小さな卵の中で
ずっとずっと泣いていた。

…その夜
ぼくは夢を見たんだ。

ヒステリックな彼女…

そういえば
最近、会ってないなあ。

夢の中のぼくは
彼女とケンカをしていたんだ。

ヒステリックな彼女…

ぼくはイライラしてしまって
彼女を突き飛ばしたら
彼女が死んだんだ。

彼女は目を見開いたまま
動かなくなった。

ぼくはね、
パニックになりながらも
異様に興奮したんだ。

マンネリで飽きてきた彼女に
久しぶりにこんなに興奮したんだよ

こんな気持ちは久しぶりで

だからね、
彼女を抱いたんだよ。
そして、しばらく繋がっていたら
どんどん締まりが良くなってきて

彼女の体温は
どんどん無くなっていく

彼女の体温が無くなっていく瞬間を
ぼくは彼女の中で
しっかり味わった

何て貴重な体験だろう。

だけど
射精したあと、
なんとも言えない
暗い暗い感情になった。

ぼくは
彼女に添い寝をしてみた

「うそだよん」
って起きてくるはずもないのに

ちょっぴり
生き返ることを期待してみた。

でも今更
うそだよんって言われて
生き返ってきたところで

ぼくは彼女を
愛せる自信なんかないんだ。

もしかしたら、
いまぼくは
ホッとしてるのかもしれない

だけど
気持ちは深く深く
どんよりと真っ暗な闇で

ここから
どこに行けばいいの

ここから
どこに正解があるの

どんな結末でも
結局ぼくは
深い深い闇を泳ぐだけでさ。

なんか
もう
どうでもいいや。

鏡を見ると
弱い目をしたぼく

だれか
ねぇ誰か
ぼくを連れ出して。

彼女の目は
ずっと見開いたままで

ぼくの弱い目とは裏腹に
鋭い目をしていた…

なんだか、
責められてるような
そんな気持ちになったんだ。

少しでも…
この深い深い
ぼくを取り囲むどす黒い闇が
ほんのすこしでも
マシになってほしいから

だからさ、
ぼくは彼女の目を
くりぬいて逃げたんだ。

彼女は一人暮らしだったから
ぼくは彼女が死んでから
しばらく
ちょくちょく覗きに来ていたんだ。

あの目が怖いから
目が合わないように
壁に穴を開けて
そっと覗いていたんだ。

そしたら
穴からたくさんハエが飛んできてさ。

そのハエが
うっとおしくて
見てらんなくてさ…

だから
しばらく見に行ってなくて
すっかり彼女のことなんか忘れていた

そして
黒い二つの卵に出会ってさ。

卵の中の女性は
目玉がなかった。
だけど、
ほんとにほんとに美しかったんだ。


「ねぇあの事件怖いよね
彼女殺して目玉持ち歩いてたやつ」

「知ってる!
ハエとか、めっちゃたかってたらしいよ」

しあわせ

しあわせ

他人の「幸せ」と「不幸」ならば
どちらに興味が沸く?

やっぱり
血まみれなものほど
魅かれるでしょう?

好奇の鋭い目

自分の方がマシだと安心して

だけど、
心の奥は
血まみれなヒロインのお姫様に
なりたい

破滅したい

貴方の愛で

ボロボロになって

シニタイ

今日もこんな
どす黒い感情抱えてること

だれも
気付かない

私は
いつでも
完璧な笑顔だから。

お人形さんだから

からふる

からふる

闇が黒だなんて
誰が決めたの

白だって
ピンクだって
いろんな色が
あるはず

私の闇は
溺れそうなほど
真っ赤で
大胆で
奇抜なのよ

私にしか
出せない闇がある

あなたにしか
出せない闇がある

欠損主義者

欠損主義者

目の前で
彼女が喋っている

目がパチパチ動いて
口がパクパク開いて
笑うと少し鼻の穴が広がる

目と鼻と口なんて、
どうしてそんな気持ち悪いものが
人間には存在するんだろう。

マスカラたっぷりの
バサバサの睫毛

何かに似てる
何かに似てる

…あ~あー!

そうだそうだ、思い出した。

あれだよ……

あの
なんちゃらかんちゃらって鳥だよ。

名前は忘れたけどさ。

ぼくは笑う
こんな自分を隠して
彼女のわけのわからない話に付き合う。

彼女の唇や指が動く。

グニャリ、ぐにゃ~り、グニャリ、グニャリ…

もう嫌だ
こんな世界

ぼくは
欠けているものが好きだ。

欠損…いや、欠落主義者だ。

ネットで
片目がない女の子を見て
オナニーしたりした。

彼女と
セックスなんてしたことない。

なぜならば
目も鼻も口もある彼女に
興味はないのだ。

ある日、
彼女がぼくにキスをしてきたんだ。

あのグニャリグニャリって動く人間の唇が

ボクの
クチビルニ

ヌチャッテ

あたったんだ

ぼくは

視界がグニャリ

ああ…

もう殺してくれ。
もしくは殺してしまおうか、この女。

ぼくは
その場でゲロを吐いた。

彼女は
どうしたのと
心配そうにぼくの顔を
覗きこんでくる

どうしたのじゃねんだよ

目と鼻と口があって
五体満足の君のことが愛せないんだよ。

空気読めや
ゲロブス女

…だから別れを告げたんだ。

そもそも
この女の何が良かったんだか。

何かが良かったんだろうけど
今ではサッパリ思い出せない

思い出したくもない
死んでしまえ

彼女は
泣きながら別れたくないと言った。

でも君は普通過ぎて嫌だと言ったら

なんと彼女が突然、
自分で自分の爪を剥がし始めた。

ち。

真っ赤な

まっかな

きみのいろ。

壊れた君の色。

もう
既に愛してなんかいない

ゴミみたいな

きみのいろ。

気持ち悪い君の色。

ぼくのために必死な

惨めな

キミノイロ。

ああ、血まみれの指。

…ぼくは
ちょっとだけ
彼女のことが好きになった。

なぜならば
他の女と違って
彼女には爪がないから。

彼女自体は好きじゃない。
爪がない彼女のことが、好きなだけ。

そして、
そのとき、
ぼくはやっと彼女に
性的興奮を覚えたんだ。

そして、
ぼくはそのとき
彼女と初めてベッドインした。

お互いの爪を剥がしあって
愛を確かめあった。

…それにしても、

ぼくも…
目も鼻も口もあるし
五体満足だし、

自分のことを
鏡で見るたびに
イライラしてくる。

ぼくは
鏡の前で
セクシーポーズをきめてみた。

「しっかし…

美しくないなあ。」

ぼくは

そう呟きながら
頬杖をついて

ずっと
鏡を見つめていた。

ああ、美しくない。
世の中みんな同じ顔。
マンコがあって
チンコがあって

ホントニ
キモチワルイヨ
オマエラ

次の日
ぼくは彼女に
性器を潰すようにお願いした。
お互いの性器を潰そうと。

彼女は嫌と言う
けど別れたくないと言う

どんだけ
ワガママな女なんだ。
ぼくは、なんだか…
すっかり彼女のことが
嫌になってしまった。

そして、
別れ話を保留にしてたある日、
ぼくは恋をしたんだ。

その女は前歯がなくて
入れ墨だらけだった。

…くぅ~っ!!可愛すぎる!!

人と何かが違う、
それだけでキレイに見えるんだ。

なんて美しいんだろう。
なんて個性的なんだろう。
なんて浮世離れしてるんだろう。

友達には
趣味がおかしいと言われた

いやいや
お前がおかしいだろ

死ねや

まぁまぁ、
人の言うことなんか気にしない

ぼくの目に狂いは無いんだ。
どこまでも自分の目を
信じて生きてきただけだ。

どこまでも
自分の目や感性を信じて
生きていきたいんだ。

…そして
ぼくは、入れ墨の女に恋をしてから

彼女のことは
なおさら突き放したんだ。

そして
俺はすっかり入れ墨の女の虜になった。

その女は
乳首にピアスをしていた。

はだけた服をめくりあげて
誘うように胸を見せてきた。

その美しさに
ぼくはたまらず
手を伸ばしたが、

鼻で笑われたあげく

「あんたなんか嫌よ」

と、
冷たく手を振り払われる始末。

ぼくは
からかわれている。
弄ばれている。

それでも
いますぐ
君がほしい。

入れ墨女は
誘うような仕草を見せながらも
なかなかヤらせてくれないまま
月日が流れた。

ある日
ぼくは相変わらず
入れ墨の女に会いに行こうとして
外に出たんだ。

すると、
彼女が家の前で待ち伏せしていたんだ。

げーっ!!!

まだ諦めてなかったのか…

シツコイな…。ブスのくせに…。

ぼくは
彼女を振り払い
逃げまくって
入れ墨女のところに向かった。

後ろから
彼女の狂ったような泣き声が
聞こえてきたが

今のぼくには
うざいだけで
微塵も可哀想なんて思わないんだ。

うーあーいーやー
いかないでうんぬあうがきなーいでー

もはや
なに言ってんのかわかんない。

「うーあーいーやー
いかないでうんぬあうがきなーいでー」


ぼくは彼女の真似をしながら
叫んでみた。

叫びながら
そのまま走った。

彼女は怒って
げきおこぷんぷんまるに変身していた。

あーはははは

ぼくは
おかしくて
笑いが止まらなかった

世界は美しい

入れ墨の女のおかげで
ぼくの毎日は楽しくなった

あんな宇宙人みたいな奇声をあげて
ぼくにすがりついてくる怪物には
興味ない

死んでしまえ。

そして
ぼくは
そのあと…

念願の入れ墨の女に会った

けど


なんと
入れ墨の女のツレのホモに
ケツの穴を犯された。

やっ。ややや。いやん。

なんだ、この意味不明な展開。

ボコボコにされ
金も巻き上げられ
ケツの穴を
灰皿変わりに使われて
脅されて
写真を撮られて

それはもう
よくわからないまま

とりあえず解放され
ぼくはフラフラと
家路に向かった

そしたら、
やっぱり家の前では
彼女が待ち伏せしていたんだ。

ほんと諦めが悪い女だな…でも…

心が弱っていたぼくは
彼女を受け入れる気持ちになれたんだ。

今まで
どんなぼくでも愛してくれて
受け入れてくれた彼女を。

そして
ぼくは彼女にキスをした。

今までで
いちばん優しいキスをした。

そしたら彼女は嬉しそうに
笑いながら泣いた。

…ぼくも
そんな彼女を見て泣いた。

よくわかんなくて
震えちゃったよ。

いや、怖くてさ。
だって…目が離せなくてさ。

何がって?


だって、
だって、
笑顔の彼女の右手に、握られてるんだもん。

……ナイフがさ。

「それ、どうす…」

って
聞きかけた時にさ、

彼女は
飛びっきりの笑顔で
わかりやすく例えるなら

マックの店員ばりの
テンションと笑顔で

「うっそだぴょ~ん」

って言いながら

道をテクテク歩いてる鳩に
ナイフをグサっと刺した。

鳩は

ギュシィ~って

変な声を出して死んだ。

「なんだよ~。脅かすなよ~。ぼくが刺されるかと思ったよ」

と、
ぼくはホッとして

死んだ鳩を見ながら
爆笑した。

そしたらさ、
彼女が

「えっ?
脅しじゃないし。
フライングだよ」

って言いながら

バッグから瓶を取り出して
ぼくの顔に液体をかけたんだ。

ま~ぢ、びっくり。

ぼく
いきなり顔面が
鞭で打たれたみたいに激痛でさ

顔がズッパ~ンって
毛穴が肉片が細胞が
弾けて燃えてひとつになって
再び弾け飛ぶ痛さ

それは熱いなんてもんじゃない
グニャリなんてレベルじゃない


たぶん、もう、なにもない。


ぼくは無意識に発狂しながら
地面に転がったんだ。

転がった拍子に
おそらくコンクリートに
ザリザリザザザって

皮膚がこすれたと思うんだけど

そんな痛さなんて気にならないくらい
あついアアアアあついー。

あついーあついーあついーねーあついー

ママー

だれか

タスケテーボクをタスケテーあついよ

ぼくは
ものすごい声が出てたと思う

意味のわからない言葉も言っていた気がする

ぼくって
こんな声が出るんだなって
自分で自分にびっくり。

一瞬、
だれかが叫んでるんじゃないかと
錯覚してしまったけれど

それは間違いなく
ぼくの悲鳴で
これは間違いなく
ぼくの現実で
これがぼくが生きてきた
人生の結末で…

言葉も出せない。

顔の皮膚が
全部混ざった感じ?

ぼくは
今どんな顔してるんだろうね。

きみは
今どんな顔しているの?


いま、きっと一番美しい。

泣いてる彼女の声が聞こえたんだ。

「これで、他の女も寄ってこない。
もう、あたしだけのもの」

ってね。

でもぼくは
痛くて喋れなくてさ

立ち上がれなくて
おそらく顔が彼女の方に
ズリッて自然に動いたんだ。

そしたら多分、彼女は
ぼくの顔を見たんだと思う

彼女が
しばらく無言になって

「あっ…いや…ごめん別れよう」

って言い出した。

ぼくは顔が焼けて
声も出せなくて
目も見えなくて
わけわかんなくて

手探りで彼女の足を見つけて
すがりついたら

「やっ…そんな顔になったアンタもういらない。
やめて…離して…

…キモイヨ…」

…あぁ、そっか。

ぼくは
いつだか彼女のことは好きじゃなくて、
爪がない彼女のことが好きだと思った。

彼女も
或る意味、ぼくと同じ思考さ。

顔が無いぼくのことは
キモチワルイんだってさ。

彼女は
しがみつくぼくを
全力で嫌がった。

キモチワルイヨ
マヂキモイ
コワイヨ
アッチイケヨ
ハナシテヨ
ヤメテヨ
シネヨ

彼女は狂ったように
残りの塩酸を
ぼくにかけて

全力でぼくを拒絶しながら
全力でぼくを破壊した

焼けたぼくの目と鼓膜には
彼女の言葉も
誰かの叫び声も
彼女の叫び声も
救急車の音も
ぜんぶ、おなじに聞こえた

ぼくは
人と違うものを
求めていたのに

その求めていたものは
たいしたことなかったんだ。

誰もが持ってる感情で
ぼくは特別な何かにはなれないまま
消えていく。

結局みんな同じなんだ。

結局、結末は見えていたことなんだ。

これで
やっと終わる。

だって何されても
満足出来ない

何かが欠落している
ぼくときみだったからさ。

人間として
生まれてしまったから、
こんな感情に苦しめられて
欲求不満で
卑しいぼくときみだったからさ。

ハンバーグと私

ハンバーグと私

むー子は
エステの帰りに
ひとりで
ファミレスに入った。

…残りの三口くらいが入らない。

やー、参った。

いいではないか。
残してしまえよ。

いやいや、だめよ。
食べ物を残したら

もったいないオバケが出てくると
小さいころ
パパに言われたわ。

…もったいないオバケは嫌だなあ…

そんなことを
考えながら

むー子は

もう既に
愛してなんかいない
とっくに興味がなくなった
目の前の三口分のハンバーグを

とりあえず、
ひとくち口に入れてみる

むー子は

目の前にあるものを支配したがる傾向がある。

独占欲も支配欲も強い

けど執着は薄いのだ。

たとえば
いま、店員さんが

「下げてもよろしいですか」

と言えば

「はい」

と言うだろう。

たとえば

小さな子供が走りまわっていて

いま、
ハンバーグがひっくりかえっても

特に怒ることもなく

「まぁ、また頼めばいい」


割り切れるであろう。

だけども、
目の前にあると
支配したくなるのである

目の前から消えてしまえば
忘れるんだけど

あっ、
ほらほら

冷蔵庫の中にプリンがあったら

たいして
楽しみにしてなくても
まぁ、食べるでしょう。

まぁ

暇だし
食べよっかな

って
食べちゃうでしょう。

けれども、
いざ食べようとして

なぜか
そのプリンがなくなっていたら、

まぁ、
多少は落ち込んでも

まっ、いっか。

ってなるわけ。

すごく楽しみにしてたとしても

また買えばいいか

と忘れるわけ。

けれども、
例えば

あからさまに
目の前で

まだ食べれる自分のプリンを

他人に誘拐されそうになったら

「ちょっと!やめてよ!返してよ!」

って、なるわけ。

つまり
目の前にあれば
追いかけるけど

目の前で

壊れてしまったり

もしくは
魔法のように消えてしまったなら

がっかりはするけど

「また買えばいいか」

ってなるわけ。

だから、

独占欲は強いけど

執着は薄いのだ。

…むー子は
ハンバーグを無造作に噛みながら

そんなことを考えていた。

まるで性欲と一緒だ。

さっきは
お腹ぺこぺこで
激しく貪ったのに

いまは
もう愛してなんかいないのに

愛してるふりしながら
もったいない精神で

ちんたらちんたら
口の中で期待をさせている。

なんてズルイ女なんだろう。
つんくもびっくりだよ。

そうだ
別に飲み込まなきゃいけないなんてことはない

とりあえず、
口に入れておけばいいんだ

そのうち、
口の中にいつまでも滞在しているハンバーグが
うっとうしくなって

飲み込まなきゃいけなくなる。

まぁ、
つまり人生なんて
そんなもんだ。

あっ、ほらほら

悟り始めたマイレボリューション

って
誰かが歌ってたし。

あっ、
わかりはじめたマイレボリューションだっけ?

そんなことを
ちんたらちんたら
脳内で考えながら

むー子は
口にハンバーグをふくんだまま

口を閉じてみる

そして
窓を見てみる

どーお?

私ってば
きっと今、
決して苦しい顔なんかしてないと思うの

とっても
ポーカーフェイスだと思うの

ほーら

私ってば

キレイでしょう?

とっても
どや顔してると思うの

決して
残りの三口が苦しいだなんて顔はしてないと思うの

どや顔していると

店員さんがコップ水を入れてくれた。

きっと
この店員さんは
私の口の中に
ハンバーグが含まれているだなんて
気付いていないでしょうね。

クスクス。

「ごゆっくりどうぞ」

そう言いながら

去っていく店員さんが
背中を向けたあとに

むー子は
ハンバーグを無造作に噛み砕いて

水を流し込む。

ああ、私は完璧だったわ。

いつだってそう。

悟られちゃいけないの。

美味しそうに美味しそうに。

むー子は
現役風俗嬢である。

フェラのときも

美味しそうに美味しそうに。

決して
悟られちゃいけないの。

「あぁ、もう疲れたよ

早くイケヨ オヤジ」

だなんて
思ってること

フェラなんか
ほんとは嫌いなこと

だけど
むー子はクンニが大好きだから

見返りを求めて
フェラをする

それはそれは

完璧な対応だ。

なぜならば…

まぁ、もう、いいや。

考えるのめんどくさい。

…あー、
もしも
いま、この場で目の前にママがいたなら

ママは
きっと

「お腹苦しいんでしょ?
無理しなくていいのよ
デザート食べよっか」


言ってくれたであろう。
察してくれたであろう。

そして、
むー子も
気の抜けた顔をしていたであろう

だけども、
もし目の前にいるのが
パパであれば、

むー子は

ファザコンなので

やはり完璧な自分を
演じて

笑顔で
もぐもぐもぐもぐ
食べていたであろう。

「もうお腹苦しいんでしょ
無理しなくていいよ」


言う言葉は

「もう疲れたんでしょ
無理しなくていいよ」


言われてるような
心地よさがある、

そうやって

むー子には

もう

気付いてくれる人がいない

なぜならば

むー子は

昔から完璧過ぎるのだ。

ちょっと
けだるい感じの女の子の方が

可愛いげがあるのだろう。

おまけに
むー子は神経質だ。

自分が
こんなに気を使ってんだから
周りも自分に優しくするのが常識だと思っている

つまり
人一倍、気は使うけど
自分中心で世界が回ってるのである。

だから
思い通りにならなければ

やる気の無さを
あらわにするところがある。

携帯が鳴った

…「ちゅんた」。

ちゅんたは既婚者。

不倫相手である。

そういや

ここ最近、
むー子は
彼氏と別れた。

そいつの上から目線が気にくわなかった。

これだから男は嫌だ、

と、
思っていたら

タイミングよく

ちゅんたから連絡がきた。

「21日
札幌行くよ」

そんな内容を読みながら

むー子は
なんだかホッとした。

ちゅんたは
もちろん

むー子に
彼氏がいたなんて知らないし
別れたことも知らないけど

あまりにも
タイミングがいいので

なんだか

「疲れたでしょ
頑張らなくていいよ」

そう
言われてるような気分になった。

そう
不倫ならば
頑張らなくていいのだ
傷つくこともない
めんどくさくない

お互い
心なんて開かないから

だから
イライラさせられることもない

上から目線で
もの言われることもない

優しい
ずっと優しい

割り切ってる男は
優しいから大好き。

私と相性がいい。

だけど
いくら
独占欲が強いむー子も

既婚者には
独占欲は沸かない

こんな
ばかなおじさんに
愛情なんてない

むーこは

人のものだから
興味がないのだ。

そんな
あほで
情けなくて

孤独な二人は

21日に
逢瀬を交わす約束をしました

ズルズルズルズル
それが心地いい

可哀想な二人は

これからも
飽きるまで
ズルズルズルズル
傷をなめあうのです。

失恋するたび

むー子は
ちゅんたに戻るのです。

むー子は
ふふっと笑いながら

ハンバーグを完食しました。

完食したあとに
ふと携帯の日付を見ると
なんと23日でした。

あら、おかしいわ。
ちゅんたと会うのは21日。

ちゅんたとのメールを
読み返しながら
首を傾げていると

店員さんと目があいました。

よーく見ると店員さんは

ちゅんたの奥さんでした。

そうです、
私は21日、ちゅんたと不倫をしたのです。

そしたら
奥さんにバレたのです。

そしたら
奥さん、ちゅんたをサクッと殺したのです。

奥さんは
とても優しい人で

私に
ハンバーグをご馳走してくださいました。

それが
いま完食したハンバーグで御座います。

不思議な味がするハンバーグです。

ちゅんたの味。

私の罪の味。

奥さんの憎しみの味。

哀れな男の味。

ハンバーグになってしまった男。

私はいま
奥さんに監禁されているのです。

私は
ふとそのことを思い出して

ぐげぇーと

喉奥から
ハンバーグを
テーブルの上に

全て戻してしまいました。

奥さんは
ぜんぜん怒らずに

「うちの旦那
お下げしてもよろしいですか」

と言いました。

私は

特に執着してるわけでもないので

「あぁ、はい。お返しします」

と言いました。

そして、
もう一度
ちゅんたのメールを読み返しました。

宛先は

「地獄」でした。

かわいそうに。

メールを読み返しながら
そう思っていると、

奥さんが
近付いてきて
私の首筋にナイフをあててきました。

そして、

「そろそろ殺してもよろしいでしょうか」

聞いてきたので

私は

いつもと同じように

特に
自分にたいしても執着してないので

「あぁ、はい。」


笑顔で答えました。

どーお?


いま決して
怯えてる顔なんかしてないの

足がガチガチ小刻みに震えているのも
きっとバレていない

奥さんが
最後にこう言ったのよ。

「苦しいでしょ?
もう死んでいいよ
楽になっていいよ」

なんだか
すごくホッとしたわ。
なんて優しい人なのかしら。

以上、
キレイな海が見える地獄からの中継でした。

狂気的な彼女

狂気的な彼女

「ねぇっ!
もし、あたしが今
運転邪魔したらどうする?」

デートの帰りに
彼女が車の中で

運転する僕に
そう言ったんだ。

僕は
キョトンとした顔で
聞き返してみた。

「どんな風に?」

彼女は
う~ん…と唸りながら
考えた後に

相変わらず明るい表情で
こう言ったんだ。

「貴方は時々、
私の話を右から左へスルーするでしょ。
私は貴方の心を独り占めしたいのよ。
だから貴方が上の空になった瞬間に
運転してる貴方に

私が手を伸ばして

ハンドルをめちゃくちゃに捻ってしまえば
…まぁ死ぬまではいかなくても
二人で仲良く病院送りくらいにはなるかなって思ったの」

彼女は時々
こうゆう風に
おかしなことばかり言うんだ。

…だけど決して

暗い表情だとか
いかにも精神的な目つきで
こうゆう狂気的なことを言うわけではない。

すごく明るく


「貴方を焼き肉にして食べたい」


こうゆうことを
表情ひとつ変えずにサラッと言うのだ。

だからと言って

彼女は決して
ふざけてるわけでもないのだ。

彼女はいつでも
彼女なりに本気で正気なのだ。

なぜかというと
僕は以前

彼女が狂気的な発言をした時に

冗談と受け取って、

「食べていいよ」

と言ってしまったのだ。


そのときは
僕たちはセックスをしていて
僕は性的な意味で言ったのだ。

彼女は
その時も表情ひとつ変えずに
ほんとにいつも通りの顔だった

まぁ…ちょっぴり
やらしい目つきをしていたぐらいだ。

彼女が
ぼくの性器をそっと口に含んだ。
ぼくが快感で少しケツに力が
入ってしまったと同時くらいに

ぼくの期待とは裏腹に
ぼくの性器に激痛が走ったんだ。

ぼくは
あまりの痛さに思考を停止させた。

…五秒くらいで
ぼくは痛さの余りに
彼女を突き飛ばした。

小学生の時に
ドッジボールの玉が
股間に直撃した時の痛みだとか
女子にふざけて股間を蹴り飛ばされて
冷や汗がダラダラになった
あの時の痛みや怒りの1000倍ぐらいの痛みだった

おそらく
五秒も経っていなくて
二秒くらいだろう。

だけど、
本当に痛い時って
どうやらショックの余りに
一瞬、冷静になってしまうことが分かった。

彼女は唇から
血をダラダラ垂らしながら

笑っていた。


それは
やっぱり
ちっとも悪意のない顔で
僕を惑わすんだ。


その一件があってから、
僕は彼女とセックスをしていない。

怖くてセックスがしたくないとかじゃない、
したいんだけどさ…

僕の性器は
彼女に噛みちぎられて
もうないんだ。
彼女に食べられちゃったんだよ。


なんで別れないのかって?
なんで警察にいかないかって?

愛してるからだよ。
それに尽きる。

…だから僕は
今回の車の中での彼女の話を
決して冗談とは思えなくて

変なこと言えないし

とりあえずスルーした。


「ほら、そうやってスルーするから。
邪魔したくなるのよ。
一緒に死にたいな。」

そう言いながら
遠い目をする彼女。

「たまに君の気持ちがわからないよ。
僕は君と一緒に生きていきたいんだよ。」

「どうして?
私が変みたいな言い方しないでちょうだいよ。
失礼しちゃうわ」

「変だよ。どう考えても」

「あっそ
貴方こそ変だけどね」

「僕は普通だよ。
どこが変?」

「じゃあなんで私を監禁してんの?
どうして私の両足を切り落としたのか
教えてちょうだいよ。
どう考えても普通じゃないでしょ」

「それは愛してるからだろ」


そんな僕達は今日も仲良しこよし。

死

だれかに
忘れられたときに
ほんとの意味で死ぬのです

あいするひとに
うらぎられるたび
なんども殺される

死んだら
なんにもないけれど

なぜか
かみさまは
いきてるあいだに
なんども
わたしたちを

ほんとの意味で
殺すのです

支配欲

支配欲

助けて
たすけて
タスケテ


叫んだら


冷たく突き放され


手を差しのべてくれた人も
結局は好奇心だけで


「心配」だなんて
口から出任せ

逃がさない

許さない

このままで終わらせない

お人形みたいな貴方が好きよ。

縛って噛んで裂いて
あたしだけのものにしたいの

闇の管理人

闇の管理人

オカッパ頭で
真っ赤な髪の毛の女の子が
カボチャのオバケと手を繋いで
ニッコリしながら
こっちへ向かってくる。

お気に入りの赤い靴を履いて
ご機嫌なその子は
私の前で
チェーンソーを構えながら

「お菓子くれないと悪戯しちゃうぞ~」

と、おどけた。
私もつられてニッコリ笑う。

私はその子の唇に
赤い口紅を施してあげて
甘いキャンディを渡す。

その子は嬉しそうに
ニッコリ笑って
チェーンソーを振り回し
カラフルな闇へと

深く深く
ドップリと
溺れて消えていく…

その子の名前はアリナ。

私はアリナを管理する保護者のありな。

大切でいとおしい
私の分身。

狂気じみてるけど
何よりも大切にしてあげたい。

彼女の真っ白なワンピースは
色んな人の返り血で
水玉模様。

歪んでるように見えないくらい
元気いっぱいで
愛嬌がある女の子。

だけど
とっても飽き性で
退屈すると
すぐ外に飛び出そうとする。

私の中で
お利口さんにしていてね。

とびっきり甘い狂気味のお菓子を
あげるからね。

しじみちゃん

しじみちゃん

私は彼氏との営みを終えて
彼氏の腕の中で寝ていた。

すると、
私の携帯が鳴る…またか…。

私には成人した息子がいる。

この着信は息子の彼女からだ。

何故か
私にとってもなついてくる彼女は

息子とケンカをしたりするたびに
私に相談の電話をしてくる。

今日はいったい
何事なのか…。

…「もしもーし」

内心は面倒くさいけど、
声をワントーンあげて電話に出た。


どうやら
息子に他の女の気配があるらしい。

それを聞いて
私はついつい吹き出してしまった。

「大丈夫よ。
あの子そんなにモテないからさー。」

私が
ケタケタ笑いながら
そう言うと

彼女はホッとしたようで

「ですよね!」

と明るく笑う。

受話器越しで
彼女の笑顔が想像できたので

私もなんだか癒されて笑った。


そして会話は終わり電話を切った。


私はあくびをしながら
隣で寝ている恋人にキスをした。

彼氏のカラダに
何度も何度も優しくキスをしながら
二回戦に誘う

…すると、また携帯が鳴る。

も~!
いいとこなのに…。

どうせアイツだ。
アイツしかいない。

KY全開な彼女が嫌いでたまらない。

「…はいはい。もしもし~」

「おばさん!!
わたし、もう我慢出来ない!!
彼氏の浮気相手の場所突き止めたんです…
今からぶっ殺すー!!」

かなり興奮状態の彼女を
取り敢えず宥めたのだけど

彼女は一方的に電話を切ってしまった。

「はぁ~。めんどくさい子…」

それにしても
うちの根暗な息子に他の女?
ほんとかしら。

そんなことを考えながら
私は横で眠る恋人に抱きついた。


その瞬間
家のドアをドンドン叩く音が聞こえる。

私はゾクッとして
隣で寝ている恋人の顔を見た。


…そう、隣で寝ている
私が産んだ息子の顔をね。


「ねぇ、とおるちゃん。
どうしましょう。
どうして私だって
バレちゃったのかしら

…あんたの彼女ストーカーみたいで
少しおかしいんじゃないの?」


そう言ったあとに、

私は
自分で自分の言葉に笑ってしまった。

いやいや
私たちこそ親子で
こんなイヤラシイことして
充分おかしいわよね。


心の中でヒトリツッコミをしたら、

なんだか
こんな修羅場なのに
ちょっと面白くて
私は呑気にクスクスと笑ってしまったのだ。


笑ってしまったんだけど
それでも
暗く暗く出口がないような

そんな感覚や痛みが
ちゃんと私の中には存在していて
それが私を責め立てる
それが私を悪魔にする

痛い痒い痛い
ダレカタスケテ
ワタシヲユルシテ
カイホウサレタイ

溢れてきそうなそんな感情を麻痺させながら
横にいる息子を見てみると

やっぱり
息子も笑っていた。
さすが私たち親子。

なんておかしい親子なのかしら。

同じ闇の中で
狂気を半分こする親子。
歪んだ絆。

ふと笑ってる息子と目が合った。

私が
ニコッて微笑みかけると

息子は
私に覆い被さり
私の中に入ってきた。

深く深く息子のものが
私の中に沈んでゆく…

子宮めがけて
深く鋭く刃物のように
突き刺さる

もっと私を壊して
もっと私を殺して
もっと私を悪魔にして。

ずくんずくん
快感が響く

貴方は
此処から生まれたのよ。

だから、
こうすることは
ごく自然なことで
なーんにも悪いことではないわ。

私が産んだ子供よ。
自分の子供をどうしたって
私の勝手でしょ。

あんな小便臭いクソガキより
私の方がとおるちゃんのこと
よく知っているわ。

息子は
私の中に入ったままで立ち上がった。
つまり駅弁の状態だ。

私と繋がったまま
私を廊下に運んでいく。
しっかり抱き抱えられているけど
やっぱり不安定な体制なので
私は恐怖を感じた

「とおるちゃん。やめてちょうだい。おろして」

そう言ってもおろしてもらえず
私の子宮は深く深く
彼を受け入れたままで離してくれない。

…この子ってば

いったい何をしたいのかしら。
まさか…彼女の前で見せつけるつもり?

そう考えると
私は興奮してしまって

より一層大きな声を出してしまったの。

とおるも
とても興奮して
私の中で果てたのが
伝わってきた。

ドクンドクン。
ふたつでひとつの鼓動。
生まれる前から一緒。
私達はずっと一緒。
貴方はずっと私だけのもの。
私も貴方のもの…

きっとずっと
貴方からは逃れられない。
私たちは離れられない。

…「ねぇ、もういいでしょ。そろそろ降ろしてよ」

乱れた呼吸を整えながら
そう言うと

突然カラダが傾いた。

下は階段…



「いやっ、怖い…」



とっさに
とおるの首に回した腕も
重力に負けて
虚しくスルリとほどける。



自分が命をかけて産んだ子供から

命を奪われる瞬間だった。


やっ、やっ、やああああああっ…


誰かの悲鳴が聞こえた

それは間違いなく私の声で
それは間違いなく現実で

私はその時の
とおるの顔をしっかり見てしまった。
とおるは笑っていた。
光がない真っ暗な目で
笑いながら泣いていた。

自分がお腹を痛めて産んだ子供に
こんな恐ろしいことをされてしまうほど

私は
暗くて重たい禁忌を犯してしまったのだ。

走馬灯を見た。

階段に何度も頭を打ち付けながら
落ちていった。


目が覚めると其処は
とてもカラフルな世界だった。
たくさんたくさん
カラフルなお花が咲いている。

カラフルなお洋服を着た人達が
虹色の橋を渡っていた。

…なーるほど。
これが三途の川かぁ…
イメージしてたのと全然違うわ…

すると
真っ赤な髪の毛をした
オカッパ頭の女の子が
赤い水玉のワンピースに
赤い靴で
ニッコリ笑いながら
こっちに向かって
てくてく歩いてくる

…おそらく小学1、2年生くらいだろう。
その子の顔のパーツは小さくて
例えるなら紫式部…清少納言…
なんとゆーか、
つまりとても和風な顔立ちだ。

ちょこんとした目が笑うことに寄って
開いてるのかわからないくらい細くなって
ぷっくりしたペコちゃんのような
下膨れのほっぺたが更に膨らみ
ちょこんとした鼻の穴も膨らむ。

そして
首にぶら下げたお菓子のオマケのような
プラスチックのネックレスを自慢気に見せてきて
どや顔をしてきた。

「可愛いでしょ!」

とっても元気いっぱいの笑顔で
そう言う女の子に
私もつられて笑顔になってしまう。

「可愛いね。似合うね!」

私がそう言うと
その子はすごく嬉しそうにニコニコして

やっぱりシジミみたいに目がなくなる。

それがまた彼女の愛嬌を引き立てるのだ。

だから
私は心の中で
その子に「しじみちゃん」と名付けた。

しじみちゃんは
ほんとにキラキラキラキラした目をしていた。

「これあげる。
オバチャンのこと守ってくれるよ」

そう言いながら
しじみちゃんは私の首に
プラスチックのネックレスをかけてくれた。

「いいの~?」

私が戸惑っていると、
しじみちゃんはニッコリ笑って

「いいよ~。
だから、その赤い口紅ちょうだいよ」


私の唇を指差した。

別にいいけど…おませさんなのね~。

私はポケットから
口紅を取り出して

しじみちゃんに

「はい!ブツブツ交換だね。」


言いながら渡すと

しじみちゃんは

「わ~い!ママ~!見てみて!
ブスブス交換したよ!」

と言いながら走っていく。

ブスブス交換…
私は久しぶりに爆笑してしまった。

しじみちゃんは
とても細くてキレイな女の人のところへ
走っていく。

ふたりが
くしゃくしゃに笑った顔は
とてもそっくりで
やっぱり母娘だな、と思った。

しじみちゃんは
橋の前にあるピアノで
猫踏んじゃったを
楽しそうに演奏し始めた。

だけど
気分屋らしく

途中で飽きてしまったご様子。

今度は
チェーンソーを振り回しながら
キャピキャピ走り回っていた。

チェーンソーが
色んな人にあたり、
しじみちゃんは
色んな人の返り血を浴びて

さらに
ワンピースに赤い水玉を増やしていく。

しじみちゃんは
とても楽しそうな顔をしていた。

狂気の欠片もないように見えて
本当はきっと誰よりも
頭がぶっ飛んでいる

そんなしじみちゃんを見ても
私は不思議とちっとも
怖いとは思わなかったんだ。

…突然、紫のスーツを着こなす強面の男が現れ

しじみちゃんが
ど突かれていた。

おそらくお父さんだ。

しじみちゃんはというと、
一瞬ショボンとしながらも

おてんばなお調子者なので
一分後にはフザケているし
また騒ぎ出す。

お父さんも
途中からは呆れて
笑っていた。


そして
しじみちゃんは
お父さんの手を握りしめ
その手を楽しそうに
ブンブン振り回しながら

ふたりは
カラフルな闇へと
消えて行った。

楽しそうな顔で
目がチカチカするような
カラフルな闇へと
ふたりは真っ直ぐ進んで行き、

そのふたりの後を
しじみちゃん一家が
ゾロゾロとついていく。

気付いたら
私は泣いていた。
なんだか
あのふたりには
強い強い絆を感じる。

そんな父と娘の姿。

それでも…
いくらカラフルとはいえ

ふたりは
「闇」に消えて行ったのだから

きっと
ふたりで色んな闇を乗り越えて
あんなに強い絆を
感じさせてくれたのかもしれない。


美しい闇だ。


私ととおるだなんて
比べ物にならない。

私ととおるの闇は
汚れた闇だ。

あんな風に
カラフルな闇を乗り越えていく親子とは

比べ物にならない、
深刻な闇だ。

何故なら
私は禁忌を犯したのだから。
もう親子には戻れないのだから。

私が泣き崩れていると
背中をつつかれた。

振り向くと
そこにはしじみちゃんがいて

やはりニッコリ笑いながら
話しかけてくる。

「忘れてた!
いま地上に戻してあげるね。
そのネックレスはお守りだから
絶対に外さないでね」

と言うのだ。

えっ?地上に戻す?
えっ?これ夢なの?

私がキョトンとしていると

「ちょっと痛いかもしれないけど
我慢してね」

そう言いながら
チェーンソーを握るしじみちゃんに

怯える暇もないくらい
すごい勢いで

しじみちゃんは
私の首をすっ飛ばした。

私は
自分の血しぶきでおぼれ
カラフルなトンネルをくぐり抜け
目が覚めると…


私は我が家の階段の下で
真っ裸で倒れていた。
あー、私…生きてたんだ…。

頭が
落ちた衝撃でズキンズキン痛むし
血も出ている…

…夢じゃない。

私は我が子と禁忌を犯し
我が子の精神を病ませて
我が子に階段から突き落とされた。


ドアを叩く音が聞こえる

そっか…とおるの彼女だわ…

私はドアを開けると
興奮した彼女が
包丁を持って立っている。

ああ、殺される…
せっかく生きていたのに…

……私ったら
こんな状況でまで
生きていたいの?

なんて図々しくて
厭らしい女なのかしら。

そんな自分が情けなくて
だけど死にたくなくて

誰か私を赦して
誰かとおるを赦して
誰かこんな母と息子を認めて。


私の心は深い闇に侵されて
瞬きも忘れてしまい、

彼女が握る包丁をボーッと見ながら
立ち尽くしていると

彼女の表情が
突然コロッと変わりました。
おっきな目を
さらにおっきくしながら

「それ!」

私の首に下がっているネックレスを
触りました。

「おばさん!これお菓子のオマケだよね?
まだ売ってるの?
小さい頃集めてたの!
なつかしい…」

目をキラキラキラキラさせながら笑った。

…やっぱり
さっきのは夢じゃなかったんだな。
ネックレス見ても
そう思ったし

何よりも
彼女のキラキラキラキラした目が
しじみちゃんを連想させる。

…私も顔が綻んだ。

彼女は
ハッと思い出したように
こう言った。

「あっ、私おばさんのこと殺しに来たのよ!!
とおるとの関係気付いてて…
私苦しくて…
ありえない…
おばさん最低だし気持ち悪い…とおるも…
ん~、でもなんか…どうでもよくなっちゃったな。
私さ~気分屋なのかな。
とおるのこととか、なんかもうどうでもいいや。

B型だからかな!あははっ。


ねっ、
それよりそのネックレスちょうだいよ」


…にっ、似てる。
気分屋なとこも
遠慮なく「ちょうだい」と言うとこも
しじみちゃんにそっくりで…

私はついつい
しじみちゃんとの約束を忘れて

首からネックレスを
外してしまった。


あああ!おばさんのバカ~!


と、
何処かから
しじみちゃんの声が
聞こえたような気がしたんだけど

さほど気にせず
外したネックレスを
彼女に手渡そうとした瞬間、

私は後ろから
我が子にナイフで刺されてしまった。



「母さん、まだ生きてたの?」



そう言いながら
私の背中を抉るように

貫通してしまうんじゃないかと思うくらい
グリグリと私に刃先をさしこんだ。

グボッグボッゲェーっ

私の口から
大量の血が吹き出た。


彼女は
そんな光景を見て
泣きながら

狂ったように

「いやっ…誰かっ…誰か!警察!」

と叫びながら

ネックレスをポトリと落として
外に駆け出して行った。

そのポトリと落ちたネックレスが
私の視界を遮り
地面に落ちていく

とても
ゆっくりに感じた。

しじみちゃんが
「あーあ。」
ってガッカリしてる顔が見えた気がした。


ん…
もういいや…
そうだ、生かされたところで
私はどうするつもりだったのか。
死ねて良かったじゃないか。

誰よりも愛する恋人に
誰よりも愛する我が子に
殺められたのなら
それが私らしい結末。

何を夢見ていたんだか…

元通り
幸せになんか戻れるわけないのにね。

うん。
またあのカラフルな世界へ戻りたい。
しじみちゃんに会いたいな。

だけど
私は罪が重すぎたため、
神様に
真っ暗な闇へと
振り分けられてしまった。

カラフルな世界には行けないし
しじみちゃんに会うことは
二度となかった。

とおるは
私を殺したあの後に自害した。

意識不明の重体

その数日後、死亡。

とおるも神様に
「母を殺した罪」という烙印を押されて
私と同じ真っ暗な闇に
振り分けられた。


また会えたね。
私たちは死んでもずっと一緒で
今も真っ暗な闇の中で
愛しあっています。

赤い夢

赤い夢

授業サボッて

服を脱ぎ捨てて

狂ったように

走り回って

色んな人の墓地にイタズラをして
唾をかけて

服を脱ぎ捨てて

地面の上で
足をバタつかせながら

笑いながら泣いていた

そんな
狂った夢を見たのよ。

また夜が来る

ぼくたちの絆と鎖

ペットの猫がいなくなった。

「ポテト…どこ行っちゃったのかなあ」

そう呟いて
溜め息をつく私の頭を

そっと撫でてくれる明美の手。


明美は、私の親友。


私には両親がいない。

親戚の家で育てられ
あまり愛情に恵まれなかった

そんな私に
兄弟のように仲良くしてくれて

いつだって
守ってくれたよね。

大親友。

…明美と出会ったのは
小学三年生の時で、

私が転校してきてから

もう、
ずっと、ずーっと仲良し。

明美は明美で
幼い時に
親戚の叔父さんにイタズラをされたりと
結構つらい出来事があったみたい。

あれから
あっという間に月日は流れて

傷だらけの私たちは
18歳になった。

…私は
ぼんやりと
色んなことを振り返りながら
上の空になっていると

明美が
心配そうに
私の顔をのぞきこみながら
話しかけてくる

「ポテト…早く戻ってくるといいね」

明美のその一言で
なんだか私は涙腺が弱ってしまい、

明美に抱きついて泣いた。

可愛い可愛いポテト…。

どうか早く帰ってきますように。

また、会えるよね?

明美の胸の中で
そんなことを考えていると
私の携帯が鳴った。

彼氏の雅人からだ。

「あらら~。
いいわねぇ。ラブラブで!
コーヒー持ってくるね」

と、
明美が
私のほっぺたをつついたあと
部屋を出て行った。

…私は
雅人からの電話に出て
ほんの少しだけ
お話に夢中になっていて

ふと顔を上げたら

明美がコーヒーを手に持って
こっちを見ていたの。

私は
なんだかゾクッとした。


口角だけ上げてる明美の微笑みが
怖いと同時になんだか…
毒々しいくらい美しかった。


私は
別に悪いことをしたわけでもないのに、

なぜか
焦って咄嗟に電話を切ってしまった。

そして
明美の方を見たら

明美は
さっきの表情とは
全然違って

ニッコリした優しい顔で

「もう電話いいの?」

と言いながら
私にコーヒーを差し出す。

「うん!明美とお話する方が楽しいし」

私もニッコリ笑いながら
コーヒーを受け取った。

そして、
私は雅人のノロケ話を始めたんだ。

雅人も明美も
小学校の時から、
ずーっと一緒で
仲良し三人組だったからさ。

…ふと思ったの

さっき明美が
あんな怖い表情になった理由…。

まさか明美…
雅人のことが…

そんなことを考えていると
なんだか不安になってしまった私は

明美の手を握りながら

「ねぇ、明美。うちら友達だよね」

と、問いかけた。


返答に怯えながら
恐る恐る明美の顔を見た


「違うよ」


ガビーン!!!

ショックのあまり、
固まっていると

明美は
爆笑しながら言ったの。

「あっはっははは…あー、なにその顔!!
おかしい」

私が
ふてくされていると
顔をグイッと近付けてきた。

「人の話は最後まで聞いたら?
唯花は友達じゃなくて親友!」

…その言葉も照れるし

間近にある明美の整った綺麗な顔立ちにも

なんだか照れてしまって

あぁ、私やっぱり明美のことが
大好きだなって思ったの



話の途中で失礼します!

毎日アクセスしてくれてる人たちありがとうございます(*^^*)

このお話はまだ終わってないので

続き楽しみにしててください!

狂った私をお食べなさい

いつまでも、つづく…

次回もお見逃しなく

狂った私をお食べなさい

軽くて愉快なのに どこか重たい。 狂気に支配されてしまった住人たちの発狂ストーリー。 オムニバス短編集&詩です。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • ホラー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 花子とオヤジとレーズン
  2. いちごの愛
  3. バナナちゃんの恋
  4. 黒い卵とぼく
  5. しあわせ
  6. からふる
  7. 欠損主義者
  8. ハンバーグと私
  9. 狂気的な彼女
  10. 支配欲
  11. 闇の管理人
  12. しじみちゃん
  13. 赤い夢
  14. ぼくたちの絆と鎖